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岐阜新聞 素描 第三話『存在意義が登場人物を呼び込む』 2022年11月16日(水)掲載

中学3年の文化祭で、クラスで何かを発表することになって、演劇をやろうということになった。
その時はじめて、台本を書きたいと思った。
幼なじみとふたりで本を作った。
中学生の群像劇だった。
不良の役で表にも出た。
「おれんた」というタイトルだった。

その次は高校3年、文化祭で。
なぜかまた、クラスメートとふたりで本を作った。
「ふり向くな君は美しい」というサブタイトルだった。
メインタイトルは忘れた。
演出を担当した。
緑色のツナギを着て、当時流行っていたCMのダンスを踊った。

大学に入った直後に、いよいよ熱中した。
他にやりたいことが何も見つからず
下宿にこもってひとり黙々と脚本を書いていた。
「いつかみた柳ヶ瀬」というタイトルだった。

それから何作書いたのかもう思い出せないが、ひどい時には1年に3作書いた。

寝る間を惜しんで書いていた。
書いたばかりの本で稽古をして、
あとは劇団の仲間と飲む毎日だった。

本を書く。
物語をでっち上げる。
そのためには、それにふさわしい舞台が必要で。
そいつが信用できないと、書き始めることは出来なくて。
ひたすら妄想していた。
物語が始まる理由を探していた。


その時間がいちばん長くて、
下宿に閉じこもっていても煮詰まるばかりで
街へ繰り出せば手がかりが見つかる気がした。
金もないのに、劇団の連中と飲み歩いていた気がする。

そいつはとても厄介だったけど
最高の葛藤だった。


岐阜新聞 素描 2022年11月16日(水)掲載 第三話『存在意義が登場人物を呼び込む』


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