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岐阜新聞 素描 最終話『この物語は幕を下ろさない』 2022年12月28日(水)掲載

移住したての頃
この長閑な里山で
のんびりゆっくり時間をやり過ごして
コンピュータのしごとをぼちぼちやって
週に何日かは都会に出て
演劇練習館で急がず芝居を作ろう
ぐらいに思っていた

今の今までそのことを忘れていた

今いま驚いている
まさかのこと。

この10年
そんな生活とは全く違った
いつ忘れたのだろう

2012年

暮らし始めて初めての夏
月に一度
自宅に配布される市の広報誌に
「ミニ行政パートナー募集」という
ボランティアの募集記事があった

翌日締め切りとわかって
思わず次の日に市役所に出かけて応募した
それが始まり

数ヶ月後
その広報誌の「決算特別号」を編集していた

都会で10年ほど広告制作をやっていたので
パンフ作りはお手のもの

名ばかりだが経済学士なので
用意された大量の財政資料を読み込んでも苦にならない

気づけば
冊子の企画構成も
ライティングも
デザインディレクションまでしていた

そして出版後
最終ページを見てみれば
編集後記の最後に書いていた
「道を開きましょう」と

そのひと言
それが始まり

引っ越してきたばかりの
知り合いもいない小市民が
もちろんコネも
資金もなく
勝手に走り始めた

リアルな町に始まったら楽しそうなシナリオ
まるで芝居小屋の板の上で繰り広げる演劇をでっち上げるかのように
書き始めた

そうして町に出た
そうしたらこの町には
そんな人たちがウヨウヨいて
あっという間に
流れに乗っていた

岐阜新聞 素描 2022年12月28日(水)掲載 最終話『この物語は幕を下ろさない』


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