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近頃わたしのお気に入り

 『コレットは死ぬことにした』という漫画を読んでいます。2014年から掲載されていたのですが、私が読み始めたのはつい最近。ただいま5巻を読んでいます。

 伝染病で全滅した村に、たった一人生き残った少女コレット。薬師に助けられてその弟子になり、やがて一人前の薬師になった彼女は、無くなってしまった故郷を目指して旅に出ます。その途中の山の村で、病気のおじいさんを助けたのが縁で、薬師のいないその村に住み着くことになりました。近在の村でたった一人の薬師であるコレットの元には、風邪をひいたり骨折したり、村人たちがひっきりなしに訪れます。寝る間もないコレットは疲れ果て、逃げ出したいと井戸に飛び込みます。井戸を抜ければ、オアシスにたどり着くかもしれない…なんて。
 その井戸は、実は冥府に続いていて、コレットは生きたまま、冥府の王ハデス様に捕まってしまいます。ところがハデス様は病んでいて、薬師の仕事から逃げ出したはずのコレットは、ここでも働くことになってしまうのですが…。

 ファンタジーですから設定は現実離れしています。けれども、主人公のコレットをはじめ、登場人物たちは身の回りのどこかにいそうな人たち。冥府の寡黙なイケメン王ハデス様、コレットの二人の弟子たち、取っ替え引っ替えやってくる村人や、何かと騒がしい神々。ハデス様の部下のユーモラスなガイコツたちも、ゆるっとほのぼのしています。彼らが織りなす日常は、コレットを励ましたり慰めたり、時には諌めたり。登場人物たちが、さまざまな出来事の中で、人のやさしや心のありようを知り、互いの距離を縮めていく様子に、読んでいる私もしみじみしてしまうのです。
 ストーリーの根幹は、コレットとハデス様の恋愛模様。それに本当の悪人は登場しないし、暴力シーンもありません。そんな世界ないわ〜と思いながら、それでも私の琴線に響くものがあって、目下いちばんのお気に入りです。
 誰しも心のうちに抱えているワガママな思いや、未練、後悔とか。そういう負の気持ちも優しく掬い上げて、物語にしてしまう。絵を見て文字を追いながら、その向こうにいる作者の温かい眼差しにホッとしてしまうのです。

 文学史に残るような名作はもちろんですが、ふと手にとったコミックやラノベにも、心惹かれるものがたくさんあります。『コレット』は、今はWEB版を読んでいますが、今度本屋さんへ行ったら買っちゃうかも。私は好きになると、本当に何回も読み返し見返すので、やっぱり紙の本が欲しくなります。ふっと心が疲れた時、一人ぼっちで折れそうになった時、こういう物語がいつも私を支えてくれます。
 だから私も書きたくなってしまう。いつか、どこかの誰かにちいさな微笑みを浮かべてもらえるような物語。私のささやかな夢です。

ご紹介したのは…
『コレットは死ぬことにした』幸村アルト作 白泉社

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