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緑の指をもつひと

 我が家のすぐ近くに、素敵なお庭を作っている知人がいます。
 彼女の手にかかると、どんな花も喜んで咲くような、そんなひと。
 春には、たくさんのバラの花が咲き誇り。
 それが終わると、アプローチにクレマチスの紫や白が揺れる。
 雨の季節には、紫陽花の重い花房に宿った露がこぼれ落ちる。

 あんなふうに、美しい花を咲かせる才を “green fingers”というそうです。
 我が家より少し後に、引っ越してきた彼女。
 最初は羨ましくて、そしてちょっと張り合ったりしてみたけれど。
 今はもう、彼女のお庭をのぞき込むことが楽しみで仕方ない。

 植物も人の子と同じ。
 「喉が渇いた」とか「お腹すいた」とか「虫は嫌い」と話しかけてきます。
 毎日見ていれば、きっとその声が聞こえる。
 彼女はそれをちゃんと受け止めて、水や肥料や消毒をしてあげる。
 でも優しいだけじゃない。
 茂りすぎた枝は容赦なく切るし、これはダメだと思ったらバラだって捨てる。
 そういう冷静な目を持っています。

 そして彼女がすごいのは、空間をデザインする力。
 「適当に植えてるだけよ」って、彼女は言うけれど。
 アーチに仕立てたり、壁に這わせたり、鉢植えにしたり。
 その場所が一番ふさわしいと、最初からわかっていたように花を置くのです。

 そういえば、去年の冬のこと。
 彼女はミカンの木を切りました。それはそれは、バッサリと。
 同じ頃、私もニンジンボクの木を切りました。
 容赦なく、棒を立てかけたように見えるほど。
 そして二人で「やり過ぎたかしら?」と、心配しました。
 今さら枝をくっつけることもできないし、あとはお祈りしよう!と。
 お祈りが届いたのかどうかわかりません。でも…。
 彼女のミカンはまた緑に茂って、私のニンジンボクは紫の花をつけました。

 今、彼女の庭では、小さな小さなひまわりの形をした花が咲いています。
 これが終わったら、きっと来年の春のための準備です。
 その前に、冬にはクリスマスローズがたくさん咲くのよね。
 彼女の指にはとても及ばないけれど、私も球根を植えます。
 来年の春、ひとときカラフルに賑わう庭を思いながら。

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