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月と陽のあいだに 228

落葉の章

ハクシン(9)

「……直接手を下さなくても、あなたは立派な人殺し。一体、あなたのどこが優れているというの?」 

 白玲の言葉に、アンジュは直立したままうなだれた。皇太子は、呆けたように立ち尽くしていた。
「ハクシン、アンジュに命じて白玲を襲わせたことに相違ないか?」
 皇帝が念を押した。
「アンジュに命じたわけではありません。アンジュは私が白玲を憎んでいると知って、私の心を繋ぎ止めるために、白玲を排除しようとしたのです。それは私にも都合が良かったから、お金を出してあげたのですわ。思っただけで罪人になるなら、世の中の人は、みんな人殺しになるのでは?」
 悪びれる様子もなく、ハクシンは言ってのけた。
「そのような詭弁は通用しない。そなたの意志がなかったら、失われる命はなかったはずなのだから」

 お待ちください、と皇太子がハクシンを跪かせた。
「陛下にお詫びするのだ。そなたが直接手を下していないことは確かなのだから、お詫びして反省するのだ」
 自分も跪いて弁明を始めた皇太子を、皇帝が止めた。
「詫びて済むことではない。たとえ我が子であろうと、道を外れたものは正さねばならぬ。それが上に立つものの務めだ。皇太子であるそなたが、法を曲げてどうする」

 皇帝が片手を挙げると、部屋の隅に控えていた衛士がハクシンとアンジュを捕えた。「無礼者」とハクシンは身を捩ったが、縛が緩むことはない。
「白玲、あなたは幸せになんかなれない。あなたのせいで、叔父様は死んだ。本当に叔父様を殺したのは、あなたよ!」
 ハクシンはなおも言い募ったが、衛士に引きずられるように広間から連れ出された。
 アンジュは無言で俯いたまま、抗うこともせずに連行されていった。

「皇太子よ。此度のハクシンの企てに、そなたの意志はなかったのだな?」
 皇帝に問われて、皇太子は当惑した。
「ハクシンをあのような娘に育ててしまったことは、私の落ち度でございます。けれども、ネイサン皇弟と白玲皇女を亡きものにしようと思ったことはありません」
 皇太子は青くなって平伏した。

「左様か……」
 皇帝は皇太子から視線を外すと、残った人々を見回した。
「アンジュは斬首。ハクシンは東の塔に生涯幽閉を命じる」
 玉座から立ち上がった皇帝は、深く礼をする人々を残して広間を後にした。長老や大臣が退出しても、白玲は席を立つことができなかった。

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