令和5年司法試験再現答案 民法(当日評価A)

 司法試験再現答案を時季外れに晒すシリーズ第2弾です。
 民法と後続の商法は、母校で合格者講義を担当した関係でコメント含めそれなりにしっかり作ってあります。が、作成時期が今年3月とかなり遅めなので、ほぼ解きなおしに近いものという前提でご覧ください。
 作成にあたっての参照資料は六法、自分で作成した論証集、当日の答案構成用紙にあるメモのみです。出題趣旨、採点実感や、この問題を解説するような講義には一切触れていません。
 当日点は6割ぐらいだと思います。参考になりますと幸いです。

第一 設問1
 1. 小問(1)
 (1)BはDに対し、甲建物の共有持分に基づき甲建物の明渡し及び賃料相当額の支払を請求する[d1] 。
 これに対し、Dはまず配偶者居住権(1028条1項柱書)を主張することが考えられる。しかし、B、C、Dの間で遺産分割はまだ行われておらず(同項1号)、また配偶者居住権が遺贈の対象になっている事情もない(同項2号)ため、この主張は認められない[d2] 。

 (2)次に、Dは配偶者短期居住権(1037条1項)を主張することが考えられる。Dは「被相続人」Aの「配偶者」であり、DはAの財産に属する甲建物に「無償で居住」していた。ゆえに、Aは「居住建物取得者」Bに対し、相続が開始した令和5年4月1日から6か月間は、配偶者短期居住権を主張することができる(同項1号後段)。
 これに対しBは、DがB、Cに無断で甲建物の改装工事を行い、1階部分で総菜店を始めたことについて、Dに善管注意義務(1038条1項)違反があり、同条3項により配偶者短期居住権を消滅させることができると主張することが考えられる。
 配偶者短期居住権を有する配偶者は、「従前の用法に従い」居住建物を使用する善管注意義務を有する(1038条1項)。甲建物はAの生前、居住用として使用されていた。しかし、Dは甲建物を改築し、商用として使用している。使用目的が変更されていることから、甲建物の改築は「形状又は効用の著しい変更」(251条1項)にあたり、他の共有者の同意が必要であるが[d3] 、DはB、Cの存在を認識していたにも関わらずその同意をとっていない。
 ゆえに、Dには甲建物の使用につき善管注意義務違反が認められ、Bはこれに基づき1038条3項に基づくDへの意思表示により、Dの配偶者短期居住権を消滅させることができる。
 したがって、Dの主張は認められない。

 (3)最後に、DはAの生前甲建物にAと同居していたことから、Aとの使用貸借の合意が推認されると主張することが考えられる[d4] 。
 相続人の一部が被相続人と同居しており、相続開始後も遺産分割協議までは無償で当該相続人による当該不動産の使用を認める旨の合意が推認される事情がある場合、当該相続人と被相続人との間でその期間同一態様による使用貸借の合意があると推認されると解する。
 DはAの配偶者で相続人の一部であり、Aと甲建物に無償で同居していた。また、AがDに対し、A死亡後に甲建物の使用を認めないとしたような事情もない。もっとも、先述の通りDはAの死後甲建物を改築し惣菜店を営んでいることから、Dは同一態様による使用をしていないといえる。ゆえに、AD間の合意が推認されるとしても、Dがその合意と異なる使用をしていることから、[d5] 当該合意に基づく明渡及び賃料相当額の支払いを拒絶することはできないと解する。したがって、Dの主張は認められない。

 (4)[d6] 以上より、Dは下線部㋐の反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことはできない。

2. 小問(2)
 (1)Dによる下線部㋑の反論の根拠は、甲建物がB、C、Dの共有状態にある(898条1項[d7] )ことから、Dに249条1項に基づき甲建物の使用権が認められるというものである。

 (2)これに対し、Bは252条1項に基づき、共有物の「管理」としてDに甲建物の明渡しを請求することが考えられる。もっとも、252条1項により共有者は共有物の管理に関する事項について、過半数持分によって決定しなければならない。本件において甲建物の持分はDが2分の1、B、Cがそれぞれ4分の1である(900条1号)ところ、BはC、Dの同意を得ずに明け渡しを求めているので、過半数持分による決定をしていない。したがって、Bは共有物の「管理」としてDに甲建物の明渡しをすることはできず、Dは請求1を拒むことができる。

 (3)もっとも、DはB、Cと共有している甲建物を単独で使用しているから、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。ゆえに、DにはBに対し、甲建物の賃料相当額のうちBの持分に相当する月5万円を支払う義務があり、請求2を拒むことはできない。

 (4)以上より、Dは下線部㋑の反論により、請求1を拒むことはできるが、請求2を拒むことはできない。

第二 設問2
 1. 小問(1)
 下線部㋐におけるEの主張の根拠は、令和4年10月16日に、EがFに対して同月30日までに本件コイを受け取りに来なければ同月31日付けで契約①を解除する旨告げ、Fが本件コイを受け取らないまま同月31日が経過したことにあると考えられる。
 まず契約①の有効性を検討するに、契約①の目的物は乙池で育成中の100匹の錦鯉全部であり、契約①の締結時から錦鯉を移動させた事情はないため、目的物は特定されており、契約①は有効に成立している[d8] といえる。
 EはFに対し、契約①に基づく本件コイの引き取りを催告し(541条本文)、同時に同月30日までに本件コイを受け取らなければ同月31日付けで契約①を解除する旨意思表示をしている。541条本文に基づく催告の意思表示と、540条1項に基づく解除の意思表示は同時に行うことが認められているため、Eの意思表示は催告および解除の意思表示として有効である。そして、Fは同月30日までに本件コイを受け取っていない。
 したがって、Eの主張は認められる。

2. 小問(2)
 (1)本件コイの代金相当額100万円
 Eは、Fに対し、415条1項に基づき、本件コイの代金相当額100万円の損害賠償を請求することが考えられる。これに対しFは、Eが損害賠償を請求した令和4年11月末において、本件コイの代金相当額は60万円まで下落しているから、Eの請求はその範囲でしか認められないと反論することが考えられる。
 まず本件コイの代金相当額は、Fが本件コイを受け取りに来なかったことにより生じた損害であるから、「通常生ずべき損害」(416条1項)として損害賠償の範囲に含まれる。
 ここで、債務不履行時から損害賠償請求時までに目的物の価額が下落した場合、どの時点の価額で損害賠償額を算定すべきかが問題となる。債務不履行による損害賠償の算定時期は、原則として債務不履行時であると解する[d9] 。
 契約①の締結時、本件コイの相場は1匹1万円であったが、債務不履行時である令和4年10月末には1匹7000円まで下落している。ゆえに、損害賠償額として相当な本件コイの代金相当額は70万円であり、Eの請求はその範囲においてのみ認められると解する。
 以上より、Eの請求は70万円の範囲で認められる。

 (2)釣り堀の営業利益10万円
 EはFに対し、415条1項本文に基づき、Fが本件コイを引き取って入れば営業できた釣り堀の営業利益10万円を損害賠償として請求することが考えられる。これに対しFは、当該利益が損害賠償の範囲に含まれないと反論することが考えられる。
 契約①の解除により釣り堀が営業できなくなることは、「通常生ずべき損害」(416条1項)とはいえないため、「特別の事情によって生じた損害」(同条2項)にあたるといえる。「特別の事情によって生じた損害」を賠償請求するためには、当事者がその事情を予見すべきといえる必要がある。EはFに対し、債務不履行前の令和4年10月16日、乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定にあり、同年10月末までにいったん空にしなければならないと説明している。ゆえに、Fは本件コイを引き取らないことにより、Eの釣堀営業ができなくなることを予見すべきであったといえる。
 したがって、Eの請求は認められる。

第三 設問3
 1. HはGH間の消費貸借契約に基づき設定した抵当権により、LのKに対して有する丙建物の賃料債権を物上代位により差押え(372条、304条1項)をすることが考えられる。これに対しLは、自身が「債務者」にあたらないことから物上代位をすることができないと反論することが考えられる。
 2. 物上代位における「債務者」には原則として抵当不動産の賃借人は含まれない。抵当不動産の賃借人は抵当不動産により物的責任を負担する地位にないため、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供される立場にはないからである。
 もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、または抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、または賃貸借を仮装したうえで、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合は、この限りでない。

3. GH間の消費貸借契約に基づき、Hは丙建物に抵当権を有する。丙建物の賃料は抵当権の目的物を賃貸することにより得られる金銭にあたる。
 ここで、元々GはKに丙建物を契約②に基づき賃貸していたが、β債権の債務不履行を受け、GはLに丙建物を契約③に基づき賃貸し、LがKに丙建物を契約④に基づき転貸することとなった。また、契約②、④における賃料は月25万円であるのに対し、契約③における賃料は月3万円であり、GL間ではその賃料を実際には支払わない合意がなされている。これは、GがHによる抵当権の行使を妨げるために、賃貸借を仮装して、転貸借関係を作出したものであるといえる。
 したがって、Lは「債務者」にあたるから、GはLのKに対する丙建物の賃料債権につき、抵当権に基づく物上代位権の行使をすることができると解する。

4. ここで、[d10] 令和5年5月分の賃料債権と同年6月分以降の賃料債権で物上代位権の行使に差異があるかが問題となるが、物上代位権を行使できるか否かは、抵当権を設定した債権の弁済期の前後により影響を受けないから、両者の結論は変わらない。    以上

 [d1]本来なら、この請求がそもそも成立しているかを検討すべきであるが、下書きを見る限り検討していない。多分どの条文を引くべきかわからなくてごまかしたんだと思う。

 [d2]本番は但書該当(相続人間で共有している)で否定している正誤以前に、要件事実を考えるとこっちの方がよい

 [d3]当日かいたか微妙。ただ、B、Cの同意がないことを評価に影響させるためには必要な気がする。

 [d4]判例法理の明文化が配偶者居住権なので、検討すべきかかなり悩んだが、微妙に要件が違うので一応書いた。

 [d5]当日の書き方に近い。
 本来であれば、使用貸借は貸主の死亡で終了しないこと、Bは貸主の地位を承継しており、Dの使用について594条2項で解除をすることができる(Bも承継しているのでは?)とか、もう少し厳密に書くべきところではある。が、時間がないのでごまかした。

 [d6]設問と結論は対応させる。

 [d7]使用する法律の施行年度について、R6司法試験からルールが変わるみたいです(「司法試験用法文登載法令」参照)
 R5.1.1に公布され、かつ試験日以前に施行されることが確定している内容→R6.1.1に施行されている内容

 [d8]集合債権譲渡担保契約と間違えた。

 [d9]本当にわからなかったのでこれぐらいしか書いていない
 当日メモには売却などによる利益とか予見とか書いてあるけど、それは高騰時の話なので妥当でない

 [d10]もう少し論じるべきではあるが、これぐらいしか思いつかなかった。


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