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三日坊主日記 vol.90 『鐘の音』

近所のお寺から時を告げる鐘の音が聞こえた。
なんだかとても久しぶりのような気がする。


うちのすぐ近所に来迎寺という浄土宗の寺がある。1347年創建で重要文化財なんかもある立派で由緒あるお寺。一般的には座具に残る幽霊の足跡でよく知られている。


1743年、来迎寺の住職のもとに女の幽霊が現れた。江戸の日本橋小網町の大工の妻お石と名のり、「夫が私の臨終に弔いもしてくれなかったので成仏できない。どうか、成仏させてほしい」と頼んだ。住職が座具の上に幽霊を立たせ念仏回向すると、幽霊は成仏した。座具の足跡はその時のものだという。


来迎寺は江戸時代、信徒を増やすため江戸にご本尊の天筆如来の掛け軸を持って行き、開帳していた。幽霊となった女は掛け軸を拝んだ縁で、わざわざ遠く離れた来迎寺を訪れたのではないかと言う。


僕も小学生の時に校外学習でこの足跡を見にきたことがあるはずだ。はずだというのは、記憶がまったく心許ない。小学校から来迎寺まで直線距離で4キロ。交通の便が良くない場所にどうやって行ったのか。淀川の堤防沿いに歩いて約6キロほど。歩けない距離ではないから歩いたのだろうか。今となっては確かめようがない。


今日その来迎寺から久しぶりに梵鐘を鳴らす音が聞こえた。恐らく17時を告げる鐘だと思う。以前は良く聞こえたんだけど、最近は全然聞こえないので、近所からのクレームで止めたのかと勝手に思っていた。



僕がこの家に暮らし始めた頃は、除夜の鐘も打っていた。もう何年も聞かないので、それもクレームで止めたのだろうか。うちからだと200メートルほどの距離だろうか。まったく喧しいとは思わない。もっと近くに住む人には煩いのかも知れないが、せめて年に一度の除夜の鐘くらい鳴らしてほしいと思うのである。煩悩を祓って良い年を迎えたいではないか。

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