シャンプー泥棒~逮捕編

たわしとは別の問題で私は嫌われていた。
私が嫌われていた理由を自分なりに分析してみると、(世の中でこんな哀しい行為はないが)生意気だったのだろうと思う。

私は大きなヘッドフォンを装着し、大きなパーカーを着て、パーカーのフードをかぶり、ギャングのような金色のアクセサリーを身に着けていた。

ヒップホップの詩人に憧れ、彼らの言葉をノートにメモし、彼らが社会に対して向ける牙を、私は目の前の人に向けた。
上手い言葉で悪口や軽口を叩けば、それは笑いになる予定であった。
でも私の言葉は上手いこと相手には届かずに、シカゴの悪者が振り回すとげとげの鉄球のように相手を傷つけた。
もちろん笑いになるはずもなく、私は嫌われた。

私がそんな感じでとげとげしていたのは、少なからず髪質の影響があったに違いない。
ゆるふわの女の子はどの子も何て言うか、ゆるそうでやわらかそうだった。
直毛の女の子はどの子も遊びがなく、窮屈そうだった。
「そうだった」という私の主観的な感想なので、実際のところは違うのだとは思う。
たとえば、ゆるふわの女の子は、やさしそうに見えるけど、本当の性格は直毛の女の子より気が強かったりするし、ねこっ毛の女の子だって、その髪の毛とは別に目を見張る努力を見せる子たちもたくさんいるからだ。
人って見た目によらない。
だから私もヒップホップの詩人に憧れて、とげとげしく見えたかもしれないけれど、本当のところはシャンプーを盗んでびくびくしている小心者なのだ。

そして、私は自分の罪を正直に白状すると、ルームメイトのシャンプーだけではなく、ありとあらゆる女の子のシャンプーを拝借していた。

たとえば、ジムに置いてある彼女たちのシャンプー。
ジムには備え付けのシャンプーが置いてあったが、誰もそんな備えつけの安いシャンプーなんて使わなかった。
みんな自分のお気に入りのシャンプーをかごに入れて、ずらりとサウナ室の前の棚に置いて、それぞれの運動をしに出掛けて行った。

私は運動にはそんなに興味はなかったが、そのずらりと並ぶシャンプーの見本市のようなその棚みたさにジムに通っていた。
夕方の5時過ぎになれば、みんなはシャンプーをロッカーから出し、棚に置いて運動に出かける。
私は誰もいなくなったジムの浴場でシャンプーを物色してよさそうなシャンプーを試した。

私の今の説明では、皆さんに誤解を与えてしまったかもしれない。
皆さんの想像だと、シャンプー2~3プッシュくらいなら何の問題もないのでは?あんなに悩んでいたんだし。
と同情してくれた方もいるかもしれない。

でも私の髪はたわしなのである。
プッシュで数えるなら10プッシュは必要になる。
ということで、私の犯罪は結構発覚するリスクが高い。

現にルームメイトは異常に早くなくなるシャンプーに疑問を抱き、ある時からシャワールームにシャンプーを置かなくなった。
いつもは自分の部屋に置いて、シャワーの時にだけシャンプーを浴室に持ってくるようになったのだろう。
おそらく私が勝手に使っていることは予想がついていたのであろうが、彼女はねこっ毛特有の気の弱さで直接私を糾弾することはなかった。
だけど、ねこっ毛特有のねちっこさで彼女の友達に私への疑いを広め、陰で私のことを「シャンプー泥棒」と呼んでいた。

ねこっ毛のルームメイトは私が嫌われていることをいいことに、私の被害者ということをネタにして、なぜか人気者になっていった。
なぜか人々は彼女に私からの被害の様子を聞きたがったし、その何でもないと思われるような話に大げさに驚いていた。

「えー!信じられない!人のシャンプー使うなんて」
「シャンプーなんて個人的な調合でしょう?イマドキ!」
「同じシャンプーの香りなんてきもちわるいよね!香り泥棒!」
などなど。

時代はひとりひとシャンプーの時代になっていて、香りや成分などを個別に配合してもらうのが普通だった。
そこまでパーソナライズされたシャンプーを人に使われるのは、下着を盗まれるのと同じような気持ちわるさがあった。
私も被害者の気持ちになってみればそれは理解できる。

ということで時代の変化とともに、人々の考えの変化とともに、シャンプー泥棒の罪は徐々に悪質度を上げていった。
最初は下着泥棒と同じくらいに。
そして、次は強姦と同じくらいに。
他に類を見ないほどのムーヴメントとなって私の罪は深刻さを増していった。

そして、ある日私の部屋に警察がやってくる。

つづく

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