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【後編】ボートレーサー版ケンミンショー!!〜個性的なボート選手の県民性をひも解く〜


ボートレース・各支部と県民性をひも解く

ボートレースの選手は、北から南まで18の支部に所属している。ここでは客観的なデータも少々参考にしつつ、本誌の独断で各支部の伝統や特徴、県民性を紹介していこう。皆さん大いに異論はあるだろうが、あくまで本誌の主観的な意見なのであしからず…。

業師が育つ群馬支部

名産の生糸は相場が乱高下するので古来よりギャンブルが盛んな土地柄。かつて両毛線沿いには公営競技全ての開催場があり、選手になる人材には事欠かなかった。
ボート界では長らく、「北関東=業師」と代名詞のように言われてきた。桐生は標高が高くて調整が難しく、また風も強いので、整備の名手や荒天巧者が育ってきた。ベテランになっても接戦に強い江口晃生などがその伝統的スタイルに近い。しかし山崎智也の出現でタイプが変わってきた。毒島誠や土屋智則(父はオート選手)・椎名豊、さらには関浩哉のようなスピード派が主流になりつつある。

協調性を重んじる埼玉支部

江戸時代に日光街道、中山道、あるいは秩父信仰の宿場町として発展した町が多く、現在も首都圏のベッドタウンとして発展を続けている。自己主張は強くなく、協調性を重んじる県民性といわれる。
そんな県民性を反映してか、レーサーとしてはそれほどゴリゴリと勝ちに行くタイプは少なく、戸田の水面特性も手伝ってか自在タイプが多い。またSGレーサーの数は少なくないのだが、一度戴冠を経験するとそれで満足してしまうのか無欲なのか、加藤峻二以来、滝沢芳行・西村勝・平石和男ら、埼玉県の出身選手ではSGV2を果たした選手が現れていない(桐生順平は福島県出身)。

各地から寄り合う東京支部

とても広い地区からの寄り合い所帯。東京・千葉・神奈川はもちろん、山梨や北海道・東北・信越各県の出身者も名を連ねている。
一応支部の各選手には、都内3場で純ホームといえる場がある。例えば江戸川は、いわゆる下町の江東・江戸川・足立区などや千葉県出身の選手。総じて波水面にはとても強い。平和島は大田区や神奈川県出身選手。自在派やペラ巧者が多い。スピード水面の多摩川は八王子や調布・町田、それに山梨県の出身選手もいる。
総じて東京支部の選手は、「センスは感じさせるがあとひと息で勝ち切れない」というタイプが多いようだ。濱野谷憲吾が孤軍奮闘している感があるが、さすがに50歳を迎えて、これ以上の期待は酷だろう。練習機会の確保や希薄になりがちな人脈など、都会ならではの不利もあるが、宮之原輝紀らの新しい世代に将来の東京支部を背負っていってもらいたいものだ。

長く東京の顔として活躍を続けている濱野谷憲吾

アスリートタイプが活性化する静岡支部

静岡県は温暖で、農業資源や水産資源に恵まれており、多くの調査データでは「購買力が日本の平均値より少し上」だそうで、様々な商品のテストマーケティングの地域とするケースも見かける。
静岡支部は、かつてはスタートが遅めな強豪が多かったが、史上最年少のSG制覇記録を作った服部幸男の出現がこの支部を変えた。彼の出現以降、菊地孝平(岩手県出身だが)をはじめ、徳増秀樹・坪井康晴・笠原亮・深谷知博ら、陽性なアスリートタイプが一気に増えて活性化した。

静岡支部を大きく変えた服部幸男

他の支部選手との交流が盛んな愛知支部

戦国の世を統一したのが、現在の愛知県出身である織田信長・豊臣秀吉、そして徳川家康の“三英傑”(愛知県民にはこう呼ぶ人も多い)。そして名古屋は、江戸時代に入っても東西の要所であった。そうした歴史の流れが、愛知県の人は自然と、江戸・東京と京都・大阪両方を常に意識するようになっていったのだろう。
ボート界でもそういう県民性が影響しているのか、他の支部選手との交流も盛んなのが愛知支部の選手だ。本誌でもお世話になったペラの大家・松本進さんは、デカペラや優れたペラの情報を全国の選手に伝えた。逆に他県の出身なのに愛知支部でデビューしたり、移籍してきた選手も少なくない。
また同県南西には選手会の碧南訓練所があり、新人やFをした選手の研修を行うが、同地では愛知支部の選手が指導をするケースが多い。こうした活動を通じても全国の選手との交流が深まるという。

常滑にあった池田浩二メモリアルコーナー

意外に?革新的な三重支部

三重県には伊勢神宮という大きな存在がある。同神宮には昔から常に、全国から新しい情報が集まってきた。それゆえに三重県民の県民性は、保守的かと思いきや、意外に革新的なんだという。
そうした意外に革新的な県民性ゆえか、東日本で最も早く「競艇」に取り組んだのが三重だ。創成期の頃は倉田栄一ら強豪が多かった。その後全国に広がると苦戦のシーンが多くなったが、同支部中興の祖が井口佳典。弟子の新田雄史とともに全国レベルに押し上げた。現在はそれに続くスターの出現が待ち遠しい。松尾拓か豊田健士郎、伏兵は高田ひかるか。

福井支部は寡黙でオリジナリティ

福井は石川と合わせ、長らく京都との関係が深かった。また信仰心が強い地方と言われている。曹洞宗の大本山・永平寺があり、また戦国時代の一向宗による一揆は越前と加賀両国を占拠した。
福井支部は、同県と石川県出身者がほぼ同数。富山県出身者もいる。近畿地区の記者によれば「あまり口数は多くないが、黙々と仕事をする。そしてオリジナリティーのある選手が多い」とのこと。その代表はもちろん今垣光太郎で、中島孝平・石田政吾らは差しの名手。さらに萩原秀人・松田祐季・下出卓矢らの個性派もまだまだ活躍して欲しい選手たちだ。

滋賀支部は充実一途

大津は遠く7世紀に、飛鳥から遷都した近江大津宮が営まれた歴史ある場所。その後も京の都の奥座敷として知られた。派手なことは好まないが、探求心の強い県民性と言われている。
滋賀支部には京都府出身の選手も多く、滋賀県出身者とほぼ半々だ。ボートレースが始まった当初は琵琶湖で選手養成をしていた。
長らく全国的強豪が出なかったが、最近10年は充実一途。守田俊介のダービーV2、遠藤エミによる女子初のSG制覇、馬場貴也のMVPなどのニュースが続き、現在は選手数の半分以上がA級という少数精鋭の支部となっている。

滋賀支部で初めてSGを2勝した守田俊介

王者を育てる大阪支部

古くから商都として栄え、大阪「都」構想など、中央(東京)への対抗心がとても強い。
「競艇の父」笹川良一氏が大阪府出身だったこともあって、ボートレースへの愛着は極めて高い。トップは“王者”気質とプライドが高い。野中和夫→松井繁はその典型で、SGで集中力を見せる石野貴之の勝負強さも光る。
若いうちから頭角を現す選手も多いが、強豪が多く上がつかえていることが多いのは不運ともいえる。またその反面、成績不振で早々に引退する選手も多く、厳しい『競争社会』的な側面もうかがわせる。

SGで無類の集中力を発揮する石野貴之

多様性の兵庫支部

兵庫県は広く、旧国区分でいえば摂津・播磨・但馬・丹波・淡路と5つの国から成り立っており、それぞれに豊かな個性が見られる。
ボート界でも同様だ。人気バラエティ番組「探偵ナイトスクープ」がきっかけで選手になった数原魁のように、人生を楽しむ名人の阪神地区の選手もいる一方で、マイペースな淡路、新しいモノが好きでオリジナリティの強い神戸、さらにコツコツと積み重ねを大事にすると言われる但馬の出身者。このような多様性が兵庫支部の県民性といえるのではないだろうか。

テクニシャンが台頭する徳島支部

徳島は昔から海上交通が盛んで、大阪や和歌山と、さらに明石海峡大橋ができて、淡路や兵庫とのつながりも深くなったという。
そして鳴門といえばやっぱり渦潮。レース場の水面も、改修される前は荒れることも多く、それを克服する波浪巧者やテクニシャン、整備巧者を数々生んできた。中道善博・瀬尾達也から濱村芳宏・烏野賢太・田村隆信らがその代表だ。
かつて「女流王国」と呼ばれた時代もあった。新田芳美に横西奏恵・淺田千亜希、さらに熊本県から岩崎芳美が移ってきて、屈指の層の厚さを誇った。西岡育未・成美姉妹には頑張って欲しいものだ。

濱村芳宏さんの引退セレモニーにて

「瀬戸の大魔神」の薫陶を受ける香川支部

対岸の児島同様に、香川県も昔からボート愛は強く、古くから活躍選手が生まれてきた。とくに貢献度が高かったのは安岐兄弟だ。兄・義晴は長く選手会長を務め、弟・真人は“瀬戸の大魔神”と呼ばれて50代までSGの主役を務めた。現役選手にも、安岐真人の薫陶や影響を受けた選手は多い。
同支部には隣接する愛媛県や高知県出身の選手も数多く所属している。片岡雅裕は今や、香川支部のエース格に成長している。
また香川は、現在の女流王国といえるかも。山川美由紀に平山智加・平高奈菜、さらに中村桃佳も戦線復帰の日が待ち遠しい。

名選手を多数輩出する岡山支部

岡山では、児島の開場当時からボート愛がとても強かった。児島周辺でスポーツが得意な少年は、「体が大きい子は玉野競輪へ、小さい子は児島ボートへ」という合言葉があったとか。競輪選手と縁戚関係のあるボート選手も多い。
史上最多勝の北原友次をはじめ、名選手も多数輩出。黒明良光はそのカリスマ性で後輩選手にも多大な影響を与えた。記念級が多過ぎて一般戦回りになる強豪も多く、結果的に「一般戦の鬼」も多く出た。10年ほど前までは、全選手数の半数以上をA級選手が占めていた。アマチュアボートも盛んで、茅原悠紀らその経験者も多い。

現在の岡山支部のエース・茅原悠紀

赤ヘルの闘魂・広島支部

広島は、戦国の世から中国地区の中心だった。しかし太平洋戦争の原爆で壊滅。それでも戦後のプロ野球復活では広島カープを、貧乏球団から育て上げた。
宮島ボートもまた、戦災復興に向けて開場。北川一成(幸典の父)や矢尾一豊らの闘士が頑張った。そして広島支部の名前を一躍高めたのは、西島義則と市川哲也の両雄だ。西島の炎のイン戦と神がかり的なSG3連覇。閃光のスタートでSGパーフェクト優勝を成し遂げた市川。これに続いたのが辻栄蔵や山口剛だ。赤ヘルの闘魂は、大上卓人・村松修二、さらに高橋竜矢らに引き継がれていく。

令和の革命戦士を待つ山口支部

山口には強烈な県民性がある。いまだに「明治維新は長州から」という自負を持つ県民は少なくなく、政治への関心も強い。初代総理大臣が伊藤博文、戦後も岸信介→佐藤栄作→安倍晋三と、長期に渡って政界に君臨してきた。
ボート界では、今村豊が彗星の如く出現した時は「革命児」「ボート維新」と呼ばれた。確かにその全速ターンは、それまでの常識を一変させたといえる。
これに続いたのが岡本慎治・白井英治・寺田祥ら。ただ4000番台に入ってからはまだめぼしい後継選手が現れていない。令和の革命戦士出現を待つ。

福岡支部は九州全域を網羅する巨大支部

先にも紹介したように、福岡県出身者だけで約200名。さらに大分、熊本、鹿児島、宮崎、沖縄と九州全域から集まってきており、支部全体では250名近い全国一の巨大支部だ。
福岡県内の北九州・筑豊・福岡(博多)の3地区を見ても、それぞれが個性にあふれている。北九州は「頑固で一徹、ギャンブル好き」、筑豊も「自分の興味があることにとことん邁進する」傾向が強いという。一方博多の出身者は「非常に外交的」だそうである。
ここへ「肥後もっこす」や「薩摩隼人」、最近では「うちなんちゅ」(沖縄生まれの人を指す沖縄の方言)が加わり、多様な県民性を見ることができる。
かつては「晩成型が多い」と言われた福岡の選手だが、田頭実や日高逸子(宮崎県出身)らの大ベテランから羽野直也・仲谷颯仁ら若手まで、活躍選手の年齢層も幅広くなっている。

筑豊出身の瓜生正義。デビュー前はオートレーサーも志していたとか

峰竜太がカラーを変えた佐賀支部

佐賀県といえば「葉隠」、武士道の精神は佐賀県民に根強く宿っているとされてきた。さらにある政府統計では、佐賀県の人は仕事に対して真剣で、「仕事をしている時間が全国で一番長い」というデータも認められたという。
ボート界においても、かつては松尾泰宏や瀬戸康孝のように、仕事熱心で長く活躍する選手が多かった。また上瀧和則や深川真二のように、イン屋のイメージも強かったかもしれない。
しかしそのカラーを一新したのが峰竜太の登場だ。彼の出現以来、山田康二や上野真之介らが続き、さらに養成所のチャンピオンが124期・末永和也→125期・定松勇樹(出身は福岡県)→126期・常住蓮と3期連続で誕生するなど、著しくレベルアップを遂げた。定松はつい先日、5000番台初のSGウイナーに輝いた。現在、一番活力のある支部といっても良いかもしれない。

唐津MB大賞のポスター(山田康二と峰竜太)

長崎支部は人と争うのが苦手?

長崎は江戸時代、外国との唯一の窓口でもあった。同時に温暖なため、外交的かつ陽気でのんびりしている人が多いという。
大村は今や日本一売れるレース場となったが、同レース場関係者や地元記者からも「人と争うのが苦手で、選手にはあまり向かないのかも…?」という声も聞かれる。実際のところ、平成以降、長崎県出身のSG覇者は生まれていない。愛知県出身の原田幸哉が同支部所属の選手として勝って、刺激を与えてくれた。今度は『長崎県出身』のSG覇者を見たいものだ。

出身県と支部が離れている選手や移籍した選手たち

出走表を見ていると、支部と出身県が大きく離れている選手を見かけることがある。
最もポピュラーなのは、女子選手の結婚による移籍。浜田亜理沙は広島県出身だが、同期の埼玉・中田竜太と結婚して埼玉支部へ。岩崎芳美(熊本→徳島)もこの例で、熊本代表としてBR甲子園に出場したこともある。
男子選手で多いのは、出身県と離れた場所に勤務した時や、通っていた学校でボートを知ったというケース。松本純平は兵庫県出身だが、早稲田大学に進学後に本誌でアルバイトをしてボートのことを知り、養成所を卒業する際に埼玉支部を選んだ。
古場輝義のように、出身は長崎県、それも大村工業高校を卒業しながら大阪支部に所属、現在は富山県在住というレーサーもいる。
引越しをしても支部を変えないレーサーが多い中、支部そのものも移籍する強豪選手もいる。かつて艇王・彦坂郁雄は静岡支部から東京支部へ移籍したが、矢後剛も同様に、静岡支部から東京支部へ移籍してからSGを手にしている。
長らく愛知支部のエースだった原田幸哉は、2011年に沖縄に引越しをした後も愛知支部で登録していたが、17年に長崎支部へ移籍した。同じく愛知支部だった石川真二はもともとが筑豊の生まれで、父の仕事の関係で愛知県に転居、そこでデビューを果たしたが、13年に“里帰り”して福岡支部に転籍したそうだ。

出身県都市部が大きく離れている選手の例

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