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地テシ:309 「ミナト町純情オセロ」のちょっと基礎知識

「ミナト町純情オセロ」の東京公演もなんとか無事に終わり、まもなく大阪公演が始まります。関西のとあるミナト町を舞台にした作品ですから、いうならば聖地巡礼、いや、それほど大層なものではありませんが、全篇が関西弁で演じられるコトもあってなんとなく帰ってきました感はありますけどね。

今作はもちろんシェイクスピアの「オセロー」の翻案です。かなり改変しているとはいえ、話の大筋は「オセロー」のままです。
つまり、「オセロー」を知っている方がより楽しめるというワケです。もちろん全く知らなくても充分にお楽しみ頂けるのですが、基本的なことだけでも知っておけば、より理解が深まることでしょう。
かといってあまり詳しく説明してしまうとネタバレになる可能性もありますから、今のところはザックリとした解説に留めておきましょうか。


シェイクスピアの「オセロー」では、主人公であるオセローはムーア人という設定です。ムーア人というのは北アフリカ地方の有色人種のムスリムでして、オセローの肌は黒いという設定です。
北アフリカは地中海を挟んで南ヨーロッパとも近く、太古の昔から交流はあったようです。しかし、やはり差別の対象にはなっていたようで、シェイクスピアの「オセロー」でも差別的な表現が出てきます。
とはいえ、オセローはヴェニス公国(ヴェネチア共和国)の将軍なのですから、差別をはねのけて実力でその地位を獲得したということは、相当に強くて戦略に長けていたと考えるべきでしょう。
また、オセローは高潔で思慮深いとも形容されており、真に周囲の尊敬を集めていた存在でもあります。つまり、オセローは蔑まれながらも尊敬されるというややこしい人物像なのです。

これまでにもオセローは有色人種として演じられてきたコトが多かったですし、12年前の「港町純情オセロ」でオセロを演じた橋本じゅんさんも日焼けサロンに通ったり濃いメイクをしたりしておりました。ボードゲームの「オセロ」の駒が白黒なのも、オセローを表す黒とデズデモーナを表す白を象徴しているとも言われていますからね。
今回の「ミナト町純情オセロ」では肌の色については設定されておりません。その替わりと言ってはなんですが、高田聖子さんが演じるアイ子にはそれにちなんだ興味深いセリフもありますのでお聞き逃しの無いように。アイ子が急に肌の色の話を始めるのには、こういう背景があるのです。
つまり、初演でも再演でも「純情オセロ」のオセロがブラジル人とのハーフであるという設定は、原作のムーア人であるという設定を引き継いでいるのです。それがゆえに今作でも若干ではありますが差別的表現もあります。

また、原作のオセローはヴェニス公国の将軍であり、植民地である地中海のキプロス島を襲ってきたトルコ軍を撃退するシーンがあります。要するに、細長い内海にある島を、それを挟んだ両国が取り合っているというコトでして、その設定も今作に引き継がれています。サイズ感は随分小さくなっているし、ヤクザの抗争に変更されてはいますけれど。
このように、翻案されているとはいえ、今作はシェイクスピアの原作を忠実になぞっているのです。筋書きとしては原作と同じように進行します。所々には原作と全く同じセリフもありますし、かなり下品な言い回しが実は原作通りだったりするトコロもあるのが面白いですね。


最後に役名に関する小ネタをいくつか。松井玲奈さんに演じて頂くモナは原作でのデズデモーナにあたり、その父親である名門貴族の名はブラバンショーです。今作では逆木圭一郎さん演じる医者の村板勝(むらいたまさる)にあたります。ええと、村板勝を音読み訓読み交えて読み替えると「むらばんしょう」となりまして、つまり「ブラバンショー」です。ええ、ほぼダジャレです。私も気付いた時には脱力しました。
また、原作でのキプロス島の前総督であるモンターノーは、今作では河野まさとくん演じる紋田典良(もんたのりよし)にあたるのですが、かつて80年代に活躍したロック歌手に「もんたよしのり」という人がいたという事実を知っているとより楽しめます。だからなんだと言われても困るけどさ。


そんなこんなの「オセロー」ちょっと基礎知識。基礎なんだか何なんだか判らなくなってきましたが、知っているとちょっと興味深い知識をまとめてみました。でもまあ、これらはあくまでも上乗せです。何の予備知識も無くても充分に面白いのでご心配なく。
劇団☆新感線にしては珍しく、心情変化に重きを置いた会話劇です。前半には派手なシーンも多いですが、後半になるほどしっとりとした静かなシーンが増えていきます。なのに、続きが気になってストーリーにグイグイと引き込まれていくのが不思議なトコロ。関西の皆様もどうぞお楽しみに!


あ、そうだ。最後にもう一つ。
ブラジルで話されているポルトガル語で《アモーテ(アモーチ)》というのは「愛してる」という意味で、《ポルトギー》というのは「ポルトガル語」という意味だと言うことを頭の片隅に置いておくと、ちょっと嬉しいかもしれませんよ。