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地テシ:312 純情オセロ 聖子さんのアイ子

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さあ、告知も済んだというコトでね、順調に公演を重ねている「ミナト町純情オセロ」大阪公演も残り一週間ちょいになりました。これまでに何度も、いつもとはちょっと違う三宅健さん、松井玲奈さん、寺西拓人さんが見られると書いてきましたが、劇団☆新感線公演としても、いつもとはちょっと違う新感線が見られるというのが重要な点です。
派手好きな我々が、笑いが大好きな我々が、何を思ったかラストには悲しく切なくなってしまうという会話劇を上演しておりますよ。これは中々にレアな公演ではないでしょうか。まだ間に合いますので、ぜひとも劇場にお越し頂いてご確認下さいませ。
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さて、12年ぶりに再演されたけど、大幅に設定が変わっちゃったのでほぼ新作のようになってしまった「ミナト町純情オセロ」について色々と書いてきましたが、今回は高田聖子さん演じるアイ子さんについて書いてみたいと思うんですよ。
実を言いますと、というか、公開されている粗筋の段階でもうバレてしまっているのですが、聖子さんのアイ子の設定が今回最大の変更点なのです。
なお、この先はネタバレという程ではありませんが、キャラクター設定などについても書かれておりますので、気になる方はどうぞお気を付け下さい。


アイ子というのはシェイクスピアの「オセロー」におけるイアゴーの役回りでして、オセローに恨みを抱き、デズデモーナ(モナ)やらキャシオー(汐見)やらロダリーゴー(三ノ宮)やら、とにかくみんなまとめて破滅に追い込んでしまうという凶悪なキャラクターです。
12年前には田中哲司さん演じる伊東郷がイアゴーの役回りでした。長身の迫力と凄みのある演技で周りを巻き込んで、それはそれは見事なイアゴーっぷりでした。オセロ役の橋本じゅんさんに随分と笑わされてはいましたけどね。
ちなみに、伊東郷のアダナは「ミミナシ」でして、抗争で耳を削ぎ落とされ、常に耳当てをしているという設定でした。その獰猛さが故に他のヤクザたちから恐れられている、と。もちろん原作には「耳がない」なんて設定はありません。
漏れ聞いた噂では、青木豪さんが翻案するにあたり、伊東郷の「イアー」が「ゴー」しているなら「ミミナシ」でしょうとなったという説があるのですが、さて本当なのやらどうなのやら。

まあそれはさておき、イアゴーは男性が演じるのが定番です。ていうか、「オセロー」には様々な翻案もありますが、私の知っている限りイアゴーが女性の設定というのは今回が初めてではないでしょうか。
そもそも、今回の企画が持ち上がったのは「高田聖子がイアゴーを演じているところを見てみたい」というアイデアありきなのです。そりゃ見てみたいよねえ。聖子さんが周り全員を手玉にとって言葉巧みに騙していくってんですから。

ただ、イアゴーが女性になることによって様々な変更が必要になります。元々のイアゴーは将軍オセローの部下で、自分がなれると思っていた副官の地位を同僚のキャシオーに奪われてしまいます。それが故にオセローとキャシオーを恨むことになるのですが、もちろん今作では違います。
アイ子はオセロが所属する暴力団の組長の妻です。組長が殺されてしまったためにオセロが組長代理となりましたが、オセロにとってアイ子はやはり《姐さん》なんです。敬愛しているし信頼しているし、頭が上がらない存在なのです。つまり、原作でも12年前の初演でも「下の者が上の者を騙す」という構図でしたが、今作では「上の者が下の者を騙す」という構図になりました。ここが大きな変更点です。
アイ子は《前組長の妻》ということで、周りの者達から信頼もされているし一目置かれています。つまり慕われる存在なのです。そういう人が全員を騙すってんですから凄いですよね。


今回、私が演じる三ノ宮の出番は、そのほとんどがアイ子さんとの二人だけのシーンです。つまり二人芝居です。聖子さんとの二人芝居なんてのは、30年ほど前の「Pas de deux パ・ド・ドゥ」という作品以来だと思いますが、これがまた心地良いんですよ。
二人とも関西ネイティブというコトもあって、セリフの関西弁的言い回しに関しては我々に任されていました。稽古をしながら、二人してよりキャラクターに合った関西弁に変更しながら組み上げていく感じがね、そりゃもう楽しかったですよ。
ニュアンスに関しても、稽古中に足したり引いたり、押したり引いたり。割と自然に出来上がっていったように思います。まあ、ほとんど聖子さんがリードしてくれたんですけどね。実に楽しい稽古でしたし、本番も楽しんでやっております。

ただねえ、一つだけ気になる点がありましてね。といいますのも、アイ子と三ノ宮の二人のシーンは、そのほとんどがセットチェンジのタイミングなんですよ。幕の前で二人が話している間、幕の裏側では迅速にセットチェンジが行われています。できる限り静かに作業してはいるのですが、どうしても音が出てしまいます。これがねえ、二人して芝居をしながら、なんだかちょっと気にはなっちゃうんですよね。まあいつものことですから大丈夫なんですけど。


まあとにかく、二人のシーンは舞台上で、そしてアイ子さんが他の人たちを騙していくシーンは楽屋モニターで、喜んだり怖がったりしながら楽しんでおります。
今作の中心にはもちろんオセロとモナがいるワケですが、その周りを大きく取り囲んでいるのがアイ子なのです。大きな愛で包み込んでいる様に見えながら、実は輪っかを閉じながらキリキリと絞め殺していく壁だったのです。

オセロに対する信頼と失望、愛着と疑惑が交錯し、腹を決めてからは容赦なく絡め取っていくアイ子。切なく歌い上げる「テネシーワルツ」も、派手に啖呵を切る姿も、圧巻の長ゼリフも、まさに聖子さんの真骨頂です。
聖子さんファンのみならず、全ての演劇好きに見て頂きたいと思います。公演は5/1までですよ!