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地テシ:234 「狐晴明」の基礎知識! 陰陽師の術篇

9月17日から上演して参りました劇団☆新感線「モフ」こと「狐晴明九尾狩」も、いよいよ来週11月11日に千秋楽を迎えます。無事に迎えられたら良いなあ。迎えたいなあ。時空戦隊ムカエタイナー。ありそうな特撮番組だけどないなー。

そして! なんとディレイビューイングも発表されましたね!

先日行われましたライブビューイングの映像をそのままお送りいたしますので同内容ではありますが、ご覧頂けなかった方にも、もう一度見たい方にもオススメです。公演が終わってしまっても「狐晴明九尾狩」がもう一度お楽しみ頂けるってコトですよ!


さらに! 「偽義経冥界歌」の方ですが、漢字六文字でややこしくて申し訳ありませんが、といっても私のせいではありませんが、博多座での[先行]特別上映会&トークイベント「幻興行冥界甦」まで決まってしまいました!

なんということでしょう! 昨春無念の公演中止から一年半を置いて博多座で偽義経が蘇ります。福岡還暦コンビも登壇ですって! 福岡勢の皆さま、どうぞよろしくです!


さて、また話が戻りまして「狐晴明九尾狩」の方ですが、漢字六文字でややこしいのでもう「モフ」でもよいのですが、長らくお届けして参りました「モフ」の基礎知識講座も今回で最後ということになります。だって公演が終わってしまうのですからね。
最終回は「陰陽師の術」篇です。

まず、大前提と致しまして「モフ」に出てくる陰陽師たちはフィクションであるというコトを忘れてはいけません。いや、そりゃエンタメ舞台なんですからそうでしょうけど、改めて書いておかないとややこしいコトになるかもしれないからね。
今作で陰陽道指南をして頂いている高橋圭也先生もtwitterで度々書いておられますが、平安時代の陰陽師は国家公務員の占い師です。卜筮相地を行うコトが本来の業務です。

ですので、これから書きます事柄は、あくまで今作に於けるフィクションとしての陰陽師の術についてです。また、いくつかの解説本から得られた知識を私なりに咀嚼して短くまとめたモノですから、正確性に欠けるものであるコトはお含み置き下さいませ。

といった前提を書いた上で、いくつか解説していきますよ。


まず、陰陽師が唱える呪文について。
今作では安倍晴明や賀茂利風が様々な呪文を唱えます。真言とか九字とか、まあなにやら呪文のように聞こえるアレですが、実際の真言もあれば、中島かずきさんが創作した真言もあれば、本物っぽい贋の呪文もあります。
呪文には、状況にもよりますが実際に効果のあるモノもあります。卑近な例でいえば「やれば出来る」みたいな言葉を何度も呟くと上手くいったりするコトがあったりするじゃないですか。あれだって言ってみれば呪文の一種です。
強力な呪文によっては、なにかマズいことが起こる可能性があるので、ニセモノの呪文も混ぜてあるというワケですよ。

そんな中で、一つだけご説明しておきたい呪文がありまして、それが「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)」なんです。陰陽師が唱える呪文として一番有名でして、今作でも何度も口にされますよね。
読み下せば「急いで急いで律令の如く」となりまして平たく言えば「すぐに命令に従え」という意味になります。元々は中国の漢の時代に、命令の伝達が余りに遅いので命令書の末尾に添えられた言葉だといいます。それが伝えられる内に呪文の最後に唱えられるようになり、いつの間にやらそれ単体で《悪魔払いの呪文》の様になってしまったのです。
ですが、本来は長々と唱えられた呪文の最後に添えられるべき文言です。呪文の対象に対して従うべき命令を述べた後に「すぐに命令に従え」と締める言葉です。ですがまあ、なにやら勢いも良いので、それっぽい雰囲気を出すための言葉だと思って下さいませ。

続いて「式神(しきがみ)」について。
今作では何人、かな? 何体、かな? まあとにかくちょいちょい式神と呼ばれる存在が出てきます。作中では「人にあらざる者」とか「幻みたいなもの」などと説明されています。
陰陽師の出てくる物語などでは、人型(あるいは動物型)に切った紙に念を込めると実体化して、自由に使役するコトのできる者として登場します。今風に言えば自律型ロボットみたいなものですかね。ルンバみたいなヤツよ。
しかし、式神というのは本来は陰陽師以外の人には見えない存在のようです。晴明は実際に式神を使うのが上手だったと書かれた文献もあり、雑用や掃除をさせていたんだそうです。そりゃ便利だな。
今作では姿の見える存在として、晴明の身の回りの世話をさせたり、自分の身代わりとして行動させたりして、なんとも便利に利用されていますが、舞台での物語を面白くするために拡大解釈されているのだと思ってお楽しみ下さいませ。
ちなみに、村木仁さん演じる式神の「牛蔵(うしぞう)」が懐かしの「ミル姉さん」に見えるのは私だけでしょうか。


次は「破敵剣(はてきけん)」と「護身剣(ごしんけん)」について。
なんだかカッコイイ名前なんで、物語を面白くするために中島かずきさんが創作したように思えるかもしれません。ですが、これが驚いたことに実在したとされている神剣でして、百済(今の韓国南西部)から貢献されたとも言われています。朝廷が儀式に使う大刀契(だいとけい)に含まれ、かつては「三種の神器」とともに皇位継承の際に伝承されたほどの重宝です。
火災で焼失したこの神剣を当時随一の陰陽師であった賀茂保憲(かものやすのり)が再鋳造した時に、弟子であった安倍晴明も手伝ったとされています。ですから晴明もこの二振りの剣と因縁浅からぬ仲でもあるのです。
さすがに破敵「陽輪」剣とか護身「月光」剣という名前は中島さんの創作でしょうが、陰陽師が儀式の際に剣を使うこともあったようですので、晴明が剣を使うのもあながちハズレでは無いかもしれません。まあ、あれほど腕が立つかどうかは判りませんが。
なお、物語終盤に出てくる《ある素材を打ち直して造られた強力な剣》は、戯曲では「邪念剣」となっており、舞台裏でもそのように呼んでいます。ただ、あの素材だと多分柔らかすぎて剣には向かないと思うんですけどね、私は。


最後は「泰山府君祭(たいざんふくんさい)」について。
こちらも中島さんの創作ではなく、実際に陰陽師が行ったと言われる儀式でして、安倍晴明が編み出したとも言われています。
泰山は中国の山東省にある山で、この東岳泰山には人の寿命を司る神が住まうとされており、その神様は中国では東岳大帝として信仰を集め、日本では閻魔大王とか素戔嗚尊とかとも同一視されたりもしてきました。
本作では陰陽師の秘技として死者を生き返らせる儀式として登場しますし、漫画とかアニメとかの作品でもそのようなカンジの、なにやら妖しげでスーパーな効果がある術という扱いが多いようです。そんなワケで泰山府君祭といえば死者を蘇らせる技という印象があります。
しかし、平安時代に晴明が実際に行ったのは、健康長寿を祈り延命を願う儀式だったようです。死者が蘇るというのはねえ、いや、さすがにねえ、ちょっと難しいと思うんですよ。でも、この泰山府君祭は晴明の子孫である土御門家の得意とする儀式として代々伝えられていったんだそうですよ。


そんなこんなの陰陽師の術。なんだか駆け足になってしまって申し訳ありません。ホントは「五芒星」についてとか「四神の色分け」についてとかも照明の話と絡めて書きたかったのですが、さすがに時間がありませんでした。舞台のスケジュールは結構タイトだし、他の締め切りとかもあるし、ゲームはしなくちゃいけないし。ええ、しなくちゃいけないんですよ。ですので、これらについてはまた機会がありましたら解説してみたいと思います。
思いはするのですが、とりあえず「モフ」についての基礎知識講座はこれで終わりです。長らくお付き合い頂きましてありがとうございました。
今作を見て陰陽師の世界が気になった方は夢枕獏先生の「陰陽師」シリーズなどをお読み頂ければと思います。今作とはまた違った安倍晴明に出会えますよ。


さあ、「モフ」も残り5ステージ。なんとか完走できるように気を引き締めて参ります。完走したいなあ。特急戦隊シタイナー。こちらもないなー。