『狭き門』からの引用

《人生には、往々にして、われらに禁じられてはいても、せめてそれの許されることを望むことが当然であるような、親しみ深い快楽、こころよいいざないがある。こうした大きな魅力は、徳をもってそれをしりぞけうるといった魅力がないかぎり、なかなか克服しにくいものである》

わたしは今ここに、なんの必要があって弁解などを考えついたのだろう?それは、愛にもまして力強い、より優しい魅力が、ひそかにわたしをひきつけているからだろうか?ああ、愛によって、そして愛を立ちこえて、わたしたち二人の心を導くことができるなら!…

ああ、今わたしには、このことがわかりすぎるほどわかっている。神と彼女のあいだには、わたしは障害になっているのだ。彼女がわたしに言ったように、わたしの愛が将来彼女を幸福にするにしても、今彼女の妨げになっているのは、その愛の気持ちなのだ。わたしは彼女にこだわり、神よりも彼女を愛し、しかも彼女はわたしにとって一つの偶像になってしまい、彼女が美徳へ向かってもっと深く歩み入ろうとするのを引き止めている。どうかわたくしに、彼女を愛さなくなるような力をおあたえください。