象徴的日記 2017.4.9

その一手を打った時に、局面が大きく変わったことに棋士は気づいていた。単なる凡ミスだった。しかし、それは致命的だった。その後、棋士にできたことはなんとか延命するための措置に過ぎなかった。

ただ、相手も甘くない。ミスを見逃すことなく、その対局は順調に終局に向かっていった。棋士はもう途中から負けることは覚悟していた。それでも最後まで負けを認めたくなく、できることを少しでもしたいと思った。対局は自分の人生の中で最も大切な時間だから。彼は哀れさを自覚しつつ、身を切られるような思いで、駒を進めた。その結果、時間は無情に過ぎていった。

とうとう、どこにも打つ手がなくなってしまった時に、「参りました」と棋士は不甲斐なく頭を下げた。後になって見返した棋譜は酷いものだった。仲間も今回の対局は君の人生の汚点だろうと言った。たしかに酷い負け方だった が、彼は汚点とは考えなかった。多くのことをその対局は教えてくれた。ただ一つ、凡ミスをしただけだ。そして、それが命取りになったのだ。