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In Motion 2010 僕が旅にでる理由

佐野元春 & 井上鑑ファウンデーションズ
30周年アニヴァーサリートゥワー Prt1 初日 2010年8月5日 福岡イムズホール

80年代中期のアメリカ。ニューヨーク、「ニューヨリカンポエッツカフェ」を中心に、スポークンワーズというムーヴメントが興きた。90年代、日本国内では人気タレントの木村拓哉が“俺のバイブル”と称してジャック.ケルアックの「路上」を推薦したり、また「詩のボクシング」と言うポエトリーリーディングイベントが各地で開催。スポークンワーズとは言わば言葉の復権、端的に言えばそういうムーヴメント。

ジャック.ケルアック、アレン.ギンズバーグ、ウィリアム.バロウズ…and more。彼らはビートニクと呼ばれ、その作品は1950年代のアメリカ的実存を謳っていた。彼等にとって詩はたんに書かれて印刷されるものではなく、肉声の演技によって伝えるべきものであった。

「ビート」は口先だけの言葉ではなく、人々を振動させる行動を伴った言葉である。

僕がこのスポークンワーズというムーヴメントを知ったのは、『STUDIO VOICE』と言う雑誌で、90年代の半ばくらい。佐野元春さんの「エレクトリックガーデン」当時は、この作品がスポークンワーズだと言う認識はなかった。その雑誌の表紙はボブ・ディランで、特集こそがまさしくポエトリーリーディング、すなわちスポークンワーズだった。当時僕はディランを聴き始めてまもなく、なかば衝動買いだった。いやいや、だってそのディランの写真カッコ良かったんだ。何かのきっかけでケルアックは知っていたが、そこではじめてギンズバーグやバロウズを知った。

‘80年代初頭。例えば、ヒップホップ。例えば、スポークンワーズ。この二つのムーヴメントが始まったその時、ニューヨークに居た佐野さんは当然のごとく、すぐさまそれにレスポンスする。

オーディエンスと真摯に向き合うソングライターこそが、現代の詩人。佐野さんはそう言う。実験的な試みであった‘85年の「エレクトリックガーデン」、そして2001年から始まったスポークンワーズライブ。紛れもなく佐野さんは現代のビートニク、現代の詩人の一人である。

スポークンワーズ、とりわけポエトリーリーディングのイベントが開かれるのは熊本ではまったく稀で、ほとんど記憶がない。福岡ではどうだろう?これが佐野さんのライブでなくても、僕は参加していただろう。

佐野元春レコーディングアーティストとしてのデビュー30周年アニーバーサリーツアー パート1として今回開催されるスポークンワーズセッションツアー。福岡公演はその初日。3つの違ったバンド、3つの違ったパフォーマンス。そうオフィシャルウェブにも記載されているように、今回のツアーはいつもの“友達”(佐野さん曰く)ではなく、井上鑑ファウンデーデーションズというスポークンワーズセッションのために集った仲間たち。去年のCOYOYE BANDにしてもそうだったが、いつもの“友達”以外とのセッションは非常に楽しみ。

仕事の行き帰り。最近の僕のBGMは『Spowken Words Collected poem』。そして自宅では『in motion 2001』がヘビーローテ。ツアーが始まる週の元春レディオショーで特集が組まれたのが、福岡セッションの2日前。この中で、ポエトリーリーディングの作品の一つ一つを“曲”と言っていたのがとても印象的だった。

会場は福岡天神にあるイムズホール。(ビブレではなくてイムズだよ。)ファッションビル内にあるホール。すでに前売りチケットは今回ライブがある会場はほぼソールドアウト。一日2回公演があるところで、かろうじて残りがあるくらい。福岡公演では立見券の当日券が出ていた。今回チケットも昨年のCOYOTEツアーと同じく福岡の友人にお願いして、その方の御尽力で幸運にも2列目が僕らの席。もう一人。会場で合流した方はCafé Bohemia以来のライブだと語っていた。僕自身はこれで通算10本目。なにげに佐野さんのとWアニバーサリー(笑)。

一曲目はなんだろう?定刻から8分ほど遅れて客電が落ちる。井上鑑ファウンデーションズメンバーの中にはなじみの顔も。フォーンセクションの山本“タクチャン”拓夫さんだ。今回唯一のいつもの友達。バンド編成はヴォーカル?じゃないよな。佐野さんを入れて5人。メンバーは鑑さんがセレクトしたそうだ。スポークンワーズセッション「in motion」シリーズは過去2001年植民地の夜はふけて、2003年増幅と2回行われ、オリジナルメンバーでのライブは2001年以来。今回は「僕が旅にでる理由」というサブタイトルが付いた。

ファウンデーションズの他のメンバーはみんなTシャツなのに、佐野さんだけは白いシャツにベスト着用。ツアー初日。登場した佐野さんは笑みを浮かべてはいたが、やや表情が硬いかな?センターマイクの側には譜面台が置かれ、それだけでもういつもエレクトリックギターをかき鳴らしてのウェへへーイなロックンロールのライブとは違う。真夏の即興演奏という一編のある曲もあったが、バンドのパフォーマンスは全般的にジャズをベースとしている。

今回ライブはその性格上、2時間3時間といった風にはならないと初めから思っていた。ファンクラブ会報誌によると1時間10分くらいと佐野さん本人も言っている。そうなるとどうだ。パート1、パート2合わせて9分近くある「リアルな現実 本気の現実」はないか?いや、あったら演目少なくなるし。2曲目が始まった時、イントロを聴いて一瞬「リアルな…」と勘違いしたが、実際は違って「再び路上で」。ハイ、僕はムトウ派です。(そっちのムトウ(無糖)ではなくて。トゥイッター上のこの“ネタ”。だれも突っ込まなかった。涙)

佐野さんの予告どおり。ライブは1時間10分くらい、「何が俺たちを狂わせるのか」で終わった。アンコールを求めるオーディエンス。客電は着かないのでまだ終わりじゃない。ただ、ライブの性格上、アンコールはあるのか?僕はそう思っていた。

バンドが再びステージに登場する。佐野さんのこの夜初めてのMC。アニバーサリーということで、みんなに楽しんでもらえるようなアニバーサリーにしたい。これは年末のレディオショーでも語っていたことだ。

「このようなスポークンワーズのライブ、初めてだと思うけど、皆さん楽しんでもらえてますか?僕は楽しんでます。」

そして曲名を告げ、「もう一回やるよ!」と佐野さんは嬉しそうに言い、ツアーの幕開けとなる第一曲目の「ポップチルドレン」を再度リーディング。

初めのうちは曲数カウントしていたけど、途中から佐野さんのリーディングに聞き入ってしまった。バンドの奏でる演奏と、僕は同化していた。

レディオショー特集の中で鑑さんは「佐野さんはディランなんだな、と思いました」と語っていた。今回唯一、佐野さんがギターを手にする曲がある。その時の佐野さんを見て思った。

ああ…!分かります。佐野さん風に(笑)

本編中。おそらくあれが「僕が旅にでる理由」。僕は少しだけ涙をこらえて。だけど、野ばらの蜜は集めなかった。

ライブもラストに近づいて。オーラスの前の曲(日曜日は無情の日)が終わった時のタクチャンの笑顔が凄く印象的で、いつものライブとフォーマットは違ったけれど、佐野元春はやっぱり佐野元春だった。吠えてたし(笑)。

そして僕にはスポークンワーズのライブさえも、佐野元春のロックンロールだった。

できれば、今後もスポークンワーズのツアーをやってほしいけれど、おそらく今回がツアーとしては最初で最後だろうと思う。だけど、機会があれば、また!

※2010年8月執筆

#佐野元春 #ライヴレポート

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