第8話 プロパガンダ

アサミが見せてくれた写真の男、坂本とは何度か会ったことがある。台風の夜、緊急搬送される2年前のことだ。
友人のカフェに行くと居合わせることが多く、何度目かの時、坂本から声をかけてきた。

「よくお会いしますね。はじめまして、というのも違うかな?坂本です」

「内川です」

坂本さんは環境保護活動をされていてね、とカフェのマスター。

「ここのカレーが好きでしてね、よく利用させてもらってます」

この店の特製カレーがうまいと評判だ。

「有名ですよね。僕はまだ食べたことないけど」

そうなんですよ、まったく酷い話だとマスターがいうと3人に笑顔が溢れた。


「よかったら今度事務所にお越しください。我々の活動を紹介します」


数日後、名刺記載の住所を地図アプリで検索して坂本たちの事務所を訪れた。こじんまりとした事務所で坂本を含めてもスタッフは4人しかいない。


「東北で大地震が起きたあとの原発処理水の問題での当時の政府、総理大臣の対応がきっかけで。あれはどうみてもお粗末だった」


これまでも政府にさまざまな提言をしてきたがまったく相手にされなかった、と坂本は諦めにも似た表情で、だが、賛同者も増えていったといった。


「中には行き過ぎた人たちも出てきましたけど、自分たちのやってることの必然性はある」


そう話す坂本は誇らしげだった。しかし、例え環境に少しでも影響があると知りながらも利権が絡む一部の人間には坂本たちは目障りになってゆく。

まったく違う事柄で取材に応じたある閣僚にいたっては、名指しはさけながらも批判めいた発言をし、メディアもそれに追従して坂本たちを擁護していた知識人、専門家たちはいつの間にか表舞台から消えてゆく。

なにか影で大きな力が働いている。だが坂本は屈しなかった。


また別のある日、坂本たちは街頭での活動の最中に真自由連合と名乗る連中と鉢合わせとなり騒動の発端として坂本をはじめ数名が逮捕される。しかし誰の目にも誤認逮捕は明らかで世論に押されるかのように早期釈放された。

この真自由連合こそが現在の内川たちの追手の元となる集団である。この当時はまだ武装化しておらず、従って治安維持軍も組織されていない。

誤認逮捕に対しての警察見解は出されず、総理はお得意の「誠に遺憾である」と述べるだけ。


「歴史が証明してくれる、のかもしれません。だが、それでは遅すぎる・・・」


後日、そう話していた坂本の姿を覚えている。


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