見出し画像

公園にて、青ジャンパー(あるいは)ぐるぐるおばあちゃん【Sandwiches #32】

 あまりにも部屋から出ない、かといってエクササイズなんかをしてるわけでもない怠惰なわたしです。目に見えて肉体の衰えを感じ、さすがに多少の運動はせねば! がくがくがく、と昨日、久しぶりに近所の公園までお散歩に出かけました。久しぶりのハット、久しぶりのスニーカー、久しぶりのトートバッグにノートとペン。もちろんマスクはしっかり着用して、それでもなんだかうきうきであります。

 その近所の公園というのがそれなり広大で、団地や低山をまたいで枝分かれした樹木か、あるいはアメーバーみたいなかたちをしておる。いつもは家から近い入り口付近のエリアしか足を踏み入れたことがなかったのやけど、昨日はもっと伸ばして山の方までウォーキングしました。

 入り口の看板や、あるいは遊具(すべてテープで固定され、使用できないようになっておった)など、いたるところに「公園の利用を自粛してください」と大きく書いた札がかかっています。とまれ土曜日ということもあってか、野球やサッカーにいそしむ少年たち、芝生の上でピクニックをしている家族連れ。距離感はまばらなれど、少しでも開放的な気分で、ありあまるエネルギーを発散せんとする人びとであふれていました。

 わたしははじめに遊具ゾーンを抜け、ぶらりと貯水槽や、人口の小さな滝(のようなもの)を覗きこみながらひとり歩き、自販機でペットボトルのお茶を買い、それに口をつけながら奥の方、くだんの山側へと移動しました。ゆるやかな坂道をのぼるにつれあがる呼吸と、嫌な痛みを訴えはじめる足首よ……あまりにも情けない! この数ヶ月の間に鈍ったマイ・ボディ、その錆つき具合をまざまざと突きつけられた。そこでハアハア、息を切らしてスロープを登りきり、途中の広場にあったベンチで休憩をとることにしました。ノートとペンを取り出し、しばしの創作タイムです。

 そう、ここで明かせば今回の外出の目的はエクササイズだけではなかったのでした。わたしmaco marets、Rapperという肩書きで活動しておる以上は曲を書くこと、それが根幹となるひとつのワークなのですが、ここでお恥ずかしい告白をすれば、最近めっきりいいRapが書けない、俗にいうスランプのような状態に陥っていた。この #stayhome シーズンのあいだ、本を読み漁り、映画やドラマ、ゲームに没頭し、十分すぎるほどの入力作業を繰り返してきた、それにも関わらず出力がうまくいかない、こらどうしたことか、およよよ、と頭を抱えていたのだけれど、たぶんおそらくメイビーぜったい、部屋に閉じこもっていることが原因だと感づいたのであります。

 要は頭でっかちになっていたのやね、いくらすてきな文章、すてきな映像からすてきなイメージを取り込んだとしても、それはおそらくよ、より情報過多な、実際の生活での「生きる営為」を通さぬかぎりは消化・吸収できないのだ。ごろりごろり、食っちゃ寝食っちゃ寝しているばかりのワンルーム! その閉鎖空間においては、せっかくのイメージもたしかな手触りをもったものとして現れてくれぬ。よりひらかれた場で、五感と結びつけてそれらを咀嚼せねば、とそういうわけです。

 そんでもって公園のベンチでペンをにぎってみれば、がぜん、目に入る景色耳にすべりこむ音おと鼻をくすぐる雑多な香り、それらがとてもとても豊かなものとして迫ってくるもんで、やあ、単純なものです。さらりさらり、スーイスイと一曲書けてしまった。

 すこし離れた場所には青いジャンパーをきたおじさんが、しわがれた、しかしパワフルな大声で「この大空に翼を広げ飛んで行きたいようう」と、『翼をください』を熱唱しておる。また、ひとりのおばあちゃんが、なぜか僕の前をなんどもなんども通り過ぎる。なんでや、と思って観察していると、30分以上もぐるぐる、ゆっくりとこの広場を歩き回っておるみたい。おそらくエクササイズなのね。それからあっちでは、小さな男の子が「猫がいた! 猫がいた!」大騒ぎ、父親と、小さな妹を巻き込んで捜索をはじめている……とかく、あらゆることがらが妙に愉快ゆかい、マスクの下のほおがゆるんで仕方なく、不思議な心持ちでありました。

 万歩計でみれば所詮5000歩もいかぬ短いウォーキングやったのだけど、帰宅後はものすごい筋肉痛で(ほんとに情けないやあね!)、それでもそんな痛みもなんだか愛おしく、やや、これまで自覚なくおのれを監獄に閉じ込めておったのだなと思った次第。もちろん「不要不急」の外出はまだまだ避けないかん、油断のならない状況ですけれどもね、偶のお散歩っていいですね。

 新曲には青いジャンパーのおじさんか、ぐるぐるまわるおばあちゃん、あるいは猫をさがす小さな男の子が登場するかもしれません。

●本日の一曲

 お散歩中、なぜだかこんなイメージやった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?