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あざやかなる、ナイゾウツウ【Sandwiches #42】

 いたたたた、とにかく首すじから右肩にかけてひどい痛みで、これはなんやろか、寝違えたんか。ここ数日、原因もわからぬままにその激痛に苛まれ、悲しみと苛立ちのなかにずぶり沈んでおります。

 ちょいと体を動かすだけでひきつれたように痛むもんやから、こうしてキーボードを叩いている今もずきり、ずきり、ずきり……たまらんのだ。最初は脱臼したのかと思ったけれど、それなら動かないものねえ。ぜんたいたまの「痛み」っちゅうのは生の実感を与えてくれるもんで歓迎だけど、こうもわけのわからんままにずっと続くとね、もういいよお、とうんざりです。

 痛みといえばわたしはこの四半世紀、二度ほど入院した経験がありまして、一度目は小学三年生、九歳のころの話やった。詳細は省きますが車同士の接触事故で、ガラスの破片を大量にあびた少年maco maretsは全身血濡れのまま搬送され、結局しばらくのあいだ包帯ぐるぐるのミイラ人間状態に。

 先日久方ぶりのそのときの写真を見つけたのですが、目も当てられないとはこのこと、インターネットへのアップもはばかられる悲惨な姿でありました。実際、いまでもわたしの顔や足にはそのときの縫い跡が残っており、中・高校生のころなんかは外見へのコンプレックスとして薄暗い思いをしたけれど、まま、いまはへいちゃらです。

 それでひとつ不思議なことに、この事故についていえば「痛かった」という記憶があまりない。びっくりするほど出血し、泣き叫んだことは覚えているのやけど、これはもうあまりのことに幼い感覚が麻痺してしまっていたのやろうか? 文字通り身を切られる思いをしたのだから、もっと凄惨なメモリとして刻まれていてもおかしくないのにね……むしろ強烈な痛みを覚えたのは高校二年生・十七歳のとき。虫垂炎(盲腸)によって、二度目の入院を経験した際のことでありました。

 そのころ、謎の腹痛に苦しめられていたわたしは近所のお医者に行くも取り合ってもらえず(こりゃヤブやった)、そうこうしているうちに痛みは限界を超え、ある日学校の授業中に倒れてしまいそのまま緊急入院! 次の日には手術でお腹を開くことになった。「爆発手前でしたよ」なんてお医者様が言っていた記憶もある(たぶん「破裂」でしょうね、バクハツなんて普通使わないものね)が、とかくこのとき得た痛みは恐ろしいもので、いまだに思い出すだけで下腹部がずきりとうずきます。その度に、切開のあとをなぞっては「ああ、でもおれにはもう盲腸がない、だから大丈夫だ」と息をつくわけですけれど、ほんと、二度とはごめんだで。

 ちょっぴしWebで虫垂炎をしらべてみたところ、症状の進行度合いにあわせていくつもの痛みの種類があることが知れました。「関連痛」「内臓痛」「体性痛」「反跳痛」など、や、ことこまかく痛みを形容する語彙の豊富さには感嘆してしまいます。とくに「内臓痛」! みるからに痛そうですが、ちぎれそうなくらい恐ろしい感覚、あれはたしかに「ナイゾウツウ」やった、それくらいヘヴィな手触りのことばでなければ言い表せない種類のそれやった。

 日々抱くえもいわれぬ諸感覚に、より解像度の高い実感をあたえてくれるようなことばのはたらき。それはまた別の言い方をすればレッテルを貼ることによる陳腐化である、と、そんな場合もあるのでしょうが、いくら「壮絶な痛み」「恐ろしい痛み」「天地がひっくりがえったような痛み」などオーバーな形容をしてみても「内臓痛」! それ一語のもつクリティカルな響き納得感にはかなわないのです。もちろん医療従事者の方に言わせれば「単なる教科書的一単語」でしかないかもしれぬ、こりゃあくまでトーシロの感想ですけれどもね。

 この虫垂炎事件による軽いトラウマもあってか、痛みを放置することに関してはナーバスなところもあるわたしです。なかなか治らぬ肩のそれも、せめて適当なことばでその正体を見定めることができればよいのに、その作用を利用して、意味と一緒に痛みの実感そのものも陳腐化できたらいいのに、とか、とりとめもなく考えたわけでした。なんか、こう、「肩砕痛」とか、「首折痛」とか、ないかね。ないか。

●本日の一曲

お風呂に入ったら痛みもやわらぐかしら? Kehlaniの新作『 It Was Good Until It Wasn't 』、スムースですてきでした。

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 昨日もたくさんのお便りありがとうございました。以下、返信コーナーです(今日掲載できなかったものも、明日以降順番にご紹介させていただきますね)。

●ペンネーム:あうさん

睡眠欲が凄くて毎日お昼下がりから夕方まで寝ちゃいます。今日も今から寝ます。おやすみなさい。

>>無限の睡眠欲、わかります。わたし自身この「Sandwiches」を更新したあと、お昼を食べ、お散歩して、それから気づけば一、二時間お昼寝してしまうことが多いです。惰眠を貪るこの贅沢! それだってきっと限りあるものですから、めいっぱい謳歌いたしましょうね。おやすみなさい。

●ペンネーム:うみんちゅさん

アイドルにガチ恋とかどう思いますか??

>>ガチ恋ってどんな温度感なんやろうか、もう「結婚したい!」とかそんな感じなのやろうか。なんにせよ、何かに対してでっかいLOVEを持っておることってすてきですよね。もちろん相手の意思を尊重せずになんらかの行動に及ぶとか、そうなるとまた別問題ですけれど、その恋慕の感情がおのれに生きる活力を与えてくれているとしたらなにも恥ずかしいことではないと思います。対象は違えど、みな何かに「ガチ恋」しとるはずよなあ。

●ペンネーム:福岡モリタムファームランドさん

私は福岡県民ですがテレビの博多弁は少しやり過ぎな気がします。例えば、有名どころで言うと"好いとーと"とか普段使わないと思います。maco maretsさんは福岡県民としてこのような博多弁どうお考えですか?

>>この違和感はね、ありますよねえ。小学生のころ、「道徳」の授業の教科書なんかもなぜか登場人物がコテコテの博多弁で(福岡県用のテキストだったのだろうけど)、それがすごくヘンな感じがしたのを覚えています。

実際「好いとーと」もリアルでは聞いたことないが、どうなんだろう、でもあれだけテレビなんかで取り沙汰されるということは、実際にしゃべっとる人もおるんでしょうかね……。「くらす」とか「ちゃくい」とか、ちょっと乱暴なことばは今でも残っている実感があるのだけどね。いや、わたし自身上京から7年も経っているので、すっかり博多弁のネイティブ感覚を忘れつつあります。悲しい。

(引き続き、下記フォームよりお便りを募集しております↓↓↓)

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