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エスカルゴ・タイム【Sandwiches #30】

 どかん! 三日坊主をなんとかまぬがれ、なんとか三十日坊主か、どうかの地点までたどり着いてまいりました。この連載が継続しているという事実はどうでもよいけれど、もう三十日以上も#stayhome、このルーティンを繰り返してきたのかと思うとちょっぴりそらおそろしい気分にもなります。静かなGWもあけたところで、変わらずおとなしく、お家に留まるばかりのわたしです。

 夢中になって食いついていた「STRANGER THINGS」も全シーズン観終えてしまい、いやしかしNETFLIXとはこんなにも「面白そう」で満ち満ちていたのんかと、あれもこれも! で首がちぎれそうです。海外ドラマは一話が1時間前後あって、それがワンシーズン10話前後あって、それが何シーズンもあって……時間を無限に食いつぶしてくれるのだなあ。マインド・フレイヤーみたいに精神まで乗っ取られてしまいそうや。

 この期間、積み本崩しもひとつのミッションとして読書にも勤しんでおったのですが、ドラマも観て、読書もして、あと曲も書いて(もっか、これが一番だいじなjobなのです)……としておるうちに、「時間が足りんぞう!!!」とひさびさにそんな感覚に襲われた。こりゃとても贅沢なことだと自覚しつつ、家での過ごし方になれたわたしはあろうことか、もっと、もっとやあ! と、まこと怠惰におぼれた人間その末路のmoodなのでした。

 わたしは「速読」みたいなことが苦手で、一冊の本を読むのにそれなりの時間をかけてしまうのが常なのですが、みなさんはいかがでっしゃろか。たとえば実用書のように「とにかく要点を知れたらよい」とか、あるいは小説でも「とにかくストーリーを追えたらよい」とか、そんな読み方もあるけれど、わたしの場合はなんだかやっぱり神経質で、ささいなことばづかいなんかが気になってしまうことも多いのです。そんでもって、ことばをじいいいいーっと見つめているうちにゲシュタルト崩壊的フェノメノン、あれ、なんの話しとるんだっけこれ、とまた前のページにいきつもどりつ、なかなか進めない。

 なぜそのような読み方をするようになったかといえば、ぱっとふたつほど思い当たる理由があります。ひとつは、小・中学生くらいのころに読んだ、平野啓一郎氏の『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP研究所 / 2006)という書籍。これは「速読こそ正義」のくびきから逃れ、ひるがえって「遅読」を提唱している本なのです。

 当時、母の友人のひとりで、わたしにさまざまな本を貸してくれる方がいました。いわゆる「メフィスト賞」周辺のミステリ、たとえば森博嗣や、京極夏彦や、高田崇史や……そんなジャンルを小学生のわたしに教えてくれた人なのですが、たしかこの『本の読み方』もその方からのプレゼントやった。

 残念ながらいま手元に本書が見つからないので詳しい引用はできないのだけど、この本のおかげで、ああ、遅くてもいいのね、むしろつぶさに行間までじいと見つめるような読み方もありなのね、と思えた記憶があります。「速読病」にさいなまれている向きは、ためしに読んでみても面白いかもしれません。

 もうひとつは、そんな『本の読み方』をすこし心得つつ進学した大学時代に受講していた、とある教授の授業の影響がおおきい。その授業では、たとえば国木田独歩の『武蔵野』なんかを冒頭からクラスのみんなで読んでゆくのですが、ひと段落ごと、またあるときは一文ごとに立ち止まり、「この文章、ことばについてどう思いますか」(本来はもうすこしキレのある質問やったはず、ごめんなさい教授)といった質問を投げかけられるのです。

 その質問は、国語のテストのように文章の「意味」や、作者の意図を問いただすものでは決してありませんでした。ただ、自分自身が受けた「印象」を、さらりと受け流すだけでなく、じっくり咀嚼してみる。そんな作業を教えてもらったのです。授業では、大学の講義一コマ90分を使って、文庫本の小説1ページ分すら終わらない日もあった! けれど、じりじりとかたつむりのように進むその読書体験はなんとも言えず心地よいものありました。

 とかく時間のすてきな使い方を心得ねばならぬ、つめこみ「有意義」に過ごさねばならぬ、そんな思いにかられるとき……、あせって進もうとすれば、せっかくの本、あるいはドラマだって、本来の楽しみがインスタントな味気なさに取って変わってしまいかねません。そりゃやぱ怠惰? と言われようとも、好きと思えるものこそもったりのったり、隅の隅まで味わいたい。美味しいテンポでエスカルゴ、大事にしたいと思います。

●本日の一曲

「STRANGER THINGS」から、何度見てもふふふと笑ってしまうキュートなシンガロンシーンを……。「一曲」じゃないかしらん。



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