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おめかし落第生【Sandwiches #38】

 東京は大雨。昨日お話した通り(ウェア・イズ・ぴったしかんかん(ft.『XL』)【Sandwiches #37 】)、どうにも「ファッション」がなにかわからん、わからんぞ、とぼやつき生きてきた齢25のわたしです。そのくせなぜかそこそこに服は持っていて、しかも整理しようという段になるとなかなか捨てられない、とそれがまた厄介なことだ。

 ちょうど昨夜、もう何度目かしらん、「ちょいと部屋を片付けるべえ」などと思い立ってごそごそやっておりました。書棚をきれいに整頓したり、机とベッドの位置を入れ替えてみたり、この「Sandwiches」では幾度となくそのはてしない試みを明かしてきたけれど、今度の挑戦はその洋服エリアで、ある意味もっともおそろしい闘いであった! 言わずもがな服の整理にあたって持つべきあらゆる観念を取りこぼしたおめかし落第生、どう片付けたらいいのか皆目見当がつかなんだ。

 手をつける前の状態を説明しておきましょう、まず前提としてわたしの部屋にはクローゼットなんてものはなく、ほとんどの衣服はいわゆる「見せる収納」を余儀なくされております。しかして洋服を見せる、否、「魅せる」テクニックだって持たんもんやから、プラ製の収納BOXと、木製のローテーブル、その上に段ボール箱を積み上げ、ただただ粗雑に詰め込んである。

 そこだけ切り取れば、フリーマーケットか、あるいはドネーションに出す洋服を一時的にまとめておいたような様相で、そこから毎日洋服を選んでおしゃれするなんて到底かなわん、要は本来あるべき行為をズッパリ切り捨てた先の境地でありました。あれだけ書棚についてこだわりを発揮したマイブレインも(何日にもわたってその適当な思索を披露したこと、覚えていらっしゃる向きもおられましょう)、そのフリマ的地層面を前にしてはぎくりぎくりと硬直するばかりです。

 ここでの問題は、冒頭に述べた通りでまず、量がそれなりに多い、つまり本気で整理をするのであればいらない服は捨てねばならぬこと。しかして、それがなかなかできぬこと。加えて、量を減らすことができたとして、どう「魅せる」収納をすればいいのかわからんこと……ほかほか。

 服を捨てられない理由はかんたんで、別にわたしだけに限ったことではないでしょうが、ひとつひとつの洋服に染み付いた愛着といいますか、感慨といいますか、そもそもこれは服だけの話でもないが、とかく執着心を喚起するたぐいの匂いがあって、それを振り払うのがなかなかに難しいとそういうわけでした。

 ああこのシャツは去年の夏ライヴで着ていたなあ、とか、これは知り合いのブランドからギフティングしてもらったやつだ、とか、一枚一枚、しっかりとした手触りがあって、これはえてして身に着け肌に触れる洋服だからこそのたちあらわれ方かもしれぬ。いちいち手にとって袖を通さずともその着心地を思い出せたりするものね、おのれの汗や時間が染み込んだそれらはもはや自身の体と同じようにも見えてきます。

 そんでもってブーイングを覚悟しつつ述べますとわたし、昨夜は結局「捨てる」ことはあきらめまして、ただただ冬服を下に起き、夏服を上に、と地層の順番を入れ替える作業に終始しておりました。ただその作業中に、先に触れた木製のローテーブルの(洋服たちの世界を支える、のような4本足をしていたけれど……その)足が見事にへし折れ、そりゃもう、ばきり! と小気味よい音を立てて折れたもんやから、むしろその処理のほうに時間をかけることになった。もうあれ、おめかしへのケツイもどこへやら。

 春をとびこして、もう日中は長袖シャツだとちょいと蒸す、そんな季節でありますけれど、なんだかこんな調子ではとてもとても、初夏のおしゃれなどままならんのよう。ファッション顧問、募集中です。

●本日の一曲

こう、気取らずさらりと、かっこよく着られたらいいのにね。

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