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ゆめゆめ幽霊みることなかれ(ふたたび・おしらせを添えて)【Sandwiches #40】

 また新しい週がはじまります。今朝はひさしぶりに長いをみたのやけど、それがまた高校生のころの記憶に『ハリー・ポッター』を足したようなよくわからない夢でありまして、鮮明に思い出せるのは顔を青く塗ったインド人の青年殴り合いの喧嘩をしたあげく、ふらふらの状態で仲直りするという場面だけ! こりゃいったいどんな意味があるんやろうか、 これまで夢日記をつけた経験はないけれど、ぱぱぱ、と書き留めてみると妙に面白く感じるもんで、そのイメージの見えない根っこをなんとか掘り出すことができれば歌詞を書くさいのヒントくらいにはなってくれるかもしれん……。

 ちょうど手元に、カフカの『夢・アフォリズム・詩』(吉田仙太郎編訳 / 1996年 / 平凡社)という本があります。

 これはカフカが生前残した日記手紙ノートなどから文章を選び拾って編まれたもので、「」の章では彼が何年ものあいだ記し続けた夢の記録、ようは夢日記の一端をみることができます。たとえば、無理くり紐付ければわたしが今朝見た夢、だれか見知らぬ人間との闘争を彷彿とさせる内容も書かれていたりするのです。以下に引用してみます。

 ある夢──男たちが、二組に分かれて闘っていた。わたしの属している組は、敵方の一人、図体の大きい裸の男を捕らえたところだった。味方の五人が、一人が頭を、二人ずつが腕と脚とを押さえた。あいにくと男を刺す短刀を持っていなかったので、急いでまわりに短刀はないかと尋ねたが、誰も持っていなかった。でもなんらかの理由で一刻を争っていたし、手近に暖炉があって炉口のとてつもなく大きな鋳物の扉が真っ赤に燃えていたから、男を引きずっていって、男の足を湯気が立ちはじめるまで炉口に近づけ、それからまた引き戻して、すっかり湯気が出てしまうとまたあらためて炉口に近づけた。こんなことをわれわれが単調に繰り返しているうちに、わたしは寝汗をかいたばかりか、本当に歯ぎしりまでして目を覚ました。[四月下旬か五月初旬]

(カフカ『夢・アフォリズム・詩』吉田仙太郎編訳 / 1996年 / 平凡社 / p.45-46より)

 ちょうど夢をみた時期まで近いじゃあん、とか瑣末な符合はおいておいて、この短い文章の中でもふうわり香る悪夢的ビジョン……そのままの意味で「悪夢的」なそれにぐっと惹きつけられます。この本に収録されている夢の記録の多くはまるでショート・ショートの小説のようで、それでいて書き手の意志から遊離した場所に端を発したであろうイメージの連なり、その不思議な手触りは、虚構の中のリアリズムといいますか、とかくただの小説のことばには感じ得ぬ迫力がある。

 くわえて、(書籍で読める範囲では)カフカは決してその夢の意味などを探ったり、おのれの感想をつらつらと付け加えたりはしません。あくまでそこで見たビジョンを書き留め、その夢の只中のままに終えるか、あるいは上に引用した一文のように目をさます瞬間までで筆をおく。だから、こちらが勝手に「夢診断」のような読み方をする余地は一応残されています(とはいえそんな読み方は野暮とも思うけれど)。

 ただ、前提として夢をそのままトレスして言語化することは不可能であって、文章にする際にはとうぜん創作の手が入っているわけです。無意識のうちに埋没してゆくその夢の残像からなぜその描写、そのことばが選びとられたのか。たとえば先の引用文において、なぜ「手近に暖炉があって」、なぜそれは「炉口のとてつもなく大きな鋳物の扉」を備えていたのか、それは単純にカフカが夢でみたから? ま、そうかもしれないけれど、ここには夢と、創作・想像のあわいにゆれるどっちつかずなイメージの幽霊がたしかにおって、それをとらえることはなかなかに難しい!

 ちょいとmaco maretsの楽曲制作に引き寄せてみますと、以前、バックトラックや、押韻のルールといったさまざまな揚力でもって言葉のイメージをジャンプさせるというお話をしました。そこに夢的描写を加えることも、楽曲の持つイメージの地層に幽霊的なふくらみをもった新たなレイヤーを誕生させる手法たりえるかも、とか、やや、いつも通りケムに巻くような言葉遣いばかりで申し訳ないが、そう考えたのでした。ためしに夢の記録、つけてみようかしら。

●本日の一曲

夢にかこつけて、ごきげんなこちらを。

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 ここでおしらせです。この「Sandwiches」上でおたよりコーナをはじめてみようかと考えておりまして、といっても大げさなものではなく「コメント返し」みたいなイメージです。こちらのフォームにコメントをしていただければ、その翌日以降の投稿で可能な限りご紹介いたします。テーマはなんでも構いません、質問でも、ぼやきでも、ラフに書きつけてみてくださいね……。どきどき、お待ちしております。

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