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系統周波数の決まり方(電力相差角曲線を攻略する)【電気知識集vol.4】

【2019.5.30追記】
・便利資料情報を追記


電気知識集という資料を作り始めて、数ヶ月が経過した。
「どんな資料ですか?」と聞かれることがあるのでここで説明させて頂くと

「電気技術者に役立つ資料」
「読み進めながら、電験の勉強もできる資料」

この二つが資料のコンセプトである。

「近年起こった電気事象」を理論に基づいて説明しつつ、電験で問われる部分を詳細にまとめ上げた資料となっている。「電験一次試験に出題される部分」は太字とすることで、自ずと頭に入ってくるような工夫をしている。
その第4弾として、本資料を配信する。

はじめに

「送電系統の周波数がどのように安定するのか」ご存じだろうか。
「電気供給元の発電機」と「電気消費側の需要家」とのバランスが重要であることはわかっているが、理論的に説明することは難しい。電験2種、1種ではここが出題されている。

また「TSC」と「SSC」という言葉をご存じだろうか。
教科書や参考書に定義が記載されてはいるものの、実際どういったものなのか、よくわからないという方は多い。そもそも、講師の方ですら間違えて覚えていることがある。

今回の資料は、系統を安定させるために行っている対策「TSC」「SSC」を中心に「過渡安定度」「定態安定度」「発電機の周波数特性」「負荷の周波数特性」「電力系統全体の周波数特性」「電力相差角曲線におけるエネルギーの蓄積」まで学ぶ。

特に「周波数特性」は勘違いしている方がかなり多いので注意して学ぼう。
系統変動が起こった時、発電機が追従することで系統は安定する。この特性のことを「発電機の周波数特性」と言う。今回の資料で、図を用いて分かり易く説明している。
例えば、「系統周波数が60Hzから59Hzになった時」
・発電機出力はどのような挙動となるか、説明できるだろうか。
・負荷への影響は説明できるだろうか。(ポンプの回転数が変化し、送り出す水量が変わってしまう)

本題に入る前に

「電験には具体的にどこが出題されていますか?」といった質問を前回配信時に数件頂いたので、参考までに記載する。
今回の資料では、下記の内容が過去出題されているので「キー」となる。
「TSC」「SSC」「過渡安定度」「定態安定度」「発電機の周波数特性」「負荷の周波数特性」「電力系統全体の周波数特性」「電力相差角曲線」

本文中において、太字部分は電験に出題されると思っていい。
今回紹介する内容は時間が経つと、意外と忘れるものなので、定期的に自分で説明できるか確認しておくことをオススメする。

前回資料との繋がり

先日配信した記事では、送電系統の仕組みを説明した。発電機並列の仕組みまでは理解して頂けたと思う。

本資料では「送電系統をどう管理しているか」を学んでいく。教科書、雑誌等では記載されていない部分を分かり易く整理したので役立つと思う。
まずは「系統を安定させる対策の必要性」から学ぼう。
いきなり電験に出るような対策の内容を覚えようとしても、興味がなくては覚えられない。必要性を知ってからの方が理解しやすいことを利用する。

系統安定対策の必要性を知る

①系統安定を揺るがす停電原因
「北海道での大地震による大停電」や「イタリア、アメリカといった海外での大停電」といったニュースはご存じだろうか。いずれも連鎖的に発電機が系統から解列され、結果的に大規模停電となった事象である。
海外の停電原因が「樹木接触」というのが驚きである。この停電理由がかなり多いとのことだ。
(ブログ等で紹介する予定だが、海外出張の際にイタリアの送電線を見てきたが、山は確かに多かった。しかし、それは日本も同様なので、日本企業がどれほど送電線の管理を厳重に行っているか実感した。)

②停電に至るまでのプロセス
「樹木の接触・倒壊が起こると、なぜ停電が起こるか」を説明する。
樹木の接触が送電線に接触することで、線同士がくっつき、短絡が起こることがある。さらには樹木の接触により電線が損傷することで、地絡が発生することもある。
短絡・地絡が発生した場合、それらを検知し、遮断器が開放するため、停電は起こるのである。
なお、遮断器が開放することで、送電系統の発電と需要のバランスは崩れるため、調整しなくてはいけない。

③過渡安定度とは何か
こうした送電系統の急な動揺を「過渡事象」と呼ぶ。過渡事象に対し、元の安定状態を取り戻す系統の力のことを「過渡安定度」と呼ぶ。
この過渡安定度が限界を迎えた時、系統に並列している発電機は解列し始めてしまう。いわゆる「脱調」が起こる。
一つの発電機が解列すると、他の発電機の負荷が増えてしまうため、他の発電機も耐えられなくなり、連鎖的に脱調が起こるのである。

④大停電を防止するための対策
上記を踏まえ、「過渡安定度」を高めることが、連鎖的な発電機の解列を抑制する有効な手段であることを理解して頂けたと思う。
その具体的な対策こそが「TSC」と「SSC」である。

TSCは「安定度維持」、SSCは「周波数維持」がキーワードだ。

有料記事の内容

上記の内容について、詳細に説明する。
本記事は、「電験の問題集の解説を見てもよくわからない部分を分かり易くかみ砕いた」内容となっている。

0から調べると、時間がかなりかかるので本資料を活用頂ければと思う。わからない部分がありましたら、twitterでメッセージをお送りくだされば、回答いたします。勉強の手助けができればと考えています。

【有料記事の詳細】
分かり易く記載した「TSCとSSCの違い」を学ぶことができる
・「発電機の周波数特性」「負荷の周波数特性」「電力系統全体の周波数特性」を用いて系統の挙動を説明できるようになる
「電力相差角曲線」にて、二回線、一回線、故障時の運転点がどのように変化するか説明できるようになる
・「電力相差角曲線」を用いて、事故発生時の送電電力と蓄積エネルギーの関係を説明できる
「電力相差角曲線」を用いて、TSCの効果を説明できる


【電験学習者へのメリットまとめ】
電験学習者のメリットについても、整理しておく。

メリット①
各事象に対する説明ができるようになる。系統に関する問題は多いため、スコアアップが期待できる。
メリット②
停電原因から停電までのメカニズムをきちんと説明できるようになるので、一次試験の穴埋め問題、二次試験の記述にも幅広く対応できるようになる。
メリット③
「電力相差角曲線」を故障事故と結び付けて理解しておくことで、特に電験2種、1種を解く応用力が身に付く。
メリット④
「発電機および負荷の周波数特性」を学ぶことで、系統での周波数低下がどういった影響を及ぼすのか、説明できるようになる。電験の二次試験においても、何度も出題されている。


TSCとSSCの違い

まず、「両者の行うこと」が全く異なることを認識しておこう。
目的が系統の安定運用であるため、目的で覚えようとすると、混乱しやすい。
TSC:安定度維持
SSC:周波数維持

TSCの機能

名称:過渡安定化装置
  「Transient Stability Controller」
発電機もしくは負荷(変圧器)の切り離しを行う。
送電線故障遮断や発電機トリップにより電力系統が分断され、系統変動が生じた場合、系統内の周波数が大幅に上昇または低下する。この変動幅が大きいと大規模停電となる。その変動幅を抑制するために、発電機もしくは負荷(変圧器)の切り離しを行うのである。

*安定度には二種類あることを学んでおこう
①過渡安定度
送電系統内において、送電線の短絡、地絡、再閉路等が起こった場合に、安定した運転に戻れる度合のことを示す。分かり易くいうと、「どのくらいの負荷が急になくなっても、同期発電機の同期が外れないかどうか」というものである。それを具体的に数値で表したものである。
学習していた頃の自分はよくわかっていなかったので、ややこしいし「そもそも必要なの?」とも考えていた。実際、自分が系統を運用すると考えると、この値は必須である。

②定態安定度
送電系統において、急ではなく、ゆっくりと変化が生じた場合の安定度のことである。送電系統の安定運転が継続できる「許容できる変化量」を示した値である。

「過渡安定度」と「定態安定度」は、「保護継電器の時間特性」と似ているので分かり易い。

SSCの機能

名称:系統安定化装置
  「System Stabilizing Controller」
ガバナフリーの発電機により周波数低下を防止する。
送電線故障遮断や発電機トリップにより電力系統が分断され、系統変動が生じた場合、発電と需要(負荷)のバランスが取れなくなり、系統内の周波数が大幅に上昇または低下する。TSCと違い、周波数変動を直接吸収するべく、発電機のガバナフリー運転を行うのである。
※ガバナフリー運転を解説する。通常、発電機はタービンに入力されるエネルギー(蒸気量)により制御される。蒸気量を制御する設備がEHCというのだが、
系統周波数を調整すべく、その制御をSSCが行うのである。

発電機の周波数特性について

発電機の周波数特性をきちんと説明できる人は少ない。系統と発電機の関係性を理解した上で、下記の特性図を頭の中に入れよう。
系統の周波数が低下するほど、発電機の出力が上昇することを示した図になっている。例えば60Hzから59Hzに系統周波数が変動したとする。系統の周波数が低下するということは
「発電機の回す力が変動していないと仮定すると、系統に負荷が増えたことを示していて、発電機の回転数が落ちた」ことを示している。A点からB点に運転点が変化した
(車で例えるのがわかりやすい。坂道を登り始めた時、車の速度は徐々に落ちる。そのため、アクセルを踏み、エンジンの回転数を維持し、坂を登るのである。急に発生した負荷がエンジンの回転数を低下させることが原因)
これに対応すべく、発電機はさらに出力をあげて、元の60Hzに戻そうとする特性が、周波数特性である。

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負荷の周波数特性について

次に負荷の周波数特性を説明する。
系統の周波数が低下した場合、負荷の消費電力も低下する。消費電力の大半である回転機器の回転速度が低下するためである。定格周波数よりも低い周波数で運転することになれば、運転中の回転機器は定格時の出力を出すことができなくなる。「周波数の管理が大切」という所以はここにある。

過去、電験においてもよく出題される部分である。
発電機がある工場では、送電系統から電気をもらうのではなく、工場内の負荷に電気を送っているところがある。こういったケースの場合、発電機の不具合によって周波数が低下する事象が起こることが稀にある。周波数低下が生じれば、負荷の回転数が低下するので、定格時の出力が出ないことでポンプであれば、送りたい水の量よりも低い水量を供給することになる。水の量が極めて大切なボイラー設備であれば、停止を余儀なくされるケースもある。

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電力系統全体の周波数特性について

「電力系統全体の周波数がどのようにして決まるのか」といった問いの答えが「本周波数特性」である。
発電機の周波数特性と負荷の周波数特性の交わったところが、系統周波数の安定点となる。もう少し分かり易く説明すると、需要と供給のバランスが取れたところで、系統が安定するのである。系統周波数が低下することで、「負荷の周波数特性」に従い、負荷消費電力は低下するが、一方で発電機出力は「発電機の周波数特性」に従い、上昇する。送電系統の周波数はこういった特性に従い、安定点に落ち着くのである。

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電力相差角曲線について

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電力相差角曲線について、説明する。
本曲線は、縦軸を送電電力、横軸を位相角とした特性曲線である。この曲線を理解することで、二回線運用時、一回線運用時、故障発生時、それぞれのケースでの運転点がどのように変化するのか把握することができる。また、事故発生時の過渡安定度についても、理解できる。

「2回線事故発生時」を例に説明する。

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二回線事故が発生した場合、運転点が故障曲線に移行することを理解して欲しい。教えていると、ここでつまづく方が一番多い。二回線送電は事故により、もう二回線曲線に乗ることができないので故障時の曲線に乗るのだ。

しかし、ここで考えなくてはいけないことがある。
エネルギーの蓄積である。二回線送電を行っていたときのエネルギーは、必ずどこかで放出しなくてはいけない。自然の摂理である。
結論からいうと、復旧後の位相角に影響が出る。この位相角がある角度を超えると、発電機が脱落し始める。

短時間で1回線が復旧することができたとすると、下記のように運転点が曲線を移動する。

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一回線送電時の曲線に移行した直後、運転点が位相角の大きくなる側に移動する。この運転点の動きにより、エネルギーが放出されるのである。

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「エネルギーの蓄積部分」を破線部分を示す。「運転点の移動によるエネルギー放出部分」を一点鎖線で示す。
「エネルギーの蓄積部分」と「運転点の移動によるエネルギー放出部分」が等しくなるまで、運転点が移動する。限界を迎えたとき、系統に接続している発電機が脱調を起こすことになるのである。(脱調のタイミングは発電機ごとの特性によって、多少の違いがある)

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電力相差角曲線を用いて、TSCの効果を説明する

二回線事故が発生した場合を例に説明したが、TSCが動作するとどうなるか考えて欲しい。TSCの効果を理解していれば、想像がつくと思う。
結論をいうと、二回線送電曲線から一回線送電曲線に移行する前に、送電電力を減らすのである。

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送電線の故障により、発電機のエネルギーが蓄積され、故障回復後にエネルギーが放出されることになるが、放出しきれない場合は発電機が脱調してしまう。この現象を防止するため、特定の発電機を遮断させ、蓄積されるエネルギーを減らす。これがTSCの効果である。
動作時間は、1秒よりもさらに短い時間で行われる。

ここからは参考情報である。電験には出題されることはないが、技術者として興味があれば、読んで頂きたい。
TSCのシステムというのは、非常に重要なシステムである。この施設がどこに存在しているのか、知っている者は少ない。発電機を遠隔操作指令できてしまうためである。
制御指令を出す施設では、送電線上のデータをオンラインにて収集している。発電機の状態、送電線の開閉状態、潮流、力率、全体の消費電力量等、大量の情報が見れるようになっている。故障発生時において、パラメータを分析し、故障内容の特定まで行っているのである。これらの管理施設のおかげで、TSCというシステムを活用できているのである。TSCの機能は「発電機を遮断する」という一言で終わらせている資料は多いが、実際、もの凄く複雑であることを技術者として知っておきたい。説明を求められた時に困るからだ。
「オンライン上でデータ採取し、状態変化を検知し、演算した上で、どこの発電機を遮断すればいいか、判断している」ということを理解しておこう。

まとめ

以上が、本資料の内容となります。電験の解説では分かりにくい部分であるので、詳細に解説しました。オンラインで勉強している方にとって、役立つ資料になることを願っております。内容は必要があれば、随時追記していきます。
これからも、電験で特にわかりにくい部分を解説していきます。今後とも、宜しくお願い致します。Twitter等でメッセージ頂ければ、ご相談にも乗っております。共に電験合格を目指し、頑張っていきましょう。

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混乱しやすい「中性点接地に関わる電位上昇」の話をまとめた記事です。送電関係の勉強をしている方であれば、復習も兼ねてチェックして頂ければと思います。


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