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|銀座の母の言葉

私は脚が傷だらけだ。
ちょっとぶつけるとすぐに痣になるし、薄皮が剥けただけの擦り傷なのに火傷のような痕が残る。痕が残りやすいのは祖母譲りのようで、母からもよく言われていた。

小学校の昼休み、我先にと校庭に駆け出す途中、階段をほとんど一番上から転げ落ちて派手な打撲。
遠浅の海で海底の岩を踏み外して、親指の爪を剥ぐ。片足包帯とビニール袋で風呂に入る。
海水浴中、浮き玉の金具にふくらはぎをざっくり切られる。
駅の階段を転げ落ちて脛が盛大な擦り傷。

…血が滲む。
特に駅のは悲惨で、職場の宴会解散後。
かの有名な舞台演目のような"階段落ち"が終わった途端に終電のベルが!目の前に見えた脱げた靴を拾って、まぁまぁの中堅OLは電車に飛び乗る。その背中、哀愁。

先月のBROMPTONの納車日。
暑くもないのに、何故か短パンで試乗し、漕ぎ出し第一歩でお決まりの脛ガリッ。


「右脚に気をつけな」


もう10年も前に言われた言葉。
事あるごとに、過去の記憶から響いてくる。

「大事には至らないけど、まぁ怪我するよ」

してるしてる。
当時の私は、占いってどうなのだという思いを片隅に置いたまま友達と訪れた。そして、それがバレたのか、聞いてる途中でぶっ叩かれた。
 
「あんた!あたしの言葉を信用してないんじゃないかね!」

あぁ、銀座の母様。
今日も私の右脚は、傷とカサブタと青アザ祭り。

そしてあなたが、「こっちにしな、絶対。」と言い切った彼氏候補は、今、隣で一緒にテレビを見ています。

元気でいらっしゃるのだろうか。
またいつか…

いや、おっかないからもう行かないけど。

痛みとセットで甦る、夏の想い出。

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