物書きの音。vol.7「届かない偶然」

物書きの音。
2019年の12月に書いたものです。
Googleドキュメントに眠っていたものを、投稿してみます。


「届かない偶然」

ある会議室。
クリスマスに向けての、重要な会議をしているのは、たくさんのサンタクロースたち。
プレゼントを届けようと、漏れがないようにと、会議をする。
でも時はもう、12月23日。
明日の夜には届けなければいけないのに、プレゼントがまだ決まらない家がひとつ。

プレゼントの内容は、毎年神様と決めている。
今年一年どんな様子だったか、そして来年はどうであってほしいかを話した上で、決めるのである。

そして、大切な決まりが三つ。
・プレゼントは12月24日0時までに用意すること。
・用意したプレゼントは、12月25日の0時までにすべて配ること。
・サンタクロースの仕事が終わったら、普段の生活に戻ること。
(プレゼントをすべて配らないと、来年のサンタクロースはできない)

神様はちょっとだけ、未来を知っている。
人間の行動次第で、ちょっとした偶然で、未来は変わるので、神様が思っていた通りにならないことの方が多いのだけど。
なので、プレゼントが足りないときには、こっそりプレゼントをあげることにしていた。

12月24日の0時、ひとつの命が消える未来を、神様は知っていた。
この家にプレゼントは届かない。きっと。
でも、命のタイミングは重大な秘密なので、サンタクロースにも知られてはいけない。

とはいえ、サンタクロースもそれぞれの状況はだいたいわかる。
だって、サンタクロースの仕事がないときは、普通に、正体を隠して、みんなと同じように過ごしているのだから。
用意したプレゼントはすべて配らなければいけないだけでなく、ほかの人の生死が垣間見えるようで、毎年この時期は、頭を悩ませるのである。

12月24日0時の10分前。
10分の砂時計がひっくり返された。
なかなか決まらないので、神様が、早く決めるようにと急かすために置かれるようになった、砂時計。
これがひっくり返されたときは、もう本当に時間がない。

同じころ、プレゼントが決まらないあの家でも、10分の砂時計がひっくり返された。
いつかのクリスマスに届いた砂時計。
どんなときでも、砂時計の砂が落ちきったら、また新しい世界が待っている、と自分で決めた。
今まで何度も繰り返してきた、大切な砂時計のおまじない。

砂時計の最後の一粒が、静かに落ちていった。

と、そこで目が覚めた。
砂時計をひっくり返したのは、自分だったような気がする。
今日は12月25日。
さて、プレゼントは届いているだろうか。

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