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「食べられて本当に嬉しい」その声を聞くために。患者さん一人ひとりの願いを実現する食を届ける栄養科の取り組み

まちだ丘の上病院(通称:まちおか)では、「患者さんが願う人生や暮らしをサポートする医療」を届けたいと考えています。

その際、特に重要なポイントになると考えているのが毎日の「食」です。

1日3回の食事は、生活の大きな部分を占めています。だからこそ、食の時間が患者さん一人ひとりの人生や暮らしに大きな影響を与えるはず。そう考えているからです。

例えば、慢性疾患の患者さんが入院されていた場合。その方の願いが「孫が成人するまで生きたい」なのか「残りの人生は我慢することなく、自分が好きなものを食べて生きたい」なのかによって食事のサポート方法は大きく変わります。

前者の場合は、塩分やリスクの高い食事の摂取を控えるといったサポートになりますし、後者であれば好きなものを思い切り食べられるようにサポートする関わりになるかもしれません。

患者さん一人ひとりの「こう生きたい」「こう暮らしたい」を実現する食を届けたい。

そんな想いをもって日々奮闘するのが栄養科のお二人、NさんとYさんです。

今日はお二人に、日々の実践や今後目指すことを聞きました(聞き手は人事課長 加納)。

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右:Nさん 左:Yさん

患者さんの願いを実現する「食」を届けたい

──まずは簡単にお二人の自己紹介をしてもらってもいいでしょうか?

N:栄養科の管理栄養士 Nです。南整形外科病院の時代から働いているので、もう働きはじめて20数年がたちますね。

──20年も…!すごいですね。Yさんもお願いします。

Y:同じく管理栄養士で、今年の1月からまちおかで働いているYです。まちおかに来る前は、急性期病院で8年弱働いていました。

まちおかは慢性期の患者さんがメインで、以前働いていた病院とは患者さんの層も全く違うので、Nさんの力をお借りしつつ頑張っています。

──ありがとうございます。お二人は普段はどのような業務を行っているのでしょうか?

N:病院食の調理は、病院で採用した調理師さんが行ういわゆる直営のケースと、外部の業者さんに委託するケースがあります。まちおかの場合は、後者になります。

そのため、病棟で患者さんの状態を把握して必要な栄養素を計算。それを元に委託業者さんに献立作成や調理を依頼するのが私たちの業務になります。

──日々の業務を行うにあたってお二人が心がかけていることはありますか?

N:まちおかは療養病院なので、ここで長く暮らされている方も多いんですよね。また高齢の方も多く、必ずしも予後が長い患者さんばかりではありません。

だからこそ我慢する「だけ」の暮らしや人生にならないように。そして、患者さんの「こう生きたい」「こう暮らしたい」という願いをできるだけ実現できるような「食」を届けたいと思っています。

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栄養科の管理栄養士 Nさん

──願いを実現する。

N:そうですね。例えば、健康のためには減塩をしたほうがいいですよね。でも、そうすると味が薄くなって食べづらくなってしまうこともあります。それでは、毎回の食事が苦痛になったり、楽しい時間ではなくなってしまうかもしれません。

患者さんが「日々の食事は楽しめなくても、長生きをしたい」という希望をお持ちであればそれでいいかもしれませんが、もし「残りの人生は、食事を楽しみたい」という方であれば違う方法を考えたほうがいい。

患者さんがどんな願いをお持ちなのかによって、サポートの仕方を工夫していきたいと考えています。

──一人ひとりの患者さんの希望を伺いつつ、毎日の食事を調整していくのが栄養科のお二人の仕事だということですね。

Y:そうですね。また「どう生きたいか」という人生に関する願いだけでなく、「こういう食事を食べたい」という日々の食に関する希望もヒアリングするようにしています。

例えば、主食がごはんだと食べづらいけれど、そうめんだったら食が進むという方もいらっしゃいます。あとは、つけものがあったらごはんが食べられそう、とか。少しでも食べやすくなるように先生と相談して、できる限り希望をかなえていけたらと思っています。


「食べたいものが食べられた。あなたがいてくれてよかった」

──そういった日々の工夫をしていくことで、患者さんからはどのような反応があるのでしょうか。

Y: 以前、転院前の病院で食事摂取が困難となり、点滴のみで栄養を摂取されていた患者さんがいらっしゃいました。まちおかに来て、ご本人から食べたい物、飲みたい物の希望があり、多職種で方法を検討しました。結果として、みんなで見守っているなかでその患者さんにキャラメルとコーラを召し上がっていただくことができました。

患者さんが「最高だな。」と笑顔で美味しそうに召し上がっていて、「あなたがいてくれて良かった。」と言ってもらえた時は本当に嬉しかったですね。

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栄養科の管理栄養士 Yさん

──それは嬉しい言葉ですね。

Y:そうですね。もちろん安全面のことも考えなくてはいけないので、ご本人やご家族にリスクを説明したり、そのうえでリスクを最大限に低減させるあらゆる工夫が必要にはなります。そのうえで患者さんの希望をかなえるチャレンジできたことは、とてもよかったな、と。

──Nさんは印象にのこっている瞬間はありますか?

N:がん末期の患者さんで「おまんじゅうが食べたい」と希望されていた方がいたんですね。ただ、固形の食事をとることが難しい患者さんだったのでどうしようかな、と思って。結局、お饅頭をおしるこにして、楽しんでいただいたことがありました。その時もすごく喜んでいただけましたね。

また、先日も「ステーキを食べたい」という患者さんがいらっしゃったんです。普段はムース食の方なので、通常のステーキでは固すぎて…。そこで、酵素で柔らかくした肉を使ってステーキ状に形成した食品をお出ししたこともありました。

ちょっとした工夫で、食べたいものを食べていただいたときの患者さんの嬉しそうな笑顔が励みになっているんですよね。

日々の食を安全に楽しんでもらうための標準化の取り組み

──患者さんの願いをかなえるような食の取り組み以外にも、お二人は日々の患者さんの食事の安全性を高める地道な取り組みもしているとお伺いしました。

Y:そうですね。ムース食の標準化にこの1年間力をいれてきました。

ムース食の場合、使っている食材や、粉の量、水の量、水の温度などによって、できあがりが全然違ってしまうんですよね。固さに違いができてしまうと、嚥下の力がない方にとってはリスクになってしまいます。

そこで、できあがりの状態を統一できるよう、料理別に粉や水の最適な量や温度を決め、標準化するマニュアルづくりに取り組んでいます。

──料理別にマニュアルをつくるということは、相当な数になりますよね。

Y:そうですね。同じ鶏肉でも揚げたものと焼いたもので最適な水や粉の量、そして水の温度は違います。また、芋やはるさめといったでんぷん質のものだと、べたついてしまったり…。色々食材によって特性もあるんですよね。

まちおかの患者さんにあった分量や温度を毎日毎食試食して、自分たちで試しながら各食品ごとの数値を決めていっています。

N:平日は毎食試食をしてますよね(笑)。

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──毎日!数でいうと、毎日どのくらい試食しているんですか?

N:朝昼夜2~3品試食しているので、1日10品弱ですね。5月からこの取り組みを行っているので、8カ月ほどその生活を続けています(笑)。

──その地道な作業が安全をつくっているんですね。

まちおかの良さは「多職種間での相談のしやすさ」

──Yさんは1年前にまちおかに転職してこられましたよね。以前の病院と違いを感じる点はありますか?

Y:以前の病院では病棟と厨房の役割分担が明確になっていました。食事のことは厨房に任せ、病棟の栄養士は患者さんの栄養指導に注力するというすみわけだったんですね。

でも、まちおかは栄養士が両方見る必要があります。経管栄養のセットから補助栄養の準備、とろみづけまで何でもやる必要があるので、少し大変だなと思う瞬間もあります(笑)。

ただ一方で、厨房の方々とチームとして一緒に働いているからこそ、ちょっとしたお願いがしやすいなとも感じていて。その連携のしやすさが、患者さんの「食」をよりよくしていくという結果にダイレクトに結びついている感覚もあるんですよね。

──連携のしやすさが、患者さんへのサポートの質に影響している、と。

そうですね。また、厨房とだけでなく、まちおかでは医師や看護師、理学療法士、言語聴覚士といった他の職種の方との連携もとてもしやすいと感じます。

──それはなぜでしょうか?

Y:病床数が少なくて、規模としてもコンパクト。だからこそ、コミュニケーション機会が多いからでしょうか。まちおかでは、先生も看護師さんも積極的に話しかけてくれますし、患者さんについて相談するハードルも低い。

医療や食の質を高めていく上ではそういった多職種間の連携のしやすさはとても大事だなと思っています。

N:連携のしやすさに関していうと、多職種カンファレンスの存在も大きいかもしれませんね。

2020年4月から、週3回30分間、医師、看護師、理学療法士、栄養士など様々な職種のスタッフが集まって情報共有や議論を行なう多職種カンファレンスを実施しています。

患者さんの情報共有を行うのはもちろんですが、患者さんへのケアのあり方について議論する時間も設けているんですね。先ほどの事例のように「リスクはあるけれど、患者さんがキャラメルを食べたいと希望されている」という場合。「もしその願いをかなえるとしたらどんな方法があるのか」「リスクに対してどう対応するのか」を多職種が集まって考えるような場です。

多職種カンファレンスがあるので、悩んでいることを気軽に相談しやすいですね。

あとは、まちおかではどんな職種の人であっても「患者さんの願う人生や暮らしをサポートする医療を届けたい」という思いは共通しています。療養病院ですので、元気だと思っていても急に亡くなる方も多い。だからこそ、「食べたい」と言ってもらえるうちにサポートしたいという気持ちをスタッフみんなが持っています。みんなで同じ認識を持って、同じ方向に向かっている感覚があるので、そこにストレスがないのが助かっていますね。

患者さんとの関わりを「食」だけにとどめたくない

──お二人にお話を伺っていて、やはり根底に「患者さんのために」という思いがいつもあるんだなと感じました。お二人のおかげでまちおかの「食」の安全や患者さんの願いをかなえる体制がつくられているんだな、と。

最後に今後こんなことをやっていきたいという展望や目標があれば教えてください。

Y:そうですね。私は患者さんともっともっとお話がしないな、と。

栄養士がただ「食事は問題ありませんか?」「おいしいですか?」って聴きに行くだけの役割では悲しいなと思っていて。

まちおかには経口摂取をされない方もいらっしゃるので、そういう場合、同じ部屋で食事をしている方を見るのってつらい時もあるかもしれないと思うんですよね。だから食事に限らず、その人の好きなことや家族のことも色々お伺いするようにしているんです。そういう日々のコミュニケーションを通じて、患者さんにもっとまちおかでの暮らしを楽しんでいただきたいなと思っています。

N:私もYさんと同じで、なるべく一人ひとりじっくりお話を聴きたいなと思っていて。高齢の患者さんも多いので、昔のお話とかをすごく楽しそうにお話してくださるんですね。こういう仕事をしていたとか、こういうものを食べていたとか。思いもよらないような患者さん一人ひとりの人生を日々お伺いして、私自身も楽しませていただいています。

ご本人も楽しんでお話してくださるので、私も聴くのが楽しくて。日々患者さんに癒されいる感覚です。あとは「ご飯をいつもありがとう」と、感謝の気持ちをもって伝えてくださる方もくてそれもすごく嬉しくて。

だから、私のほうからも患者さんへの感謝の気持ちをこれからも日々の生活のなかで伝えていきたいですね。

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