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【本人訴訟シリーズ】本人訴訟で未払い残業代を請求する

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未払い残業代問題を取り上げます。自分だけの力で労働審判を起こしてブラック企業から未払い残業代を取り戻す!そのための実務的なノウハウや労働審判手続申立書など書面の作成について解説し…
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#労働問題

「裁量労働制」で残業代をごまかされるな!

未払い残業代を請求された会社(雇い主)が労働審判や民事訴訟で「あなたとは労働契約を結んでいるわけではないので、あなたは従業員じゃない」、「あなたは課長なので、あなたは管理監督者だ」と主張してくることがあります。ともに、未払い残業代を請求された会社がその支払いを免れるための戦術。それぞれの反論ポイントは、前々回のコラムでは「労働者性」、前回のコラムでは「管理監督者性」について解説しましたので、そちらを参考にしてください。 今回と次回のコラムでは、やはり残業代の支払を避けるため

「管理者には残業代は出ない」にだまされるな!

今回のコラムで言いたいこと。それは、「課長や部長など管理職には残業代は支給されない」は必ずしも正しくはないってことです。 労働基準法第41条には「労働時間等に関する規定の適用除外」が定められています。その同条2号に基づけば、管理監督者や機密の事項を取り扱う従業員であれば、残業をしても普通残業については割増賃金を支給する必要がありません。これを「管理監督者性」と言います。確かに、労働者が管理監督者であるならば、普通残業代は支給されないということになるのです。  しかし、だか

労働審判手続申立書の書き方~その6~

第16回、第19回、第20回のnoteで、労働審判手続申立書の「第2 申立ての理由」の「1.当事者」「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」まで解説してきました。これで「当事者の定義」⇒「事実関係の明確化」ができたわけですから、次は「(相手方の)支払義務の主張」です。その主張をするのが、申立書の「4.未払い残業代の請求」の箇所です。では、解説していきましょう。 まず、(1)残業代請求に際しての基礎賃金。ここのまでの申立書の記述から、「年間の給与の基礎額÷年間の所

賃金請求権の消滅時効は2年!

今回も、前回と同じくちょっと休憩して、労働審判手続申立書の書き方から少し離れたいと思います。今回は、賃金請求権の消滅時効についてです。 まず、賃金とは、労働基準法第11条によれば、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」とされています。給料、残業代、アルバイト料、時給、日給、報酬など名称はともかく、正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマーなどといった立場に関係なくいかなる人(労働者)にも、その提供した労務の対

雇主に対するペナルティとしての付加金

第14回、第15回、第16回のコラムでは、労働審判手続申立書の書き方について、私が実際に使用した書面を書き出しながら解説してきました。続いて、立証活動の中核である申立書の「申立ての理由」欄の解説に入っていきたいと思います。 でも、その前に、今回はちょっと休憩して、これまでも何回か出てきている「付加金」について解説しておこうと思います。 付加金は、残業代を支払ってもらっていない従業員・労働者にとって、いわば「切れ味鋭い懐刀」のようなものです。確かに切れ味は鋭そう。でも、あく

労働審判or民事訴訟、どちらを選択?

前回は労働審判のメリットとリスクについて解説しました。では、労働者が会社と未払い残業代などの紛争を抱えてしまって、それを本人訴訟で解決しようとする場合、民事訴訟と労働審判のどちらを選択すべきなのでしょうか? 証拠にもとづいて事実を一つ一つ認定し、法的な勝ち負け、白黒をはっきりさせるのが民事訴訟。そのかわり、判決がでるまでに相当の時間がかかります。対して、労働審判は事件の解決自体を重視し、3ヶ月程度で終わります。申立て費用もリーズナブル。しかし、早期解決が優先されるために、申

労働審判の管轄と審理方法

今回は、労働審判の管轄と審理の進行について述べていきす。少し長文となりますが、ぜひ最後まで読んでいただければ幸いです。 まず、管轄の話。多種多数の裁判所があるなか、どこの裁判所に申立てをするかの定めを「管轄」と言います。労働審判の管轄は労働審判法第2条に定められていますが、次の3つのケースがあります。 第一に、相手方たる会社の本社や支店・営業所など事業所の住所を管轄する地方裁判所です。第二に、申立人が実際に勤務している事業所の住所を管轄する地方裁判所です。すでに退職した方

労働審判と民事訴訟の違いとは?

今回は、労働審判と民事訴訟の相違点について述べていきます。 まず、費用面での違いです。訴訟にかかる費用については、【本人訴訟で未払い残業代を請求する(3)】で解説しました。民事訴訟なら「訴訟費用+実費+弁護士費用」となるところ、労働審判では「申立て費用+実費+弁護士費用」となります。そして、労働審判を本人訴訟で申立てる時の費用は「申立て費用+実費」のみ。 とりわけ、民事訴訟の「訴訟費用」と労働審判の「申立て費用」。両方ともに、基本的には「収入印紙代+郵便切手代」の合計と考

労働トラブルを実情に即して迅速、適正、実効的に解決する労働審判

今回から数回にわたって、労働審判という制度について説明したいと思います。 裁判所のサイトによれば、労働審判手続(労働審判)とは「解雇や給料の不払など、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的」とするものです。労働審判法で規定され、平成18年から施行された制度です。 労働審判は、裁判所がはいる点、紛争を解決する点などにおいて、一見すると「民事訴訟の労働事件版」とも思えます。しかし、労働審判は民事訴訟と

本人訴訟は不利なのか?-最も大切なのは事実を立証すること

本人訴訟は不利なのか。読者の皆さまはどのように思われますか? 原告たる労働者が本人訴訟を起こす一方で被告たる会社に代理人弁護士が付けば、「原告たる労働者本人 VS. 被告代理人弁護士」という構図になってしまいます。労働者には弁護士は付かないのですから、訴訟の経験と法律の知識についての原告・被告間の差は圧倒的かつ一目瞭然でしょう。前コラム【本人訴訟で未払い残業代を請求する(4)】で書いた通り、労働者には「必要な弁論ができないために、本来持っている権利にもかかわらず、その保護が

本人訴訟のデメリットは必要な弁論ができないリスクがあること

今回は本人訴訟のデメリットについてお話しします。 提訴の手続きがわからない、争点がわからない、どのような証拠を用意すればよいかわからない、法的な主張ができない、法律や判例を知らない、裁判官や被告代理人弁護士の言っている意味がわからない、主張や反論が感情的で争点に関係ないものになるかもしれない、事実関係や法的な主張を訴状や書面でうまく表現できない。まず、こういったテクニカルな問題が起こってくるでしょう。そうすると、必要な弁論ができないために、本来持っている権利にもかかわらず、

本人訴訟のメリットは費用を節約できること

今回は本人訴訟のメリットについて書きたいと思います。一番わかりやすいメリットは、やはり、費用を節約できることです。 ここで、民事訴訟にかかる費用の説明をしておきましょう。民事訴訟にかかる費用は「訴訟費用+実費+弁護士費用」の合計です。 第一に訴訟費用。訴訟費用とは提訴にあたっての収入印紙代のことです。例えば、被告へ請求する額が300万円なら、2万円の収入印紙が必要です。そして、予納する郵便切手が6千円分。原告が郵便局で収入印紙と郵便切手を購入、印紙は訴状の正本に貼って、切

本人訴訟のすすめ!

労働者なら、法律で定められた一日の労働時間は8時間。8時間を超えて仕事をすると、超過分は時間外労働になります。時間外労働をすると、労働基準法にしたがって割増賃金(残業代)が支払われなければなりません。 しかし、残業代がきちんと支払われているかと言えば、多くの会社ではけっしてそうではないかもしれません。時間外労働をしたことを会社に申告できない・・。申告しても会社が払ってくれない・・。固定残業代のみ支払われている・・。課長職なので残業代をもらう権利がない・・。未払い残業代の発生