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最強の野菜スープとともに、みんなにゆったり人生を伝えていきたい

『最強の野菜スープ』とは、抗がん剤の世界的研究者の熊本大学医学部 名誉教授の前田浩さんが、病気の予防やアンチエイジングとして考案した野菜スープのことで、著書名でもある。

井上佳代さんは、パートナーさんが脳梗塞で入院していたことがあり、何か体に良いことができないかと考えていた時、この本のことを知った。

早速スープを作ってみた。10種類の野菜をしっかり洗い、ぶつ切りにする。それを水から煮立て、冷めたらこして出来上がり。旦那さんからは「これ飲んでから調子が良かごたぁ」と好評で、同じ病室の人たちにも配ったところ「帰ったら作ってみます」という声もあがった。

脳梗塞は再発率が高いとされる。退院する際には「戻って来なさんなよ〜」と見送られ、食べるものをますます大切にしようと思った。ここから井上さんの「野菜スープを広めたい」というチャレンジは始まった。

自分のできる範囲から少しずつ

日本料理のお店を営んでいた経験があり、野菜スープを広めるお店を開こうと考えた。そこで不動産会社をまわり店舗物件を探し始めたが思うようには見つからない。お店を開くにはリスクもあって慎重にもなってしまう。

そんな中、まち活UPなかがわに参加したことでその考えが変わっていった。面談でレンタルキッチンの存在を知ったことで、店舗を持たなくても野菜スープを広める場の築き方もあるんだと、自分のできる範囲から少しづつ作っていくことを考えるようになったからだ。

ヒアリング面談の様子

またとある日の面談で、「実際に食してもらうことが野菜スープを知ってもらう一番の近道では」と言われた。このアイデアをくれたまち活UPなかがわのスタッフは、実は野菜が苦手。そんな彼から「野菜嫌いな子どもにどう食べさせるか困っている親御さんもいるんじゃないか」と、子育てをテーマに開催されたまち活サロンの中で野菜スープの試飲の場を設けてみた。そこから色んな場所で試飲会をするようになっていった。

自分では気がつけない視点をもらうことで、「こんな考え方があるんだ」と柔軟に考えれるようになっていった。そして「こんなイベントがありますよ」「こんな人がいますよ」と声をかけてもらったことから繋がりがどんどん広がっていった。

まち活サロン「子育て」で野菜スープを試飲してもらう

機会を重ねて「野菜スープの井上さん」に

やまももの収穫大作戦サロンに参加したことがきっかけで、収穫ボランティアに行った。そこでやまももの森プロジェクトの山﨑さんや日下部さんと交流を深める機会ができた。すると日下部さんから「今度餅つきするから来てみらんね」と誘ってもらった。

後日訪れたのが『ぼうけんの森』である。ここは以前牧場だったところを拠点にし、近隣の畑で野菜を作っていている。そこで櫨本(はぜもと)さんと知り合った。那珂川市別所にある『ぼうけんの森』を拠点に活動しているネイチャーアグリという団体の代表だ。実は彼はまち活相談者でもある。

櫨本さんもまち活UPなかがわの相談者

以前から、安心できる野菜を自分で作ろうと考えていたので畑を始めてみたものの、違う目的で借り始めた場所ということもあり、土が硬くてうまく使えなかった。そう櫨本さんに相談すると、「ここ(ぼうけんの森周辺)の畑は土がいい。野菜をつくるんやったら場所空いとるよ」と声をかけてもらった。周りからの後押しもあって、思い切って畑を借りることにした。

ぼうけんの森にいると分からないことも教えてもらえる。有機農法により栄養豊富な土壌で育てられた野菜が実っていく。野菜を作る知識と技術がどんどん身につき始めた。今では野菜スープの材料は全て自分の畑から調達するほどにまでなった。そして、自分では予想していなかった野菜の出荷もするようになった。

これは余談だが、元々借りている土の硬い畑。とある日気がついたら耕されていた。どうやら櫨本さんがトラクターを運転して耕しに来てくれたようで、今ではここも実りの多い畑になっている。

ゆっくりと広がっていった機会

ぼうけんの森でまち活サロンを開催した時には、夫婦で大きな羽釜で野菜スープ振る舞った。またフリースクールが来る日は子どもたちと一緒に野菜を収穫し、採れたて野菜を洗って切って、大きな鍋で煮て一緒に野菜スープを作ったりもした。

大きな羽釜で野菜スープを作る井上佳代さん

野菜スープを振る舞う機会が増えていく中で、野菜が苦手な人でも食べやすい工夫や、毎日作るのが難しい人のことを考えるようになった。元のレシピに調味料を加えることで、保存が効いたり成分も出やすくなる。野菜スープがもっと色んな人の元に届くよう、何パターンも試して改良を重ね、今では独自のレシピの野菜スープを振る舞っている。

2023年11月にネイチャーアグリがボランティアフェスタに出ることになり、その傍らで最強の野菜スープの試飲ブースとして出店することになった。この時は、準備した食材を持って行き会場で煮込むことに。すると野菜が煮込まれる姿を目にした人からは「お〜」と声が。作る過程を見てもらうことは、野菜からどうやって作っているかを知ってもらうのにも良い機会になったようだった。この日は150人に野菜スープを振る舞った。

2023.11.04 ボランティアフェスタに出店

最近では、「野菜スープの井上さんでしょう」と声をかけられることが増えてきた。さらには春日市から講演して欲しいと声もかかり、初めて講師を務める機会にも恵まれた。ゆっくりと野菜スープが広がり始めている。

春日市での講演会

思い描く10年後の景色を見据えて

井上さんが最初に考えていたことが、相談する場があったことや人との繋がりができたことから、少しづつ形を変えながら広がっていった。「野菜スープを作ることだけだったらやる気が落ちていたかもしれない。だけど野菜を作り始めたことで、今では新しいことを知る楽しさもある」そう話してくれた。

また面談を繰り返していくうち、野菜スープを広めたいという根底には「みんなにゆったりとした人生を歩んで欲しい」という思いがあることに気がついた。日々の忙しさで、食べる行為が省略されることも少なくない。だがスローフードのように、口に入るものに手間ひま・愛情をかけることは、自分の生活や人生までも見つめ直すことに繋がってくる。井上さんにとって野菜スープを広めることは、ゆったり人生を伝えるということだったのだ。

自身の人生についても、自分を押さえ続けてきていたと振り返り、「今後はやりたいことをやっていく」と夫婦で話し合ったのだそう。

井上さんには思い描いている10年後の景色がある。それは野菜スープを作り続けながら、側には畑があり無農薬で育てられた野菜も並ぶ。何気ない相談もできるような、そんな人が集う場を作ること。

これから野菜スープと共に、井上さんの活動がどんな広がり方をしていくのかとても楽しみだ。 (まち活事務局:oioi)

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