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「メンバーになる前は、人が何か心配したり不安になっている時に、その不安に対して全員がそれに協力するのがいいことだと思っていた」okatteメンバー 乙川 貴絵 さん【INTERVIEW】

まち暮らし不動産がokatteにしおぎの10年を勝手に振り返る企画。関わってくださった方へのインタビューを連載していきます。第1回は乙川貴絵(おとかわ・きえ)さん。

聞き手・文:川越恵子
※イニシャルで登場する人の注釈はokatteメンバー向けです


okatteメンバーになったきっかけ

 乙川さんがメンバーになったのはオープンして1年経ってからなんですね。最初からメンバーだったのかと思っていました!

乙川 そうですね。当時メンバーだったSさん(#西荻在住の元メンバーさん。マッサージのプロ)がイベントに誘ってくれたのがきっかけでメンバーになりました。
地方で農業をしている人と交流があるメンバーの方がいて、こだわって作ってらっしゃるお野菜のお話を聞きつつ、みんなでご飯を作って食べるイベントでした。参加者が50人くらい。全員初めましてだったんですが、今思えばメンバー以外の人が多かったですね。

 たくさんの人が参加されたイベントだったんですね。

乙川 私は、人と話すのがあまり得意じゃないし、行く前は大丈夫かなと思っていたんですが、人数が多かったので逆に紛れる安心感がありました。あらかじめ決まっていた料理はいくつかあったんですが、作りたい人は勝手に作る感じや、料理はしないけれど子どもの様子を見ながらプロジェクターで映画を見てる人がいたり、その自由さがよかったです。

 そのあとすぐにメンバーになられたのですね。

乙川 新しいことをしてみたいと思っていた時期だったので、翌週のメンバー説明会に参加しました。当時は通しの会員番号がついていて、私は110番台でした。
一緒に入った人がすぐに「タイ料理の会」をしてくれました。参加者は4人ほどしかいなかったんですが、仕事終わりでヒョイッと来たメンバーTさん(#籐籠つくれるらしい。元メンバーさん)、Sさん(#オオカミゴッコな元メンバーさん)も感じが良さそうで、okatteって楽しいなと感じました。

今までしなかったことに挑戦しよう!とちょっと頑張っていたかも

 その後はどんなふうにokatteとかかわっていったのでしょうか。

乙川 このインタビューをお受けするからと自分のSNSを振り返ってみたんです。そうしたら、メンバーになってすぐのオープンデーで私が「ゼロ円フリマ」をやっていた。不用品を「ご自由にお持ちください」って出すだけですが、なんかすごい積極性のある人だなって(笑)。あとは、okatteの本棚はメンバーの持ち寄り本を置いていて、私も本を置きました。読んでくれたら嬉しいなと思って。okatteアワー(※1)にも行って、初めてお会いするメンバーの方とご飯を食べておしゃべりしたりしていました。

(※1)okatteアワー:メンバーが予約をせずに使える時間。夕飯どきなので、買ってきたものを食べる人、材料を持参して作る人など、ふらっと来て割り勘でokatteを使うことができる。

「ゼロ円フリマ」「0円均一」などと書いて、ご自由にお持ちくださいコーナーをつくる


 今思うと、その積極性は意外なかんじですか?

乙川 今までしなかったことに挑戦しよう!とちょっと頑張っていたんだと思います。それまで10年間くらい、ほぼ専業主婦として暮らしてきて、子ども経由で広がった世界はそれはそれですごくよかったんですが、この先子どもが成長していくことを考えると、家族以外の世界との隙間が大きすぎるぞ、このままじゃ人とのコミュニケーションがとれないかもと少しヤバさも感じていて。もともと一人でコツコツすることが好きで、みんなと一緒に何かをした成功体験があまりなかったので、なんかこう、一人でやることより、みんなでやることができたほうがいいんだ!そっちのほうが価値があるんだ!という思考に偏っていたかもしれないです。今思うとバランスが悪かったかもと思います。

 そうだったのですね。okatteアワーに行くのは勇気が必要かなと思うのですが。

乙川 okatteに対するベースの気持ちが、ご飯を一緒に食べる人がほしい、増やしたいだったので、メンバーと知り合うのが楽しかったんです。当時、ママ友は増える環境にあったけれど、メンバーには独身の人、バリバリ仕事している人、全然知らない仕事をしている人など、ここに来なかったら接点がなかったであろう人と普通に話ができるのは、なんかちょっと救われました。自分は、話すネタを持ってるほうじゃないけれど、違う生活をする者同士で話すだけで、なんか面白かったんです。

 メンバーになってみたら、印象と違ったなと思うことはありましたか。

乙川 どんな人がいるかとか何をしたいとか考えていなかったので、ギャップもありませんでした。とりあえず入ろうみたいな感じで。当時はサイボウズ(※2)というグループウェアを使ってたんですが、メンバーの名前がバーッと書いてあるのを見て、いずれ会うのかなとか、お会いすると、あの人だ!と思ったりしていました。okatteアワーに行くと、その場にいないメンバー、例えばKさん(#いまは伊豆にいるあの人)の名前がよく出てきて、すごく愛されてる人だな、いつか会えるかなと思ったり。今思えばKさんはその時はもう東京に住んでいなかったかも。
メンバーそれぞれ使う時間も違うから、実際によくお会いする人は10人ほどだった気がします。それにプラスして時々会う人が10人。あとは、ほとんど会ったことはないけれどサイボウズよくしゃべっているのでお名前だけ知っている人がいる感じでした。

(※2)サイボウズ:当時メンバー間で利用していたグループウェア。情報共有・利用予約・意見交換に使っていた。なお、グループウエア上でのやりとりについて、まち暮らし不動産は敢えてあまり介入せず、多少ヒートアップしてもなるべく見守っていた。途中で話がズレてきたら修正したり、考え方の整理をするなど、意見を言いやすい・聞きやすい環境作りだけに注力。現在も月に一度「メンバー定例会」を開き、気になったこと、気持ちや意見を言いやすい・聞きやすい場を設けるようにしている。


メンバーになってみて変わったこと

 グループウェアでの交流が活発だったのですね。

乙川 私は自分から書くことはなかったんですが、「こういうことがあってちょっと嫌だった・気になった」とか、わりとみんなサイボウズに書いていて、書いた本人も、それ以外の人も意見を言ったり聞いたりしているのを読むのが好きでした。

 たとえばどんなやり取りがあったんですか?

乙川 okatteで、ホタルを放って子供達と鑑賞したいという人がいたんですよ。楽しそうだけど衛生的にどうかなと思う人もいるし、そんなに気にならない人もいる。私はどっちかなとか、そういうふうに思う人もいるのか〜とか、みんなの意見を読みながら考えるのが面白かったです。当時の私は「人とのやりとりを見直そうモード」に入っていたから、みんな素直に発言しててすごいな、こういうのありなんだなって勉強になりました。意見がぶつかっているときに別の人が違う角度からスマートに入ってきてその場がおさまったり。なんだかみんなが大人に見えました。

 誰かの言葉やふるまいで場がいい方向におさまる経過を知ると、自分も意見が言いやすいだろうなと思います。信用度が増す感じでしょうか。

乙川 メンバーにたいして、「ルール守ってよー」とか「もう!書いてあること読まないんだからっ」とか思うタイミングもありますし、みんなが常にすごくちゃんとしてるわけでもないんですけど、みんななんか立派に見えるんですよね、不思議と。自然とメンバーの良いところが思い出せるんです。もちろん人だから得意だなとか苦手だなと思う人もいるとは思うけれど、嫌いにまではならないんです。

 サイボウズでの様子だったり、お会いして話したり、各メンバーのいろんな面を知るからでしょうか。こういうところもあるけど、こういう面もあるんだなと。

乙川 そうかもしれないです。あと印象的だったのは、ちゃんと覚えてないんですが、okatteアワーでお酒を結構飲んでいたのか、片付けがままならず食器棚の中に食べ残しがそのまま入れられていたことがあったんですって。私はそれをグループウェアで知って。もしそれがグループウエアに書かれずに、その日に使っていただろう人だけに伝えられて、他の人は知らないってことにならなくてよかったと思ったことがあります。ひっそり誰かが誰かに怒られておしまいじゃなくて、みんなのこととして「みんな片付けをちゃんとやるほうがよいよね〜」って扱われることのほうがいいなって思いました。

 誰かを悪者にするのではなくて、みんなの課題として扱われるんですね。

乙川 メンバーになったときに、「ここはメンバーシップです。まち暮らし不動産はサポートするだけです」「メンバーがお互いにルールを作りながら使うところです」って説明されたんですけど、そのときは、人がたくさんいるから、みんなで色々やったりやらなかったりするってことかなくらいの気持ちで、その意味が分かってなかったと思います。

 今は、メンバーシップをどのようにとらえていますか。

乙川 例えば、この8年間で3,4回体験したのですが、「キッチンのスポンジと布巾問題」がありまして。

 スポンジと布巾?

乙川 メンバーどうしが使い合うキッチンなので、スポンジや布巾の使い方が気になる人がいたら、その都度みんなで話して約束事が変わってきたんです。「食器を洗うスポンジで流しを洗ってもいいの?」みたいな話が出たときに、以前の私は、うっかりすると、もし気になる人がいるんだったら衛生的にめっちゃ安全にしよう、という方向の意見を言っていたと思うんです。メンバーになる前は、okatteのことに限らず、人が何か心配したり不安になっている時に、その不安に対して全員がそれに協力するのがいいことだと思っていたので。でも、実際にokatteで採用されたルールは「スポンジを使う時に気持ち悪いと思ったら、その人の判断で、その場で、新しいのを出して使ってもOKにする」というものでした。「全員が、何日ごとに必ず交換する」とか「全員が、消毒の仕方は必ずこう」とか、そういうのじゃなかった。日常使いだとそれでいいんだな、と。

 その時のメンバーで、不安や無理がない方法を調整していくのですね。

乙川 そうなんです。その人の心配は取り除きつつも、他のみんなも無理がない感じでできることはあるんだなとか、いったん決めた約束を決めなおしていいんだなとか、調整可能なケースが多々あるから、話すってめっちゃ大事だなって思うようになりました。結果、そのほうが居心地がいいなと感じています。


自分はこれが好きなんだな、と実感することもできた


 ところで・・・乙川さんと言えば「刀削麺」で有名とのことなのですが。

乙川 有名かどうかは分かりませんけど。(笑)okatte7周年イベントのときに、刀削麺(※3)づくりをしました。いや、全人類みんな一度は刀削麺を飛ばしたいと思っているはず!(笑)麺をシュッシュッと飛ばす姿がかっこいいですよね?専用の包丁も作りました。

(※3)刀削麺:練った小麦粉を板に乗せ、専用の包丁で削りながら同時に鍋に飛ばしいれる麺料理。

 えっ? 包丁を作ったんですか?

乙川 はい。刀削麺には専用の包丁があるんですが、遊びで買うには高いなと思って、自分で作ることにしたんです。刀削麺の発祥は、民族争いで武器になる刃物がすべて取り上げられたときに、村人が薄い金属から包丁を自作して調理したことが始まりらしくて。100均で金属製のスケッパーを買ってきて、研いで曲げようとしたんですが、うまくいかず。見かねた友人が研いでくれました。

 刀削麺を削る人もなかなかいないと思いますが、包丁まで作ってたんですね!

乙川 正直に言うと、「おもしろ枠」みたいなものを狙ったところはあります。okatteには料理教室を開いたり、ケータリングで大人気になる人とか、すごくちゃんとおいしい料理を作る人が多いので、私が普通に料理を作るのはハードルも高いし、面白くないなと思ったんです。

 私も飛ばす姿を見てみたかったです。

包丁だけでなく、タネをのせる板も自作してませんかね????

乙川 麺を飛ばす以上によかったのは、イベントに向けて刀削麺についての小冊子を作ったことです。メンバーのKさん(#ラー油のこだわりすごい人)が、いろんな配合で作ったラー油について、説明やうんちくを描いた小冊子を作っていて、とてもうらやましかったんです。言語化していくと、ああ、私は自分が面白いと思ったものをこっそり一人でやって、時々それを誰かにパッと紹介するのが好きなんだなってことが実感できました。

メンバーになった頃は「一人でやることより、みんなでやるほうがいいんだ!という思考になってた」って話しましたけれど、今は、okatteや仕事や他の活動などで、みんなでやる成功体験も経験して、一人でやることは一人で、みんなでやって楽しいことはみんなでやればいいだけだな、そこに優劣はないなと思っています。一人でやることをポジティブに思えるようになったのは、とてもよかったです。自分が好きなことをポツポツとやって、時々「こんなのあるんだけど」って見せて、それを「なにこれ!」とか言って面白がってもらえることが超楽しいんだなって分かりました。

 優劣がない、ってことにたどりついたのですね。なんだかとても励まされる言葉です。
 さて、現在は、まち暮らし不動産の一員として、okatteのコーディネーターをしていらっしゃいますが、okatteの見え方は変わりましたか。

乙川 あまり変わっていないような気がします。オープンデーや定例会のときに掃除に行く(※4)みたいなことは、以前から変わらずやっているので。ただ、新しい人を見かけたら声をかけるようにしているのは以前と違うかもしれません。最近入った人に「ちょっとこの日に来ませんか」とお誘いしたり。ただ、自分でもメンバーとしてかかわってるのか、まち暮らし不動産の人としてかかわってるのか悩ましいときはあります。どちらかというと、まわりの方が、まち暮らし不動産の人として接してきてくださると、「あっそうです。まち暮らし不動産の人です」って感じかもです。

(※4)定例掃除:だいたい月1回、来られるメンバーでエイヤーって掃除をすることになっている

 okatteとのかかわり方はかわってきましたか? 

乙川 以前に比べればokatteを使う頻度は減っているかもしれません。今は、仕事だったりokatte以外の活動だったりで自分で何かを企画することは充足している感じがあって。あと、okatteで知り合った人と出かけたりご飯食べたり、okatteで会わなくても会える関係になったこともあると思います。でも、okatteアワーとかに誘ってもらったときは、興味があったら参加しています。やっぱり楽しいですし。


乙川さんの【okatteのベスポジ】は?

 最後に、これは今後のインタビューで皆さんに聞いていこうかなと思っていることで。「okatteのベスポジ」を聞きたいです。ここに座るのが好きだなとか、ここから見る風景が好きだなとか。乙川さんはどこでしょう?

乙川 ああ〜〜。私は土間のテーブルに座って、玄関側を見るのが好きですね。格子のところから、外を歩いている人が「ここなんだろう?」って見ている姿や、チラシを取ろうとする様子が見えたり、通りすがりの子どもが外のポンプをガチャガチャやっているのが見えたり。okatteに興味を持ってくれてるなと思うのがすごく楽しいです。あとメンバーが玄関からトコトコって入ってくるのを見るのもうれしくて好きです。

 本日はありがとうございました。

乙川 ありがとうございました。


乙川貴絵さんの「okatteベスポジ」は、「土間のテーブルに座って、玄関側を見る」。(photo by SHUHEI TONAMI 2015)



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