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アランマーレ熱烈応援ブログ「編集長のひとりごと side アランチャ vol.20」

【Never ending journey-終わりなき旅の途中でー】

私は、今日の日を忘れることはないだろう。
7年間も望んで、焦がれて、待ち続けたことが現実となったのだから。
今でもまだ、夢のような気がしている。
でもこれは、まぎれもない現実。
遠く長岡の地で、彼女たちは成し遂げた。
歴史は、私の目の前で・・・確かに変わったのだ。

【DAY1 4/8 1点の重さ】

私は、アオーレ長岡という会場のことを、忘れることはないだろう。それは、いいことがあったからではない。
できれば、アランマーレを応援するという場面では、ここを訪れたくはないと思う。
それくらい、初日の戦いを見ているのは、苦しかったから。

チャレンジマッチ第一戦。もちろん相手は、ヴィクトリーナ姫路。代表選手を擁し、サイズもあり、攻撃力もある強敵。
その相手に、アランマーレは挑んだ。
「奇策を選んだ時点で負けている」とは、某スポーツ漫画で読んだ台詞だっただろうか。しかしアランマーレは、格上の相手に奇策ではなく、自分たちが磨きに磨いたサーブ&ブロックで真っ向勝負を仕掛けたのである。

この日強く印象に残ったのは、菅原里奈の活躍。
サーブではネットをツライチで攻めたかと思えば、相手の裏をかく落とすサーブ。変幻自在かつ緻密な計算で姫路から連続得点を奪う。

菅原のサーブはチームに流れを呼び込んだ

そうかと思えば、今度はブロック。昨年度とその前、2年連続ブロック賞を獲得した伝家の宝刀を思う存分抜いては、姫路の強力なスパイクを寸断する活躍を見せた。

ブロックでもその才能を発揮した菅原

そしてこの日、もっとも相手チームに脅威を与えたのは有村涼美。レフトから、ライトから。そしてバックセンターから。驚異的な跳躍力で離陸しては、時に目にも止まらない速さでスパイクをフロアに突き刺したかと思えば、時に強烈な一撃で相手ブロックを粉砕してブロックアウトを拾う。キャノン砲のようなその攻撃力をいかんなく発揮して、アランマーレの第1、第2セット連取の立役者となった。

スズミキャノン、炸裂!

しかし相手はV1。そう簡単に勝たせてもらえるわけがない。第3セット、ライトを中心にした鋭いスパイクで狙いを分散させてくる相手に対し、アランマーレは守備が追いつかずにミスが出始める。ライトに振られた意識の反対側では、上背に勝る強烈なスパイカーが攻撃を展開し、アランマーレは押し切られる形で第3、第4セットを失う。

迎えた第5セット。空気がとてつもなく重く感じる。大きく離されることはないものの、姫路に先行を許す展開。15点で決まる最終セット。サイドアウトを繰り返すだけで、勝利への時間は削られて行ってしまう。
私はファインダーを覗けなくなっていた。息ができないような感覚に陥って。それくらい、この時間はキツくつらいものだった。
しかし、チームの司令塔は落ち着いていた。

成長著しい司令塔、石盛

疲れの見える有村に代わって投入された、前田美紅を有効に使い、そこまでサイド一辺倒だった攻撃にバックセンターを取り入れる。これで相手の注意が分散され、木村のブロックアウトや、伊藤摩耶のセンターやライトからの攻撃が息を吹き返した。
そしてこの日のバランスブレイカーとなったのは、アランマーレの仕事人だった。

必殺仕事人、柳沢紫子

胃がねじ切れそうな空気のなか、柳沢は宙を舞う。そして放たれたサーブは、とんでもない速度で、ネットをツライチで舐める。相手だって、この場面「入れてくるだろう」と思っていたに違いない。でも、アランマーレの仕事人はそんなに甘くはなかった。
カメラのファインダーからあっという間に切れてなくなったボールは、糸を引くように相手レシーバーの横をすり抜けサービスエース。
流れは完全にアランマーレに傾き、以後相手に戻ることはなかった。

デュースの末の劇的勝利を呼び込んだ柳沢

相手チームのことを悪く言う気はないし、尊敬している。でもきっと思ったのではないだろうか。

「これがV2のチームなのか」と。

菅原のブロックは実に6本である。相手の身長よりはるかに小さいミドルにワンチを取られてつながれてサイドからしぶとく崩されたかと思えば、次のターンでは自分の着地より早くボールを足下に突き刺される。
また神出鬼没のパワースパイカーに翻弄され、プレッシャーを感じないかのようなピンチサーバーに試合を一気にひっくり返される。
そんな想定外の驚きを、アランマーレはこの試合の勝利で格上の相手の心理に刻み込むことができたのではないかと・・・私は勝手に思っている。

【DAY2 4/9 扉】

明けて翌日。私は神経の昂ぶりを感じていた。
昨晩、なかなか寝付けなかった。
翌日の逆転敗北におびえていたわけではない。

歴史が変わった瞬間を、どうやって撮ろうかを考えて、頭で反芻している間は脳細胞が活発化するばかりで寝られなかったのだ。

バレーボールの試合なんて、撮るところが限られているから、当然メディアもカメラマンもそこに集中する。場所取りに敗れたり、お金を払っていい席を買ってくれているお客さんの邪魔になっても悪いしと・・・ぶっちゃけそれでシャッターチャンスなんてごまんと逃しているものなのだ。でも今回自分は、アランマーレ側の配慮で、チーム広報として会場に入ることができていた。簡単に言えば、マスコミもアリーナ席もない、JURY側、アランマーレのベンチ裏でも撮影が可能だったのだ。
私はそこに、歴史を撮る千載一遇のチャンスをゆだねることにした。

果たして、試合は始まった。
この2試合を通じて顕著だったのが、トータルディフェンスが完全に機能していたこと。有薗、木村を中心に、ブロックで方向を限定したスパイクを拾いまくって、攻撃につなげる。そのいい流れがこの日はさらに加速していたように感じた。

低く、鋭い動きで相手の攻撃を受け止めた有薗

そして、攻撃陣。
メソマチは時折モンスターブロックを決めて相手の流れをはじき返し、絶好調のジャンプサーブで相手の守備陣を崩しまくった。スパイクという面では物足りなかったかもしれないが、それがチームの、石盛のチョイスだったと、私は感じた。

メソマチのエア・ウォーク

前田美紅は、前日の疲労が残る有村に代わってスタメンで出ると、変幻自裁の攻撃を発揮し、姫路のブロックをあざ笑うかのように得点を重ねた。
シーズン終盤の不調が嘘であるかのように躍動する前田は、歓喜の瞬間への時計の針を着実に進める活躍を見せた。

見事に復活を遂げた前田美紅

そして、2日間にわたり、チームを攻守で支えたのは木村友里。前田がブロックにつかまると、その仇とばかりにレフトを強襲。巧みなフェイントと強烈なスパイクからのブロックアウトで、相手に流れを渡さない。V2屈指のテクニックを存分に発揮して危機を救った。

これぞ主軸の活躍を見せた木村

試合は、アランマーレが2セットを連取し、迎えた第3セットも一方的な展開となる。とどめを刺すかの如く、終盤でコートに投入されたのは、もう一人の仕事人、草島華穂だった。

眼光鋭く勝機を見据える草島

この選手の「目」が好きである。サーブを放つ前と、打ち据えたボールを見送るあの目線。草島にはきっと「勝ち筋」が見えているのだろう。
放たれたボールは伸びながら、2人のレシーバーのちょうど中間を抉ってサービスエース。カウントダウンが始まった。

この日最後に舞台に立った女優の名は、伊藤摩耶。
ビッグサーバーを揃えるアランマーレにおいて押しも押されぬナンバーワンサーバーだと私は思う。
揺れながら伸びたり、落ちたり。しかも球質は重く、レシーバーの手は押し込まれる。彼女がサーブで作り出したチャンスは数知れない。
バレリーナのような優雅なフォームから、伊藤は魔球を繰り出し、マッチポイントを手繰り寄せた。

華麗なる狙撃手、伊藤摩耶

昨晩思い描いた場面がもう手の届く場所にある。
でも私はその瞬間が近づくほど、妙に落ち着きを感じていた。
予行演習は頭の中で済んでいる。なんなら、試合前に現場も下見した。もうそこへ行って、障害物がない場所でカメラを構え、シャッターを押し続ける。それだけ。

歴史が変わる瞬間に、自分に与えられた任務なんてそんなもんである。
そう思ったら、気が楽になった。
私は向かった。そして立った。

伊藤摩耶は、私の目の前でまたも低く鋭いサーブを放った。今度はボールが鋭く落ちた。
相手レシーバーは前にダイブ。その場面は私からでは見えない。
でもボールはあさっての方向に飛んでいき・・・力無くフロアに落ちた。

ゲームセット。
コート中央に戻る伊藤が、選手の輪に取り込まれる。
柳沢が、石盛が、前田が、メソマチが、有薗が・・・手を広げて伊藤を包み込む。
木村はひざを折って喜びに震えている。
木村を抱きしめるように、菅原が走り寄って縋りつく。宮本がその背中を抱く。
有村が、草島が・・・リザーブの選手たちが次々に仲間の背中を抱きしめる。
歓喜の輪の中心で祈るように両手を掲げる伊藤。

ついに扉は開かれた。
夢にまでみた瞬間。それは私が頭の中で思い描いた風景そのものだった。

V1昇格を達成したアランマーレ

歓喜の輪の向こう。立ち上がり両手を振りあげて拍手を送る人たち。それはただの人の集まりではない。アランマーレというチームが結んだ絆によって、この長岡の地に集った仲間・・・航海の仲間。
これだけ多くのひとを結び付けたことは紛れもなくアランマーレが起こした奇跡。
でもこの勝利は、決して奇跡ではない。培った実力でつかみ取った成果に他ならない。

私はもう、クリアな映像を自分の目で見ることは叶わなかった。見る間に視界がにじむ。カメラマンらしからず、嗚咽を繰り返す。

その瞬間、私はカメラマンでも記者でも広報でもなんでもなく、ただの一人のちっぽけなファンに過ぎなかった。

ヒロインインタビューは、当然、木村友里である。
彼女らしい、勝利におごらず、一番大事なものを忘れない、すばらしいスピーチだった。

ヒロインインタビューでの木村

彼女にとって大切なのはきっと「感謝」の2文字。2018年。アランマーレが強く、勝てるチームへと舵を切り始めたのは、木村の加入が大きかったと自分は思う。攻守に活躍する木村を中心に、菅原、伊藤のミドルコンビが攻撃力と機動力を加え、次々に攻撃的な選手が集うことで、アランマーレは今の強さを手に入れた。
そんな功労者である木村だが、いつもファンへの感謝を忘れない。そして、次の戦い・・・V1での戦いに向けて気を引き締めつつも、ファンに「一緒に戦ってほしい」と呼び掛けていた。

ファンに手を振る木村

【終わりなき旅】

閉ざされたドアの向こうに 新しい何かが待っていて

なんて歌があったっけ。
アランマーレは、今シーズン、V2優勝、V1昇格という2つの悲願を一気に実現させた。
でもこれは、始まりに過ぎない。昇格自体が目的ではないはずだ。そこで戦って勝つのが目的のはず。そうならば、今日の歓喜だって、通過点のひとつなのかもしれない。厳しいものだ。勝負の世界は。
長い旅になるね、V1も。

でも今は、今だけは、戦いを忘れてゆっくり休んでほしい。
君たちはがんばった。それは私が、私の仲間が、ファンが証明する。私たちは見てきた。練習でのがんばりを。しくじりを。悔し涙を。時に諍いまでも。
でもそれを全部乗り越えて、扉をこじ開け、私たちに最高の景色を見せてくれた。だから今は休む時だ。次なる長い旅に向けて、体力を回復させ、英気を養うとき。

休暇が終わったらまた会おう。
オレたちは心待ちにしている。君たちのほっとした笑顔を。V1に向けた希望のまなざしを。

おめでとう、アランマーレ。
厳しい戦いだったけど、俺たちは信じていたよ、必ずやれると。
だって、言い続けたじゃないか。

君たちには、俺たちファンがついている・・・ってね。

「長岡の奇跡」この風景は、のちにそう呼ばれるのだろうか


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