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アランマーレ熱烈応援ブログ「編集長のひとりごと side アランチャ vol.16」

【Under pressure ー重圧との戦いー】

【注】最初に。これは個人的なブログであって、別にオフィシャルとして書いているものではありません。私はその試合で印象的だった選手によくスポットを当てます。全員を平等に登場させるなんて写真の腕も持っていません。今回は特に一人の選手に思い入れて記事を書きました。それでも良ければ下記の文をお読みください。

わかりきっていたことである。今季初の公式戦。プレッシャーは内外から押し寄せる。「結果を残してリーグ戦に向けていい流れを作りたい」「今季の趨勢を占う」「ここで通じなきゃ云々・・・」この戦いに関するさまざまな「声」は、自分たちの心から漏れ出てくるし、外から聞こえても来るだろう。
V・サマーリーグ。一種独特な雰囲気の大会だと、3年前藤沢で思った。V1・V2そして大学選抜が入り乱れ、全国(東日本)から集まった各チームのファンが見守る中で真夏の覇権を争う。あるチームは若手中心のメンバー構成で今後の育成を見据え、あるチームはフルメンバーで現時点での自分たちの立ち位置を確認する。
私は、3年ぶりにその混沌に立ち会うことにした。理由はさまざまあるが、どうしても気になることを自分の目で確かめたかったから。
灼熱の埼玉県深谷市に降り立ち、大汗をかきながら深谷ビッグタートルへと歩みを進めた。

【DAY1 7/1】

大会最終日、日曜には酒田にいなければならない。そんな理由で、自分の参戦は1日目と2日目の予選リーグのみ。サラリーマンも父親もなかなか大変なのである。
この日の試合は1試合のみ。対戦相手はいきなりV1の黒部。格上との対戦である。試合前、アップを行う選手たちの表情は明るい。動きも軽いようだ。少し安心しながら、審判団のいる方に目をやると、一際引き締まった表情で、いつも通り腕を後ろに組んでまっすぐ立つ姿が目に入った。

木村友里主将

そう。今シーズンから主将となった木村友里である。5年目のスター選手の主将就任。なるべくして主将になったという人も少なくないと思う。でも自分は、きっとさまざまな思いがあってこの重責を担うという決断をしたんだろうと、勝手に感じている。キャプテンシーだとか、まとめぶりを見ようとか…そんな上から目線では決してなく、いちファンとして、主将という重責を受け入れた木村の「今のプレー」を見たかった。それが、埼玉に来た一番の理由である。
彼女の試合会場での表情は何度も見てきたが、この時、少し重苦しさを抱いているように自分は感じた。

試合は滑り出すように始まり、第1セットはシーソーゲーム。この試合の攻めの主役は、間違いなくメソマチ。敢えて言うが、ハマったときの高さと破壊力はV1クラス。万全な体勢で打たれたら正直どうしようもないのだ。

高さ・強さは圧倒的だったメソマチ

そして守りというかブロックの主役はもちろん、ブロッククイーン 菅原里奈である。もはや相手のスパイクに対して菅原がいないと不安になるレベル。時にキルブロックを見せたと思えば、次はしぶとくワンタッチを取って味方の攻撃につなぐ。ブロックは攻撃の起点であるという、北原監督の持論を体現するそのプレーは圧巻だった。

まさにビューティフルブロック

主軸たちの活躍に、新人たちも堂々と加わる。リベロ有薗やOH小野山も監督の起用に応えて躍動。交代で出てくる選手たちも役割を果たし、アランマーレは黒部を2-0のストレートで破ることに成功する。V1チームに勝ったのは、5年位前のデンソー戦以来ではないだろうか。

観客席のファンにあいさつ(アランマーレポーズは今回無し)

殊勲の白星を挙げたアランマーレだが、第1セットは決して順調なゲーム運びとは言えなかった。フロアから見ていると、上背に勝る相手に押し込まれると、選手たちの表情が一瞬曇るのが如実にわかる。そしてそれをなかなか切り替えることができず、失点を重ねる嫌な展開。実際、第1セットは先行するも一時逆転されながら、なんとか接戦をものにしたといった展開。その劣勢を跳ね返すきっかけとなったのは、木村の連続サーブだった。今回プレスは片方のエンド側でしか撮ることができなかったため、どうしても試合の半分はバックショットになる。でも後ろから見ていると、彼女のサーブの明確な狙いが素人にも強く感じられた。主将のサーブはこれ以上ないくらいに「攻めて」いた。

そのほか技術的なことはよくわからない。でも主将として初めての公式戦、自らのサーブで劣勢をひっくり返して見せた。まずはプレーで見せてくれたといったところか。

【DAY2 7/2】

昨日良かったからといって、今日もいいとは限らない…それが勝負の世界というものだ。
翌日の相手はまたもV1上尾。この試合は、正直力の差を見せつけられたといった感じだった。しかし1セット目は惜しいところまで持っていくも取り切れずにセットを奪われ、2セット目は一気に寄り切られたといった感じ。「これは追いつけるんじゃないか?」と思った瞬間は、この試合に限ってはほとんどなく、選手たちの間にも重い空気が漂うのがわかった。

そして次の相手は仙台。仙台もまた黒部を破っており、この試合に勝った方が2位として順位決定トーナメントに進出する。先程の敗戦を引きずっているのか、アランマーレは得体の知れない雰囲気に飲み込まれてしまう。
仙台は昨年のサマーリーグにおいて、アランマーレを破るなど大躍進を果たしたチーム。短期決戦で乗せてしまうと手が付けられない印象がある。昨年のいいイメージも残っているだろう。実際、この日もそうだった。
対してアランマーレ。このチームの伝統と言いたくはないが、押し込まれるとどうしてもミスが顔を出す。そして選手たちの表情が途端に曇りだす。それに加えて仙台の明るい雰囲気は対象的。一気に走られて、大差で1セットを失った。
セット間のインターバル。選手たち自らの奮起を促すかのように早めに円陣を辞した北原監督に代わって、円の中心にいたのは木村。監督からこの後の交代を告げられていたのかはわからないが、決して激しくはない口調ながら、チームメイトを鼓舞する横顔には、昨日の朝に感じた重さがまだ残っていた。
第2セット。木村に代わって投入された小野山が持ち前の元気で、チームに勢いを与え、走り始めるチーム。

全身で喜びを表現する小野山博子

そしてこのサマーリーグでもっとも輝いたと言っても過言ではない前田美紅。2年目の今年、持ち前の伸びやかな跳躍と強打、軟打どちらもこなすシュアなプレーに磨きがかかり、この日も大活躍。彼女は今年のサマーリーグにおいて、フレッシュスター賞を獲得した。

サーブに、スパイクに、ディグにと八面六臂の前田(写真は上尾戦)。

このまま一気に寄り切るかと思われたものの、仙台のリベロ、佐藤あり紗選手が元日本代表の実力を遺憾なく発揮してアランマーレのスパイクを拾い始めると、選手たちは途端に勢いに乗り始める。一時は追いつかれる苦しい展開。それを弾き返したのは、スーパーサブ、天才バレーボーラー 柳沢紫子。リザーブの選手のお手本というにはあまりに出来過ぎの出来。投入されるや、直前の劣勢がまるで無かったかのように、まず必ず一本決めて相手の流れを切り、相手の短く小さな落胆に付け込むように、守備の綻びを見つけては切れ味鋭いスパイクを叩き込む。柳沢が投入されると、必ず変わる流れ。そして監督は機を見て再びメソマチを投入して畳み掛けるといった流れができていた。
(正直、個人的にはもっと柳沢選手のプレーが見たいとは思うが)

天才の二文字ではもはや説明できない「外さないスーパーサブ」柳沢(写真は黒部戦)

1セットを取り返して迎えた最終セット。序盤は木村、伊藤摩耶のサーブなどで特点を重ね、先行する展開。「勝てるか?」と思った時に、なぜか飛び出すミス。畳み掛ける仙台。5点はあったリードがあっというまに2点に。またものしかかる黒い霧。観客席のファンも一度は「悪夢」がよぎったのではないだろうか。私もそうだった。
しかし、ある選手がそれを救ってくれた。レセプションで安定したパスをセッターに供給したかと思えば、相手の鋭いスパイクに超反応でダイビングレシーブ。そして何より大きく響くその声。そう、現アランマーレの守護神にして最強のムードメーカー、長尾のどかその人である。

プレーに、声に、気迫に。アランマーレに欠くことのできない選手、長尾(写真は上尾戦)

正直、安定感がハンパない。この選手、OHもセッターもこなすスーパーユーティリティープレーヤーであるが、リベロでもそのポテンシャルを遺憾なく発揮してチームを救い続けている。本当に素晴らしい選手だと個人的に思っている。

アランマーレは終盤息を吹き返し、仙台に辛勝。両チームの実績を考えれば、もっと早く試合を終わらせるべきだったかもしれない。しかし、ここは挑戦の場・サマーリーグ。何が起きても不思議ではないのだ。私の予定はここまで。勝利者チームインタビューに応じる木村を横目に、ビッグタートルを後にした。

木村の勝利者インタビュー。企画の浴衣は…売れたのだろうか(笑)

帰り際、会場でお会いしたチームのOGやそのご家族のご厚意に甘え、最寄りどころか新幹線の駅まで送ってもらう自分(笑)会話が楽しかった反面、一人になって新幹線の座席に身を沈めると、一気に睡魔に襲われる。
寝ぼけ眼のまま新潟で乗り換えて、いなほの車窓から眺める越後平野、そして暮れなずむ日本海。風景が暗くなると、暗闇のスクリーンに途端に浮かんでくる景色があった。
今回の鍵となった初戦の黒部戦。私は普段撮らないバックエンドから、木村のあるプレーを撮った。木村と言えば、チームトップクラスの跳躍力と、長い滞空時間から繰り出す変幻自在の攻撃が魅力。でも、前の前のシーズンの最終戦での負傷から、少し鳴りを潜めたと思っていたその跳躍力。
しかしこの日、木村は跳んだ。灼熱の埼玉の空に、美しい放物線とともに。

豪快かつ美しいバックアタック。

鳥肌が立った。正直木村のこんなにすごいバックアタックを見たのは初めての気がする。バックセンターからぶっ飛んでいって、石盛のドンピシャトスを渾身の力で強打。
これぞバックアタック。かつて練習見学でよく目にした、あのスーパージャンプが帰ってきた。大活躍の昨シーズンよりむしろ飛んでいるんじゃないか。私は本当にうれしくなった。

主将の重圧は、なった人にしかわからないだろう。
佐藤円、森寿実子、そして宮本菜月。アランマーレのキャプテンは木村でまだたった4人目。それぞれのキャプテンシーがあり、その時々のチームにそれは色濃く表れていたように思う。
強烈なカリスマでひきつける者もいれば、優しさが表れている者も。それに比べると、木村のキャプテン像って少し浮かびにくいと思っていた。
でも今回、間近で彼女が率いるチームを見て、感じたことがある。
主将と他の選手の距離がとても近いのだ。
チームメイトが得点すれば、笑顔で駆け寄り、ハイタッチ。自らがいいプレーをすると自然と木村の周りに輪ができる。サーブとなれば、リザーブの選手からは祈るような声援が届く。

決して、大声で叱咤するような選手ではない。足りないところは自分が埋めるとばかりに、寡黙にプレーで引っ張るのが木村友里。それは、主将になっても変わることはなかった。だからこそ、選手たちは惹かれているのかもしれない。自然とついてきてくれるのかもしれない。「木村丸」の船出に際し、バレード素人の下手くそカメラマン兼記者は、そう感じた。

酒田に帰った翌日、順位決定トーナメントで、アランマーレは日立に敗れた。試合後のインタビュー、木村はやはり木村。感謝を忘れないしっかりとした受け答え。でもその笑顔は初日に比べて少し柔らかな気がした。
今シーズン、彼女はきっとチームを多くの勝利に導いてくれるだろう。
そして、控えめな笑顔できっとインタビューをこう締めくくる。

「応援ありがとうございました。次の試合も一緒に戦いましょう!」


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