フィクション

その日は酷く雨が降っていた日だった。
膝を抱え小刻みに震える女がひとり。
彼女の名前はアキコ。明るい子と書いて明子という名前だ。佇まいからは想像し難い名前だった。
僕はそっと傘を彼女の上に差し出した。
明子は小刻みに震えながら、その傘に目を向け、そしてうな垂れた。まるで、そっとしておいてと静かに怒っているようだった。
僕は、なぜ彼女に手を差し伸べたのか、なぜ彼女に目を向けたのか少し後悔しているような、しかしながら、放っては置けない、いつもの「いいひと」癖が、僕をそうさせたのだった。覚悟もないくせに。
今更後悔しても、もう時は遅かった。どうしようかと考えていると彼女はかすかな声で「優しいひとはいつか裏切られるから、さっさと私から離れて・・・」
僕はとっさに「ずぶ濡れになったキミをこのまま立ち去るなんてできないよ。確かに、僕は何度も何度も騙され続けてきたけど・・・人は案外悪いものではないんだよ。」上っ面の言葉がとっさにでた。
彼女は睨むようにわたしの顔を見上げて、唾を吐き捨てた。
僕はとっさに唾がかかるのを回避しようと後退りした。

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