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私の天使、エンゼルクリーム

小さい頃、初めて食べたドーナツは、エンゼルクリーム。
小さい口でかじりつくと、白いクリームが溢れ出てきて、うまく食べられなくて泣いた記憶がある。

看護師の国家試験の勉強しながら食べたドーナツもエンゼルクリームだった。
21歳にもなれば、参考書を片手でもクリームをこぼす事なく上手に食べられるようになっていた。

看護師になり、仕事にも慣れてきたある日、出勤して、病棟が見えた時、何かが違うのを感じた。
 
「321号にエンゼルキット持っていって!」
エンゼルキットとは、死後処置備品のことだ。
 
「えっ」
321号室は私が担当しているSさんの部屋だ。
 
「2日前から血圧も下がってきてて。娘さんは昨日来ていたけど、今朝は間に合わなかったんだ。」
エンゼルキットを持った同期の友人が息を切らしながら教えてくれた。
 
夜勤後の連休中で患者さんが亡くなったり、退院などで受け持ち患者さんが全員変わってしまうことも珍しくなかった。
 
「Sさん・・・」
 
Sさんは、3日前の夜勤の朝の最後の訪室の時に、疲れた顔を見せてしまった私に笑ってこう言った。
 
「白衣の天使はどこに行っちゃったのかな?プロの天使なんだからしっかりしなさいな。私はプロの患者よ。
でもね、プロも休むことも大事。早く帰ってゆっくりしてね。今日もありがとう。私もゆっくりするわ」

その日のお昼、Sさんの娘さんがお世話になったと、断っても置いていったエンゼルクリームを手に取った。
泣きながら食べたからか、天使のクリームが溢れ出した。
もっともっと天使に近づけるように、頑張ろうと思った日だった。

あれから10年、隣に座っている私の天使、4歳の1人娘は綺麗にフォークでエンゼルクリームを食べている。

私は人生の中でどれだけの天使に出会うのだろうか。
色んな天使に出会わせてくれたミスド、本当にありがとう。

折り返しの人生を少しでも素敵に。 アップルコブラーというスイーツが好きです! それを手に入れるためのものも好きです。。。