見出し画像

『魂の万国博覧会』の旅

ひきがえると舟


あるところに女がおった。

女は、どこから来たかも知らず、どこへ行くかも知らなかった。


あるとき、男の子を生んだ。


十六年の後、男の子は立派な男に成長した。

男は、母のいいつけどおり旅に出た。

西に向かって森の中を進んでいった。


そして、目の前に海があらわれた。

海をはじめて見た男は、

「この先になにがあるのだろう。」

とおもった。


男が浜辺を歩いていると、自分を呼ぶ声に気づいた。

「もうし、おにいさん、お待ちなさい。」


男は、呼ばれたほうに顔を向けると、大きなひきがえるが一匹こちらを向いていた。

男が、

「なにごとですか。ひきがえるさん。」

と、ひきがえるに尋ねると、

「海の向こうに行ってみたいのじゃろう。」

男は、

「はい、その通りです。なんとかならないですか。」

と、答えると、

「時がかかるがやってみるか。」

男が、

「ぜひ教えてください。」

と、答えると、

「まず、住む家とは別の家をたてなさい。」

男が、

「これは何ですか。」

と聞くと、

「舟をつくる家じゃ。」


男はいわれた通り住む家とは別の家をたてた。


「つぎは、川のほとりの草をたくさん刈って舟の家の中で半年干しなさい。」

男はいわれた通り川のほとりの草をたくさん刈って舟の家の中に敷き詰め干した。


半年の後、ふたたびひきがえるがやってきた。

「つぎは、干した草をふっくらした三日月の形に編みなさい。」

男は言われた通り干した草をふっくらした三日月の形に編んだ。

「つぎは、臭い沼へいって沼の泥をたくさんとってきなさい。」

男は言われた通り臭い沼へいって沼の泥をたくさんとってきた。

「つぎは、沼の泥を三日月に編んだ全体に塗りなさい。」

男は言われた通り沼の泥を全体に塗った。

「おなじことを七回繰り返しなさい。そして半年待ちなさい。」

男は言われた通りさらに七回繰り返して沼の泥を全体に塗って半年待った。


半年の後、ふたたびひきがえるがやってきた。

「つぎは、木を三本切って枝を落としなさい。」

男は言われた通り木を三本切って枝を落とした。

「つぎは、二本の木を三日月と交差させるように並べなさい。」

「二本の木の間は、おぬしの座る広さを開けなさい。」

「そして二本の木と三日月は、蔓でしっかりしばりなさい。」

男は言われた通り二本の木を並べ蔓でしっかりしばった。

「つぎは、落とした枝いくつかまとめて二本の木の両端に蔓でしっかりしばりなさい。」

男は言われた通り落とした枝を二本の木の両端に蔓でしっかりしばった。

「つぎは、残った一本の木の両端を平らに削りなさい。」

男が、

「これは何ですか。」

と聞くと、

「櫂じゃ。これを右左交互に水をかくことで前にすすむのじゃ。」

「つぎは、大きなひょうたんを十個とってきなさい。」

男が、

「これは何ですか。」

と聞くと、

「水がめじゃ。海をわたるには何年もかかるのじゃ。」

「海の水は決して飲んではいかん。雨の水をためてのむのじゃ。」

男は言われた通り大きなひょうたんを十個とってきた。

「ひょうたんは、三日月の前と後ろに五個づつ蔓でしばっておきなさい。」

男は言われた通りひょうたんを三日月の前と後ろに蔓でしばった。

「つぎは、銛を二本つくりなさい。」

男は言われた通り銛を二本つくった。

「つぎは、魚をとれるだけとりなさい。」

男は言われた通り魚をとれるだけとった。

「とった魚は、鱗と肝をとって七日干しなさい。」

男は言われた通り魚の鱗と肝をとって七日干した。

「干した魚は、蔓に串刺しにして三日月の前と後ろでしばっておきなさい。」

男は言われた通り干した魚を三日月の前と後ろに蔓でしばった。

「銛は、二本の木にそれぞれ蔓でしばっておきなさい。」

男は言われた通り銛を二本の木に蔓でしばった。


「さあ、準備万端じゃ。明日はよい天気じゃから、朝を待ちなさい。」


翌朝、男は三日月の舟にのって南の海へ漕ぎだしていった。


ひきがえると舟 完

 


舟は、誕生のときからこの書が読まれるときまで、主に取引の移動のために使われる。


舟とは、好奇心の取引の異名である。

舟とは、期待の取引の異名である。

舟とは、蓄積の取引の異名である。

舟とは、奉納の取引の異名である。

舟とは、拡散の取引の異名である。

舟とは、人間の取引の異名である。

舟とは、冒涜の取引の異名である。


舟 完

 

ラクダ

 

ラクダは、人間との出会いのときからこの書が読まれるときまで、主に取引の移動のために使われる。


ラクダとは、勇気の取引の異名である。

ラクダとは、期待の取引の異名である。

ラクダとは、蓄積の取引の異名である。

ラクダとは、奉納の取引の異名である。

ラクダとは、拡散の取引の異名である。

ラクダとは、秘密の取引の異名である。

ラクダとは、渇望の取引の異名である。

 

ラクダ 完

 


この文章は、『魂の万国博覧会』で登場する取引の移動について考察したものである。

『魂の万国博覧会』の理解の一助のために記す。


三次元地球の余韻のときに記す。


〆 完

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?