ミキさんの腕時計は二つある マカピーな日々#0686
マカピーです。
マカピーがミキさんに会ったのはザンビアの仕事を通じてでした。
彼は空調会社の部長さんでしたが、とても腰の低い方でした。
ところが何故か彼の相棒のように一緒にいらしたお医者さんからはメチャクチャにイジメられても「ウフフ」と笑ってやり過ごしていました。
実は二人とも関西の出身で、バリバリの関西弁でしたがミキさんの語り口はいつも優しいものでした。
ある晩、我が家で仕事の関係者や協力隊の人を呼んでの、夕食会に来てもらうことがありました。
ミキさんはそこに集う若い女性たちを、まぶしそうに見ながらこういうのでした。
ミキ:「マカピーさん、ボクようわからんのです。どうしてあんな若い未婚の女性でもアフリカに来てバリバリ仕事できるものか、とっても不思議なんです」
ミキ:「ボクが若かったとして、協力隊員でザンビアの地方で活動できるかって聞かれたら、絶対無理って思うんです。だから彼女らホンマすごいなあって思うもの」
マカピー:「ミキさんも、今の仕事をずーっとされてきて大変なことももあったはずで、フィールドが違うだけで案外彼女らと同じだと思いますけど」
ミキ:「フフフ、そうかなあ。でも、やっぱ何か違うと思うよ。仮に自分の娘がアフリカ行きたいって言ったら、ボクはこちらの状況が分かるだけにどう返事したらいいか困っちゃうもん」
マカピーはある日ミキさんの袖口に二つの腕時計を見つけました。
マカピー:「なんで二つもしてるんですか?」
ミキ:「あ、これ?一つはザンビア時間で、も一個は日本時間。こうすると分かりやすいんで、海外に出るときはいつもこうしてます」
マカピー:「金属ブレスレッドの時計が二つ左腕にあると重くないですか?」
ミキ:「やっぱり時計は左腕が馴染むんで、時計の時間が二つ並ぶと安心します」
ミキさんは会社を定年退職する直前に出身大学工学部の博士号を取得されるほど努力された方で、技術もさることながら数学脳というか計算がメチャクチャ早い方でしたのに、日本との時差が7時間あるという計算はせずに腕時計を二つするのでした。
後でそのことをミキさんに尋ねると「勘違い」を防ぐ為というのです。
つまり、もちろん7時間の時差の計算はできるけど、ちょっとプラスするのかマイナスするのか一瞬戸惑うことがあるというのです。
あれれ、ルサカが10時ってことは・・・えーと、日本は17時だっけ、それとも3時だったかな?
その単純ながら重要な間違いを防ぐ為に「二つの腕時計」は有効だというのでした。
やっぱりミキさんは、おかしな関西人ではなくプロだったんですね!
マカピーは日本からザンビアに来る際の南アのヨハネスブルグ空港でのトランジット(乗り換え)の検査を思い出しました。
そこではザンビア行く国際線乗り換えなのに、もう一度手荷物検査があるのでした。
ズボンのベルトやラップトップ、腕時計などを外して別のコンテナーに入れてX線検査を受けます。
マカピーはそこを通過した後しばらく通路を搭乗ゲートに向かって歩いているときに妙な違和感を覚えたのです。
「しまった、腕時計を回収するのを忘れた!きっとあのコンテナーボックスの中だ!」
「セイコー5」という昔ながらの自動巻き時計だったのですが、さてどうしたものか?迷ってやはり検査場へ戻ることにしました。
乗客がいないので暇そうにしていた恰幅のいい女性検査官に声を掛けました。
マカピー:「スミマセン。先ほどここで検査を受けたものです。実は腕時計を箱の中に忘れてきてしまったと気が付いて戻ってきました」
検査官:「え?いつだって?」
マカピー:「そうですね、10分ほど経ちました」
検査官:「どういう時計?メーカーは?」
マカピー:「セイコー・ファイブで金属ブレスレッド、文字盤はブルーです」
すると、彼女は制服の袖をめくりあげて5つある腕時計をずらりと見せながら
検査官:「どれ?」
マカピー:「それです」
腕からマカピー時計を外して渡してくれました。
マカピー:「助かりました。ありがとうございます」
検査官:「フン」
彼女はもうこちらには興味なくなったと見え、そっぽを向いてしまいました。
あのコンテナーが深いので角度によって荷物が回収されないケースが多いらしいのでした。
そして遺失物は、あの女性検査官らのボーナスになっていたのかしら?
マカピーでした。
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