見出し画像

追い抜いていった車 マカピーな日々#0373

マカピーです。

バックパッカーでインドを乗り合いバスで旅をしていた時の事です。

当時のインドの道路はかなり劣悪でした。

道幅が狭く、予算が付かないのか何故かしら舗装路が道路の半分ほどしかなかったので両側は土埃の上がる状態が延々と続いていました。

そこをバスは王者の風格で人、家畜、自転車、牛車を蹴散らしながらガンガン走るのです。

舗装幅が狭いのに対向車が来てもバスの運転手はかなり強気で速度も落とさずチキンレースのようにギリギリまで粘るのですからマカピーのような小心者には耐えがたい光景が頻繁に繰り返されるのでした。

声には出さないけれど、目を見開いて「ヤバー、頼むよー、やめてよして!」と叫びながらありもしないブレーキペダルを踏んでいる状態でバスから降りるとヘトヘトに疲れ切るので、やがて前方が見える席には座らないようにしました。

ちなみにバスの事故に遭って一番生存率が高い乗車位置は中央部の座席だそうです。

ある時マカピーを乗せたバスが、裕福そうな人たちを乗せたアンバサダーに追い抜い抜かれたので「ハハーン、お金持ちの車には道を譲るんだ」とその光景を覚えていました。


それから30分ほど経つと道路前方に人垣ができているのが分かりました。

事故です。

マカピーも各地を旅して、娯楽のない田舎では「マカピー自身」が興味の対象で人が集まるほどでしたから、交通事故は最もエキサイティングな見世物になるのは必至です。

事故現場周辺でゆっくりと通り過ぎるバスの車窓から見えたのは、先ほど追い越したアンバサダーで、路肩から乾燥した水田に転落し大破していて乗車していた人たちの男女の5つの遺体が現場近くに並べられていました。

どうやら、全員死亡だったようです。

先ほどまで生きていた命がいとも簡単に消えている光景にマカピーの目から色彩と音が失われた感じがしました。

疾走する車の前に子供や動物が飛び出しそれを避けようとしてコントロールを失ったアンバサダーが転落事故を起こしたのかも知れません。

バスの乗客もその光景を一目見ようとマカピーのいる窓側にどっと押し寄せて来たので、マカピーは圧迫され椅子に押し込められ小さくなっていました。

マカピーは人々の食い入るように見開かれた沢山の好奇な目を見上げながら、彼らが口々に理解できない言葉を口走っていた様子が白黒のドキュメンタリーフィルムのように思い出されるのでした。


その後訪れたガンジス川沿いの聖地バラナシで遺体が荼毘にふされその灰が川面に戻って行く様子を眺めていた時の事も「生きる事」を考える光景となっています。

かつてインドの旅と言えば堀田善衛さんの『インドで考えたこと』(1957年、岩波新書)がありました。

マカピーもインドを旅して、追い抜いていった車の光景と共に「生きる事」を考えたのでした。

マカピーでした。

最後までお読みいただき感謝します。いまだに「生きる事」を考え続けているマカピーです。


もしもサポートいただければとても嬉しいです。そのサポートは感謝のバトンタッチとして使わせていただきます!