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【漫画感想】 個展 感想

※本記事は、ウルトラジャンプ2024年3月号に掲載されている、読切「個展」のネタバレを多く含む感想です。

購入してから読んで欲しい、切実に。


感想

アシスタントをしていたので、内容を読ませていただいていたのですが……
正直、これを読んだ時に「これを世に出すのか……」と戦々恐々としたものです。


 まず、元々個人の趣味の範囲で漫画や絵を描いていた円満堂と言う作家が、商業でデビューをした2作目にこれを持ってくると言う部分に「こ、コイツ……!」(愛です)となるんですが「自由に自分の好きな作品を作りたい」と「人に評価される(売れる)作品を作らなければならない」と言うほとんどの創作者がぶち当たる課題をこんなにエンターテイメントとして描けるのが凄すぎて、そして少しでも何かを創ろうとした人は絶対に読んで損はないと思う一作です。

ただ、こんな才能の塊に圧倒的な”凡人”を描かれてしまったら私達はどうすればいいんですか!?なんでもできるのかこの作者!!

 今回の話の主人公、お兄ちゃん。二人いるのでノーマルお兄ちゃんとメガネお兄ちゃん。商業作家であって、自分の好きなものを好きなだけ描くのを封印して複製原画を描いていたけど、夢は「個展」を開くこと。でも複製原画は人の模造、それが悪いわけではないしちゃんとした商売ではあるんだけど、個展はその名の通り「個」を展示するのだから複製原画では出来ない、でもそれしか売れない、それでしか生活できない、そして自分には絵しかない。ずっとずっと苦しい中で、嫌でも「自分が『誰でもいい』の中の一人だって自覚してしまう」。


描きたいものだけ描いて成功するなんてほんの一部で
それから溢れた人間はできない自分を呪って恨んででも何も出来なくって
何よりそうやって人にぶつかる僕が一番醜くて殺したくなる……
(作品より引用)


 これね……趣味で好きに描いてきて、商業でも描くようになって、異例の速さでデビューした円満堂と言う作家に「描きたいものだけ描いて成功するなんてほんの一部」なんて描かせてしまうとね、もうアカンと思った。凄すぎる。お前っ!成功している人間やんけ〜〜〜!!!こんな最高な作品として出力し読者に読ませられている時点でおまっ……この野郎!!!(愛)

 いや、円満堂先生だって好きに生きていつの間にかこんなになってましたちゃんちゃん♪って人じゃなくて、膨大な漫画と絵を描いてきて、鬼程インプットとアウトプットをされておられる先生だし、ここまで来るのにめちゃくちゃ色んなことがあったのだろうと思うんだけど、圧倒的な才能が「描けない苦しさ」を描けてしまうのが怖い。圧倒的な人間への解像度がなせる技です。円満堂先生の漫画はストーリーももちろん面白いし大好きだけど、キャラクターの言葉一つひとつが”生きている”のが好き。キャラクター達が確かに生きた証を漫画に落とし込んでいるのがすごい。もちろんエンタメとして描いているしケレン味もあるし、読者が読みやすいように読者のために描かれてある、というか読みやすい漫画の描き方やコマ割りの描き方ってある程度テンプレがあるけど、そういうのをフル無視してかつ読みやすい漫画を描けているのは何……?天才って言葉を安易に使いたくないし円満堂先生がこれまでに描いた漫画の枚数が努力を物語っているのだけど、それでもこの言葉に逃げざるを得ないこの才能が、社会に埋もれず漫画家としてこの世に花開いてくれたことがとにかく嬉しい。

 そして、メガネお兄ちゃんがずっとノーマルお兄ちゃんを殺したかったのも「コイツさえいなければ、楽に金を稼げて評価されるのに、描きたいものを描けないのは苦しい」って言う部分だったのかと思うと、これを考えない創作者はいないんじゃないかと思う。
「自分の好きなものを好きなだけ描いて、尚且つ評価されたい」
……って微塵も思わない創作者はほぼいないと思っています。……いや、自由に好き勝手描いて、評価は別にいらないって人もいるし、元々読者の為に読者が好きな作品を作るのが好き!って人もいる(私は実は後者です、性癖漫画ばかり描いてるけど)

「自分の好きなものを描きたい」「人のために描いて評価されたい(売れたい)」と言う二つの感情、心が二つある〜……(ハチワレ)そして、円満堂先生の出した二人のお兄ちゃんの殺し合いの結末が


君(人のために描いて評価されたいメガネお兄ちゃん)が焚きつけるから絵が描けるし、僕(自分の好きなものを描きたいノーマルお兄ちゃん)がいるから絵が描きたくなるんだ
(作品より引用)


 共存しないとそもそも絵なんか描けないよって優しく諭してくるんです、これが円満堂だ!!!天才!!!!!!!(安易に使っちゃってる!!!)
円満堂作品はバッドエンドでも鬱漫画でもなくて、リアルの中の人間讃歌を描いてくるのが凄い。円満堂先生って人間のこと好きだよ。とんでもねぇ!これね、圧倒的才能がこれやってくると眩しすぎて焦げてしまって光に焼けてしまいます。強すぎる太陽。肩組んで「描けない苦しさ、わかるよ……」って微笑まれてる、太陽に手を取られても普通に才能に焼け焦げて死ぬんだよね。ラスボスかな?
絵柄的にはドシリアスだしパッと読んだら鬱々バッドエンドかもしれないけど、ちゃんと読んで考察していくと本当に本当に人の幸せを願っている。いい漫画ですよ本当に……円満堂先生、LOVE……♡

 ……しかし、この漫画では最後晴れて「個展」を開くことができている。それは「自分の好きなものを描いて評価された」からではなく「お兄ちゃんは初めから一人だった」と言う数奇な運命を好奇な目で見られていただけ、という圧倒的な皮肉で幕を閉じるというわけです。おい!!!!!!!コラ円満堂!!テオは……?テオ、いなかったの……?読み返すとテオなんか初めからいなかったことがわかります。お兄ちゃんにしか見えていなかった幻覚、生まれる前に両親と共に死んでいた弟、だって髪の色も違うもんね……コラ〜〜〜〜〜〜!!!!!救いはないんですか……ないよ……

 ただ、私の中では3PB 7/6と同じく、死に際に幸せだっだら人生は幸せだったのではないのだろうかという価値観の元生きているので、ずっとずっと苦しかったお兄ちゃんが、何者でもない、好きなもので評価されないと苦しみ抜いて、好きなものを描く自分を殺したかったお兄ちゃんが、それも全部溶け込ませて「個」であると自分の中で納得して自己完結させたのは、何にも替え難い幸せの結末ではないのかと思うわけです。

在る筈のなかった”幸せ”に縋りたい。

 好きなものを描くだけでは評価されない、でも好きではない売れるものだけ描いていても死んでいく、どっちもあってもいいって中で、それでも好き勝手に商業漫画の中をかき回して欲しいと願っている。大好きだぜ……!



P.S
「パスタを描いてほしい」と言われてパスタを描いています。
「テオのパスタ減らさないでください」って指示がありました。
悪魔だと思いました。


君の生きた証を読めてよかったよ。

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