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なぜ北宇治高校吹奏楽部がコンクール全国金賞をとれたのか?


始めに

2024/6/30にTVアニメ最終回を迎えた「響け!ユーフォニアム3」
約9年にも渡る黄前久美子の高校3年間に幕が下りました。
私は3~4年前くらいからアニメにハマった新参者で原作を一気読みしたのも1週間前というニワカっぷり。
そんな私が記事のタイトルにもある通りなぜ北宇治が全国金賞を取れたのかアニメや原作の描写を元に、時には私の考えも交えて綴っていきたいと思います。なぜこんな記事を書いてるのかというと理由はありません。
ただ書きたいからです。あまりにも熱量の高い作品に出会うとこうやって外に何かアウトプットしないとずっと頭の中がモヤモヤするので。多分文字に起こすことで感情を整理したいだけなかもしれません。
そんな私の自己満足に付き合ってくれる方は是非最後まで読んでみてください。

先にも触れた通り原作の内容にもガッツリ触れていくのでもしこれから読むからネタバレやめてくれ~と思った方はブラウザバック推奨です。

構成は以下の通りです。


なぜ北宇治が全国金賞を取れたのかを主な3つの理由を軸に説明していきます。

1. 演奏技術の高さ

全国金賞を取るためには大前提となる演奏技術の高さ。
ここでは1年生編~3年生編までの原作やアニメの描写を元に北宇治吹奏楽部の演奏技術がどのような進化を遂げてきたかまとめてみた。

1-1. 1年生編 

北宇治は10年以上前、滝先生の父が顧問だった頃は強豪校だったらしいが今は見る影もない。万年府大会止まりの弱小校であった。
しかし田中あすか中世古香織という強豪校レベルに引けをとらない上手さを持つ3年生、中学3年間全国金賞というありえん成績を納めている聖女からきた川島緑輝、他を寄せ付けぬ圧倒的演奏技術を持つ高坂麗奈
アニメ2期1話ではこの4人がいるので北宇治は上を目指せるポテンシャルは元々あったと描写されている。
そこに滝先生の圧倒的な技術指導力と傘木希美との和解を経て一次開花を終えた鎧塚みぞれが加わり1年生編の北宇治は府大会止まりからいきなり全国大会銅賞という奇跡のような成績を収めた。
アニオリ設定ではあるが、特に関西大会で3強を破ったあの演奏は
"奇跡の演奏"
と呼ばれ関西の吹奏楽界隈では今なお語り継がれているらしい。
原作では小笠原晴香が北宇治の全国大会の演奏について詳細を語っていた。(アニメでは台詞カットしてあすかに言わせてた)
北宇治は慢心もなく100%力を出し切った。
それでも届かなった。これが私たちの実力だと。
先の晴香の言葉を信じるなら北宇治は精神的な面での問題はなかったが、実力=演奏技術が今一歩だったと。去年まで真面目に練習していなかった生徒も多い中、半年の練習で全国金賞が取れるほど吹奏楽は甘くないということなのだろうか。
私はあすか世代には演奏技術を磨き上げる時間が足りなかったと解釈した。
滝先生がくるのがあと1年早ければと思わずにはいられない。

1-2. 2年生編

1年生編とは違い、優子世代や久美子世代はこの1年間滝先生に指導を受けているため能力が全体的に底上げされており久美子を初めとしたコンクールメンバーは皆優秀であるといえる。
そこに新1年生が加わる。作中の描写から鈴木美玲小日向夢久石奏などは1年生にしてコンクールメンバーに選ばれており優秀な奏者であると言える。
(アニメ版では小日向夢はコンクールメンバーに選ばれていないが、原作では選ばれているし麗奈もずば抜けて上手いと評しているからここでは原作の設定を優先する)
極めつけが希美至上主義という鳥かごから巣立った鎧塚みぞれ
彼女の二次開花もあり北宇治は去年以上の演奏を見せたが、結果は奮わず関西大会ダメ金という成績で幕を閉じた。
これには理由がある。
原作で優子が去年より演奏は各段によくなっているが周りの強豪もそれ以上に演奏レベルが上がっていたとこぼしていた。
つまり関西大会全体のレベルが上がっているということ。
その原因は作中では明確には描写されていないが、去年のダークホース北宇治が関西の3強の一角、秀大付属の枠を奪い全国に行ったことが始まりだったのではないかと思う。
関西の3強 明静工科、秀大付属、大阪東照。
この3校が関西大会における全国行きの3枠を長い間独占してきた。
その内の一枠を全くの無名の北宇治が勝ち取ったことで3強時代は終わりを告げ、どうせ今年も全国行きは3強だろとどこか緩んでいた強豪校たちに緊張が走った。
まさか去年の自分たちがもたらした結果が今年の自分たちに牙をむくことになるとは1年前の久美子たちは夢にも思わなかったことだろう。

優子の世代は演奏技術はあすか世代を上回り、十分全国を目指せるポテンシャルはあったと思う。しかし、精神面では今一歩だった。
アニメでは描かれてないが、去年全国に行ったという慢心が少なからずあったと原作では語られている。
その原因の一端は…優子にある。彼女は優しすぎた。
去年優子が香織にソロを吹いてほしくて起こした再オーディション事件。
優子自身はその選択に後悔はしていないものの、次の世代でこんな事件は起こしてはいけないと部内の空気に敏感だった。
原作では部長になった久美子がこうゆうとき優子先輩なら問題が起こる前にケアしていたよなぁとこぼすくらい優子の部内の人間関係、特に後輩へのケアは万全だった。
しかし、それが逆に仇となっった。
例えば原作で、小日向夢は実力的にペットの高音を吹くべきなのに本人のあがり症な性格で自ら辞退し低音に回った。
優子は夢の意思を尊重しそれを容認したが麗奈は夢を高音に戻すよう最後まで訴え続けた。この優子の判断は見方を変えれば、北宇治の演奏のレベルを下げる行為に加担しているとも言える。
更に原作では、麗奈がいまの北宇治は少しずつの妥協が積み重なってる状態なんじゃないかと言っていた。衝突を極端に恐れた結果、それが部内の緊張感を薄れさせそれが慢心に繋がったと私は解釈した。

1-3. 3年生編

アニメでは描かれていないが、優子は関西大会ダメ金という結果に危機感を覚え、部員1人1人の能力底上げのため滝先生とも相談しアンサンブルコンテストへの出場を提案した。
そこからはアニメでも描かれている通り、久美子の指導で開花した釜屋つばめ、1年生の頃から積み上げてきたパート練習が花開いた北宇治の音楽の一番の要とまで評されたクラリネットパートの面々が一気に頭角を表した。
そこに新一年生が入部。この頃には北宇治は強豪校として有名になっており入部する奏者のレベルも高いものとなっていた。
原作では将来有望な中学の後輩を前から北宇治に勧誘していた生徒が描写されていたり北宇治の全国金賞を取りたいという意識は2年前と比べ物にならない程高くなっていることが分かる。
総勢103名(アニメでは91名)と久美子が入学以来過去最大の人数となった北宇治吹奏楽部。
そこに導入された各大会毎にオーディションを開催するという新たな試み
これが緊張感やモチベの維持に繋がり北宇位に良い効果をもたらした。
但し、これは部長である久美子が、その裏で起きた部内の問題に対処できたからこそ得られた効果である。これについては3. 黄前久美子の心の成長の項で説明したい。
演奏技術と精神面において間違いなく久美子世代の北宇治が過去3年間のメンバーの中で最善にして最強。このメンバーでなければ全国大会金賞は取れなかったと思う。

2. 指導方針の変更


アニメ2期1話で吹奏楽は指導者次第で大きく変わると美知恵先生は言っていた。
なので滝先生の指導でいきなり北宇治が全国行けたのもフィクションとはいえ納得感があり、滝昇という人物がどれだけ優れた指導力を持っているかがよく分かった1年生編。
彼は自分の人脈をフルに使って橋本や新山を外部講師として学校に招いたり、誰よりも早く学校に来て強豪校の音楽の研究や演奏指導をして誰よりも遅くまで残り、土日も休まず働いていたことはアニメでは特に強調して描かれていたと思う
しかし、それでも全国大会金賞に届かなかった二度目の夏。
1年生編の原作の最後で滝先生は言っていた。ずっと独りよがりな指導を生徒たちに押し付けていたのではないか不安だったと。
その時は麗奈に否定されて、少し自信を取り戻したように見えたが、2年生編の関西ダメ金の結果を見て滝先生はまたその不安に襲われていてもおかしくない。
それが滝先生が3年生編で久美子たちに自由曲を決めさせたり、各大会毎のオーディションの提案を容認したり明らかに去年とは違う行動をとった理由なのではないかと思う。
つまり、彼は顧問が全てを決めるワンマンに寄った指導方針から生徒が自ら決断し顧問がそれに応えるというやり方に変えた。
原作の3年生編の府大会のバスの中で滝先生は「鎧塚さんの演奏を聴いてからいろいろ思うところがありましてね」と久美子に自身の悩みを吐露する描写があった。
これは映画:リズと青い鳥で見せた鎧塚みぞれの心の成長が見せた驚くべき演奏を指している。現役プロ奏者の橋本にこれはとんでもないものを掘り起こしたねとまで言わしめた。
滝先生の心の描写って極端に少ないし、妄想で補完するしかないが、滝先生はあの演奏を聴いて、心の成長が演奏に与える影響の大きさを痛感し、これまでの技術一辺倒の指導では足りないと思い直したのかもしれない。
精神面の成長って自主性を育むことが一番の近道だと私は思っていて、これが久美子たち幹部組に色々決めさせたことに繋がるのかなと。
余談だけど、マーチング全国金賞の常連である立華高校(久美子の中学時代の同級生、佐々木梓が所属してる高校)もこの指導方針を採用している。
部活の運営を生徒がほとんど取り仕切っており顧問が部活に介入することは少なく、マーチングの振付けも原型は生徒たちが考える。これが生徒の精神面と技術面両方の成長にアプローチする究極の形なのかなと思うなどした。

この話は原作のユーフォ1年生編と2年生編の間に刊行された「立華高校マーチングバンドへようこそ」で描かれており、作中の部員の人数も103人と原作3年生編の北宇治の部員数と同じだったりして、これが未来の北宇治が目指すべき形であることの伏線だったのかなと変に深読みしてしまう(因みにその年の立華はマーコン全国金賞を取っている)

3. 黄前久美子の心の成長


この作品の主人公である黄前久美子。
「響け!ユーフォニアム」は北宇治高校吹奏楽部が全国金賞を目指す物語であると同時に彼女の成長物語でもある。
最終的に北宇治を全国大会金賞に導いたのは1-3. 3年生編でも書いた通り彼女が部内で起きる問題に対処し部員たちを正しくまとめ上げた功績が大きいのではないかと私は思う。
この項では、3年間彼女がどのような成長を遂げてきたか3つの小項目に分けて語っていく。

3-1. ユーフォが好き

久美子は姉と一緒にトロンボーンを吹きたくて音楽を始めたがその前に姉が楽器をやめてしまったことで二人の関係は徐々に冷めていく。更に中学時代にオーディションで先輩を差し置いてコンクールメンバーに選ばれたことで先輩から嫌がらせを受けていた苦い過去も相まって、吹奏楽を自信をもって好きであると言えなくなっていた。
久美子は高校入学当初吹奏楽部に入るつもりはなかった。
しかし、初心者である葉月がマウスピースから初めて音を出せた時に久美子は過去の記憶を思い出した。姉に憧れて音楽を始めたばかりのあの頃。マウスピースから初めて音を出せた時のことを。
そして、アニメ1期11話の再オーディションの時の麗奈の演奏を聴いたことをきっかけに久美子は明確に上手くなりたいと思い始める。
しかし、久美子は自由曲の合奏練習中に滝先生が満足のいく音を出せなかったために、そのパートは吹かなくていいと言われてしまう。
泣いてしまうほど悔しいと初めて思った。
その夜、姉に音大行くわけでもないのに吹奏楽続ける意味ある?と聞かれ
あるもんだってユーフォ好きだもん!と子供みたいな回答をした久美子。
自身からそんな言葉が出てきたことに驚き、鏡を見てもう一度呟く。

本気で吹奏楽と向き合うことが出来てようやく久美子は自身がユーフォを好きだということに気付けた。
原作で久美子は中学時代、先輩に疎まれても吹奏楽を辞めなかったのは、居場所を失うのが怖かった。ただそれだけだと語っていた。
北宇治に入り、縋りつくだけの場所だった吹奏楽は、学生生活の全てを捧げられるほど好きなものへと変わった。

そして、姉との和解を果たした久美子は
アニメ2期12話で姉に「お姉ちゃんのおかげでユーフォ好きになれたよ、吹奏楽好きになれたよ」と叫ぶ。
姉と一緒に吹きたくて始めた吹奏楽、でもそれは最後まで叶わなかった。
けれど、辞めずにここまで続けてきたおかげで吹奏楽を、ユーフォを好きだと言える自分になれた。
原作ではリアリティ重視だった姉との関係がアニメだとよりドラマティックにそして濃密に描かれていて京アニの表現力の高さに感服するほかない。

3-2. 北宇治吹奏楽部が好き

突然だが、久美子は基本的に”人”が好きだと私は思う。
アニメ1期では部活を辞めると言って教室を出た葵を説得しようと追いかけたり、アニメ2期では希美の部の復帰を助けようとしたりしていた。放っておけない、何か力になってあげたいと思ってしまう性分というのが久美子からにじみ出ているように思う。しかしアニメ2期10話であすかから「興味があって近づく癖に傷つけるのも傷つけられるもの怖くて結局は遠くで見守るだけの人間に誰が本音を見せてくれると思うの?」と散々な言われようだった久美子。確かに葵のことは説得しようしたもののやんわり拒絶され結局それ以上踏み込めなかったし、希美とみぞれの件も結局流されるまま見守っていただけだった。
しかし、その言葉を放った後のあすかに久美子は正真正銘純度100%の本音プラス私が先輩と吹きたいんじゃー先輩のユーフォ大好きなんじゃーなんか文句あるんかー!!!!くらいの子供みたいな駄々をこねた。
相手の本音を引き出したいならまずは自分の本音から。
あすかはこれまで感情的に喚き散らす母を反面教師に、感情的になるのは愚かだと自分を律し、生きてきた。
誰よりも早く大人になるしかなかった家庭環境。
そんな彼女が誰よりも感情的にわめく子供の駄々のような久美子の言葉に動かされてるのが個人的に好きで、そこには嘘も打算もなくて部のみんなもあすか先輩に吹いてほしいと思ってますよとか誰の本音かもわからない言葉ではない久美子自身の言葉で語ってくれたから響いたんだと思う。
この出来事をきっかけに久美子は他人との接し方が少しずつ変わっていく。ただ見守るだけでなく、相手の心に寄り添いつつもきちんと自身の意見も言うようになった。それを人は黄前相談所と呼ぶ。

久美子が北宇治を好きと言えるようになったのは、あすか世代から受け継がれている部の一体感。全国金賞を目指すためにコンクールメンバーか否かに関わらず一つの目標に向かって突き進めるひたむきさにあると解釈している。そしてそれを象徴する人物との出会いとして私は加部友恵を推していきたい。
彼女は1年生の指導係を久美子と一緒に担当していたが顎関節症のためオーディションを辞退しマネージャーに転身することになった。
最初は久美子も同情していたが加部は実はそんなにショックではなくて、自身は元々向上心もなくオーディションに落ちて変に後輩に気を遣われることもなくなり、むしろホッとしていると語った。久美子はそんな彼女を少し狡いなと思ったことが原作では描かれている。
しかし、加部がマネージャー業を担ったことでオーバーワーク気味だった優子の負担が減り、部全体には大きくプラスに働いた。
この成功体験が、今までドラムメジャーは部長や副部長と兼任だった体制が3年生編で変わり、ドラムメジャーを正式な役職として迎えた3人体制が生まれた。更に加部は北宇治にとって大きな戦力でもある小日向夢のあがり症も克服させたりと、未来の北宇治への貢献度も含めると2年生編のMVPと言っても過言ではないのでは?と思う活躍ぶりを見せた。何より彼女は人をサポートするのに向いていて奏者として部活動に取り組んでいた時より生き生きとしていた。
脱線するけどアニメ3期13話で加部がちゃんと全国大会観に来てるアニオリ演出が本当に…本当に良かった。

久美子は、加部のように一見自身とは相容れない考えも、全国大会金賞という目標が一致してさえいれば関係ない。コンクールメンバーになり北宇治の良い演奏に貢献することが全てではない。たとえコンクールメンバーになれなくても皆が自分なりのやり方で北宇治を良くするために動いている、久美子はそんな北宇治吹奏楽部の在り方を好ましく思ったのではないか。

これは3年生編の部長としての久美子の言葉によく表れていて
アニメ3期1話の部活の活動方針を決める時も”ただの一人も欠けることなく全員全国金賞を目指すことで一致してほしい”と思っていたり、
アニメ3期3話の幹部ノートには”一人の落伍者も出したくない。全員揃って北宇治だ”という言葉があったり、原作では”後輩たちに北宇治を好きになってもらいたい。そのために私は動いてきた”という思いも描かれている。
これらの久美子の言葉を総括すると
全員に北宇治を好きになってもらいたいから一人も欠けて欲しくない
=だって私が北宇治を好きだから

この胸の内は全国大会本番前の演説で
久美子の口から答え合わせとして語られた。

103人(アニメでは91人)で北宇治吹奏楽部です。私は北宇治が好きで、滝先生が好きで、みんなが好き。

アニメではコンクールメンバー以外の部員も一人一人カットが入る神演出があってそのメッセージ性がより強調されたように思う。

ここまで書いて気付いたんですが…思いっきり3期のキービジュアルに書いてましたね…(*_*)あばばば

3-3. 正しい人になりたい

正直この事が語りたくてブログ書いたまである。

久美子の成長の最後のピース。
彼女はどのようにしてこの答えに辿り着いたのか。
そのためには麗奈との出会いや北宇治のオーディション問題について語る必要がある。

高坂麗奈と中世古香織のソロオーディション問題。
全てはここから始まった。
アニメ1期11話、騒動の渦中にいた麗奈は一貫して強気の姿勢を貫いていたが再オーディション本番前、久美子と二人きりになった時、初めて弱音をこぼす。このまま私がソロを吹けば部内で悪者になるんじゃないか。久美子はこの時、上手い人がソロを吹くべきだと半ば怒りにも似た強い口調で返す。これはアニメ1期6話で麗奈がソロの個人練をしていることを知った久美子がこぼした「ソロ…吹くつもりなんだぁ」という言葉とは正反対だ。
久美子は麗奈と出会い、彼女の”正しさ”に憧れた。
一見他者から見れば正論モンスターに見える麗奈だがその正論を貫き通せるだけの実力があった。だから彼女はどこまでも強く真っ直ぐなのだ。
アニメ1期12話で久美子は
「私、上手くなりたい。麗奈みたいに。私、麗奈みたいに特別になりたい。」と真っ直ぐな瞳で告げた。

それから1年後…映画ː誓いのフィナーレで久石奏と久美子が雨の中で対峙するシーン。
奏に「久美子先輩は私と同じだと思ってました。ただ頑張っても意味ないと分かってる。」と言われた久美子は「そうゆう部分が自分にあるのは分かってる。ただそれが良いことだなんて思ってない。だって上手くなるのに邪魔だから。私ね、うまくなりたいんだユーフォニアム。」と答えた。

奏に理由を聞かれても「そんなの考えたこともない」と返す久美子。
このシーンについてはあまり深く考えてはいなかったが、先ほど語った麗奈のように”特別”になりたいという久美子の思いを踏まえて再度考えてみるとある解釈ができた。

麗奈のような"特別"になりたい。でもそれは雲をつかむような話で、私は麗奈のように頑張っても無駄かも知れないという不安や迷いを全て切り捨ててあそこまで奏者として正しくあることはできない。

自嘲するような声色と雲を掴むような仕草から私は、頑張れば頑張るほど、麗奈のように私はなれないという現実を突きつけられてしまっている久美子の心情と読み取れてしまって…アニメ1期12話の”特別になりたい”と真っ直ぐな瞳で麗奈を見つめていた久美子…その1年後の心境の変化と捉えた。

余談だがに奏に理由を聞かれた時「そんなの考えたこともない」と久美子がやんわり嘘をついたのは’特別”になりたいという想いは麗奈と久美子だけのものだから。
特別になるなんて中二病みたいな言葉は全編通して麗奈と久美子と二人きりの時にしか出てこないし、他者には明かしている描写がない。
二人だけの秘密なのだ。

さて、その出来事から更に1年後、部長となった久美子は自身と同等またはそれ以上の演奏技術を持つ黒江真由と自由曲のペットとユーフォのソリパートを賭けて争うことになる。

アニメ3期12話
久美子は自身より上手いかもしれない黒江真由を恐れていた。

1年生の頃から信じてきた”上手い人が吹くべきだ”という正しさが初めて揺らいだ。そのことに向き合うのが怖かった久美子。
ではなぜ怖いのか?
原作では「自分の居場所がなくなるのではないかと怖くて、気づけば目が曇っていた。」と語っていた久美子。
そして幹部ノートには「麗奈と対等になりたくてここまで頑張ってきたのにそれが全部取られちゃうかもしれないと思ったの」と綴られている。
つまり、先ほどまで語ってきた久美子の”特別になりたい”という言葉の根底には麗奈と対等になりたいという気持ちがあった。
今まで久美子は麗奈にどこか劣等感を抱いており、いつかそれを払拭して彼女の隣に堂々と立てる対等な存在になりたいと思っていた。
その手段が2人の共通項である音楽。音楽で麗奈と同じくらい上手くなれば彼女と自分は対等になれる。その気持ちはアニメ:アンサンブルコンテストで、麗奈から北宇治でユーフォが一番うまいのは久美子だと言われた時に心の中で思った「もし来年私よりうまい子が入ってきたら麗奈はどうするのだろう」という台詞からもよく分かると思う。
麗奈が真由を選んだら私は麗奈ともう一緒にいられないかもしれない。
久美子が真由を怖れる理由はつまるところその一言に尽きる。

だが、それは久美子のただの杞憂だった。
魔法のチケットを使ってあすかと会って久美子は気づいた。
原作の幹部ノートには「真由ちゃんがソロを吹いたって、私は私のままだった。誰かが誰かの場所を奪うだなんて、きっとそんなことはできないんだろうなって」と綴られていた。
更にアニメ3期11話、麗奈は音大に進学しない久美子の決断を聞いて、音楽という共通項がなくなったらきっと段々疎遠になっていく。それならここで関係を終わりにする。そうすればこの関係は永遠になる。となんだか怖い事を言いだした。

あすか先輩当たってた

久美子はその提案を聞いて麗奈らしいと笑うがこの時少し涙が見えた。
ただの笑い泣きだろ!と言われればそれまでだが、私は深読みしていきたい。
このあと久美子は
「平気だよ。私たちは変わらない。麗奈は”特別”だから。私にとって唯一変わらない私の”特別”だから。」と断言する。
この時の久美子の気持ちを意訳すると、音楽で麗奈と対等でいなくちゃと思っていたけど、音楽という共通項がなくなったくらいじゃ二人の関係は変わらない。真由ちゃんにソリを取られたくらいじゃ何も変わらない。私が麗奈を”特別”に思う気持ちは私だけのものだから。何を私はそんな当たり前のことを今まで気付かなかったのかと。
アニメでは直接的には描かれていないが、このシーンがそんな涙と笑いにも解釈出来て、12話の久美子の表情に一切迷いがないのにも納得がいった。

余談だが、久美子と麗奈が恐れている部分が本質的に似ているのがとても興味深くて
久美子は
音楽という二人の共通項で麗奈と同じくらい”特別”になって対等にならないと、二人はずっと一緒にいられなくなると思っていて
麗奈は
久美子が音大に行かなかったら二人から音楽という共通項がなくなり、二人はずっと一緒にいられなくなると思っている。

11話で久美子が音大に行かない選択(”特別”であろうとすること辞めた)をしたことで
上記の二人の恐怖が
同時にただの杞憂であったことが証明された。
久美子が”特別”にならなくてもお互いがお互いを”特別”だと思っていればそれでいい。
素晴らしい”くみれい”の関係性の答え合わせの回だったなと思った。
(注:あくまで私の解釈)

さて、久美子が麗奈のような”特別”を目指す必要性がなくなったのであれば
一体久美子に何が残るのか。

それは”正しさ”である。

久美子は、今年の滝先生は優柔不断でオーディションの選考基準にも疑問が残る部分があり、滝先生を100%信じることが出来ずにいた。
しかし、あすかの言葉で気付いた。

ここで”その子も”というアニオリがある時点で約束された勝利の真由ルート!!!

アニメ3期2話で滝先生に自由曲の候補について意見を求められた時、久美子だけ「なぜですか?」と一人だけ困惑していた。ここはアニオリ演出なので久美子の意図は分からないが、私には久美子に「去年と同じように滝先生が決めてくれればいいのになぜそんなことを生徒に聞くんですか?」という気持ちが裏にあったように思えた。
更にアニメ3期6話の美鈴の言葉「ずっと指導を受けてきた3年生と違って1、2年生は滝先生をそこまで神格化してません」を受けての久美子の
「滝先生は私たちを全国に連れて行ってくれるんですよね?」という疑念の言葉。
これらの言葉から久美子は滝先生を”間違えるはずのない完璧な顧問”とどこかで思っており、たとえ他の生徒や久美子自身が疑念を抱いていたとしてもそれにはきちんとした正しい理由があるんだと思いたかった。

しかし、それは大きな間違いで、正しい理由があると思っていた判断も、迷っていると見抜かれたら終わりだと思ってるから何も言わない。あすかに言われ、久美子は気付いた。
滝先生も私たちと同じように不安だってあるし迷いもすることを。

滝先生は高い技術指導力を持っているが、その一方で人間関係の問題解決においては未熟であることがユーフォ全編を通して描かれている。
今このブログを読んでるあなたも、滝先生言葉足らんよ~と作中何度も思った人は少なくないはず。
あすかも原作であの人は人間関係の管理は未熟だったから、そこは私が補完したと言っていたくらいなので。
とはいえ滝先生が冷酷な人間かと言われればそうではない。あすかの退部を本人の意志ではないので退部届は受け取りませんと頑なだったり、彼なりに生徒を想っているいることは確かだ。

滝先生は完璧ではない。神様でもなんでもない。ただの人間だ。

2.指導方針の変更の項で話した通り、彼は生徒が決めた決断に全力で応えると決めた。
だから、久美子たちが各大会毎にオーディションを開催するという決断に
不安や迷いを抱えながらも全力で応えようとしている。

ならば滝先生が下した真由と久美子の再オーディションという決断にも
久美子は全力で応えなければいけない。
それがアニメ3期12話で久美子が提案したブラインドオーディションだったのではないか。
恐らく、久美子は麗奈と香織が再オーディション対決した時に、多数決と決めていたのに、どちらにも投票しない部員(本心では麗奈の方が上手いと思っているから香織には投票できない、かと言って1年がソロを吹くのは複雑だし香織にも悪いという気持ち)が大多数だった光景がどこか後悔として残っていたのではないかと思う

滝先生は久美子の提案に一瞬固まり…そして目頭を押さえていた。
どちらも全国金賞に届きうる実力ならば、部長である久美子を選んだ方が部のモチベは保たれる。再オーディションという形式を取れば部員はきっと久美子に投票し、全員が納得した形でソリを決められる。
そんな思考が1%でも滝先生になかったかと言われれば…嘘になると思う。
久美子の提案で滝先生はその僅かな先入観に気づいてしまい「生徒がここまで”正しさ”と向き合おうとしているのに私は未熟だ」と自身を恥じた涙だと私は解釈した。

原作ではその答えは脳が考えるよりも早く口から出ていたと久美子の心情が描かれていたことから、恐らく10話のあすかとの会話でもう既に心は決まっていたように思う。
「黄前さんはどんな大人になりたいですか?」

滝先生のような人になりたい


…………


私の心の声


滝先生は正しい人になることを自身の理想像として掲げ、そこに到達できるよう日々悩みながらも邁進してきたことが彼の言葉から分かる。
一方で私は冒頭で久美子は麗奈と出会い、彼女の”正しさ”に憧れた。と書いた。
久美子は麗奈の”正しさ”に憧れたと言いながら、なぜ滝先生のような人になりたいと答えたのか?

それは久美子がこの3年間で変わったから。
アニメ1期5話で久美子は梓に北宇治に来た理由を
「スタートしたかったの。知ってる人があまりいない高校に行って最初から」
と語っている。
原作ではその言葉を聞いた梓から
「てっきり、また誰かに流されて高校も決めたのかと思ったからホッとした」と言われている。
このやり取りからも分かる通り、久美子は以前の主体性のない自分を変えたくて北宇治に来た。そこで出会ってしまった。主体性の塊、高坂麗奈に。
人を寄せ付けない彼女は話してみると揺るがぬ”正しさ”を持っていた。
久美子はそんな彼女に憧れた。しかし、あまりに正しすぎる麗奈の考えは周りには理解されない。一度は久美子もその”正しさ”を目指そうと試みたがそれが如何に難しいかは、本項の最初の方の映画:誓いのフィナーレの奏と久美子の雨のシーンでも語った通り。
しかし、アニメ特別編:アンサンブルコンテストの久美子の言動や行動はこれまでとは違った。
麗奈の厳しい指導にすっかり委縮してしまう釜屋つばめに、一緒に練習しよう提案する久美子。
麗奈が私も一緒にと言うが久美子はそれじゃいつもの練習と一緒になると制止した。久美子は麗奈の指導は確かに正しいと彼女を肯定しつつも視点を変えてあげるも大事だよと持論を展開。
久美子は他者と同じ目線に立つことに長けており、見事つばめはマリンバの才能を開花させた。
この一件は久美子が麗奈の”正しさ”をなぞることを辞め、自らが正しいと思う判断/考えに基づいて行動できるようになったことの証左であると私は解釈している。
3-1や3-2の項でも語った通り、久美子は北宇治に入って吹奏楽と本気で向き合ったことでユーフォを好きになり、先輩や後輩たちとの交流の中でこの北宇治吹奏楽部を好きになった。これらは久美子が経験して獲得した彼女だけの気持ちだ。
もう彼女は昔の他者に流されるままだった自分ではない。

久美子は北宇治に来て変わることが出来た。
久美子だけではない。色んな人が変わっていく姿を見た。
それはなぜか?
滝先生がいたからだ。彼が努力してきたからだ。
しかし、その判断は常に正しいわけではなかった。
でも誰よりも正しくあろうと努めてきたのは間違いない。
だって久美子は3年間その姿をずっと近くで見てきたのだから。
久美子は
正しくあろうと努力し続けるその在り方
に憧れたのだと私は思う。


最後に


どうだったでしょうか?
・部員たちの演奏技術の向上
・生徒の自主性を重んじる指導方針への変更
・黄前久美子の心の成長
どれか一つでも欠けていたら北宇治は全国金賞を取れていなかったと私は思います。

本当は真由の原作とアニメの違いについて掘り下げたり、久美子以外のキャラについてもっと語りたかったのですが、記事のテーマがブレてしまうため控えました。

因みに感情のままに書き殴ったアニメ3期1~13話の各感想(合計1万4000字)はXに投稿済みなのでもし読みたいという狂人はこちらからどうぞ。
https://x.com/maborinfgo/status/1812633321270390792

最後にこんなにも長い駄文をここまで読んで頂いた皆様には感謝を。
途中かなり、私の独自解釈が入るため、これ飛躍してね!?とか思う部分も多々あったと思いますが、こんな考えもあるのね~くらいの温かい気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
ではいつかまたお会いできるのを楽しみにしております。


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