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あらゆる売買で共通することですが、売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいものです。
M&Aの交渉にあたり、どんな工夫をして臨んだのか、相手からどんな交渉をされたか
これまでのゲストがシェアしてくださった事例や知見をまとめてご紹介します。


売り手の工夫

少しでも高く売りたいのであれば、やるべきことは大きく次の三つです。

魅力をわかりやすくアピールできるようにしておくこと
・その事業を欲しいと言ってくれる会社を見つけること
相手に合わせたアピールポイントを加えること

それぞれ詳しく見ていきます。


①魅力をわかりやすくアピールできるようにしておくこと

特にまだ売上が伸びきっていない段階であれば、「これからどんな風に成長できるか」を相手がイメージできるように、必要な情報を伝える必要があります。
たとえば、

・ストーリー
解決しようとしている課題/課題を解決すべき理由/どう解決しようとしているか
・エビデンスとなるデータ
課題を解決するまでのステップをどう分析し、検証してきているか/どんな成果を上げているか

といった点は整理しておきましょう。


②その事業を欲しいと言ってくれる会社を見つけること

高い評価を得るための一番シンプルな方法は、“この事業を一番欲しがっている企業(人)を見つける”ことです。
ある人には「ただでも欲しくない」と思われているものでも、「高値を付けてでも買いたい」と考えている人がいるかもしれません。

これから成長しうるビジネスであれば、その分野に参入しようとしている会社を、
爆発的な伸びはなくても安定して売上が出ているビジネスであれば、資金が余っている企業(人)を探すべきでしょうし、
既にプレイヤーが多く、競争が激化しているビジネスであれば、陣取り合戦をしている大手企業にアプローチするのが得策になります。


③相手に合わせたアピールポイントを加えること

買い手候補が定まったら、相手に合わせたアピールも加えると効果的です。

たとえば、買い手が評価しているポイントを明確にして、そこで生みだしうる価値やシナジーをさらに具体的に描けば、交渉にも強気で臨みやすくなるかもしれません。
「御社であれば、このビジネスをこんなに成長させることができます」という伝え方もありです。

また、買い手側が望んでいる条件に合わせることで価値を高める方法もあります。
たとえばアーンアウト条項を付け、売却後も一定期間経営を続けて成果を出すことで追加の対価の支払いを受ける形で交渉することも可能ですし、ロックアップ期間を設けることで、売却額自体を高めに維持できるかもしれません。

M&Aを検討するまでIPOに向けて準備をしていた場合は、買い手が上場企業であれば、買収後に労務管理や決算・〆のタイミング等を調える手間が省けるため、‟買いやすい企業”という点でもアピールできます。


「どんな事業が高く売れるか」という話題では、「そもそも“事業が魅力的であること”が前提であって、そこをないがしろにして売るテクニックにこだわるのは本末転倒」という意見もよく伺います。
売り手にできる工夫として①~③を挙げましたが、⓪として“事業の魅力を磨くこと”も挙げるべきと言えそうです。

また、交渉に関する少し毛色の違うアドバイスとして、“いいことも悪いことも事前に正直に伝えること”というものもありました。
評価が下がるリスクもありますが、都合の悪いこともいずれは知られますし、最初から正直に伝えることで信頼感を持ってもらえるというメリットもあるので、迷わず正直に伝えてみましょう。



買い手の工夫

ここからは買い手側の工夫です。売り手としても、買い手側がどんな交渉をしかけてきうるかは把握しておいた方がよいでしょう。


①他に競争相手がいる場合

買い手候補が他にも多数いる事業をどうしても買いたい、しかし資金的に他の企業に敵わないという場合でも、見事売り手のハートを射止められた事例は意外にあるようです。
ポイントは“熱意”です。

売り手経営者の中には、「高く売りたい」だけでなく、「これまで頑張って育ててきた事業がさらに成長できるベストな選択をしたい」と考えている方も少なくありません。
「いかに自分がこのビジネスを評価しているか」、「自分であればこのビジネスをどうよくできるか」といったメッセージをしっかり伝えれば、売り手の心を動かせるかもしれません。

実際に、売り手として「買い手の熱意が嬉しかった」というお話も多数うかがいましたが、口説き落とした買い手側のエピソードしておすすめなのは「formrun(フォームラン)」を買収したベーシック社秋山社長の回です。買い手となる方はぜひチェックしてみてください。


②安く買いたい場合

他にも、事業は買いたいものの資金的に余裕がない場合の方法として、ビジネスだけを買うというやりかたもあります。

たとえばあるウェブサービスを買う場合、株式ごと買えば契約も引き継ぐことができますし、人材やその他のリソースも含めた会社丸ごとが手に入ります。その分価値は高く、今後の成長も見込んだ評価額で買い取ることになります。
しかし、ウェブサービスを運営するのに必要なリソースが社内にある場合は、事業譲渡でウェブサービスなど必要な部分のみを買い取る契約にして、譲り受けるものの対価のみを支払う形に収めることも可能です。

事業譲渡の場合は譲り受けるものを漏れなく列挙する必要があり、契約のまき直しも必要になりますが、こういった場合には有効なスキームとして使われているようです。


他にもあまりおすすめできない方法として、最初に高めの買収額を提示し、交渉の中でどんどん下げていくというやり方もあります。他に競争相手がおらず、売り手が既に「売りたい気持ち」になっていれば(かつ売り手がM&Aに慣れていなければ)使える手段かもしれません。


最後のお話は仕掛けられた側の方から教えていただいたものです。
相手が買収経験豊富だとこういった交渉をされることもありうるので、特に初めての売却の際は、経験者や知見のある方に相談しながら進めることをおすすめします。



執筆者

■安田あかね:M&A BANK編集部 ライター
大阪大学人間科学部を卒業後、教育系企業に就職。新規事業部にて新サービスの運営基盤づくり、スタッフの管理育成やイベント企画に携わる。
IdeaLink社ではウェブマーケティング領域の業務を経て、M&A BANKの立ち上げ・運営に関わる。サイト管理の他、経営者インタビューや記事の編集を担当。



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