【十の輪をくぐる】秘密と家族とバレーボール。今の時代だからこそ、この親子三代の話をぜひ多くの人に知ってほしい。

辻堂ゆめ著、小学館。11月26日発売。

2つの東京オリンピックの時代を行き来し、母と自分と娘、三世代の親子の物語が紡がれていく。人との距離のとり方や離れて暮らす家族、そして自分たちのこれからについて考えることの多い今、ぜひたくさんの人に届いてほしい。

読み始めるのに少し時間がかかりましたけど、結果、一気でした。少しだけど考えたことを書きます。

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冒頭、認知症で介護の必要な母をめぐり、夫婦がギスギスする。主人公は夫で息子。最近新しい職場に移り、そこでもうまく行かずにイライラしがち。家では縦のものを横にしない夫で、妻はそれをうまくいなしている。娘は高校生でバレーボールの期待の星。メキメキ頭角を現してきたが、主人公は親として少し複雑でもある。

ここまで来て彼らの世界に滑り込むことができたように思った。

秘密を抱え墓場まで持っていく、という決意を持っていたとしても、どれだけの人がそれを生涯貫けるのだろう。

 母がふと漏らした言葉をずっと不思議に思う主人公。つぶやいたのは母の本意ではないはずだけれども、それを抑えられずに心の中が溢れてしまう。私には、ここが実はとっても怖い。自分の意識がコントロールできない世界が想像もできないから。

 それと、秘密のままでいいと自分が思っていても、それは残される人たちにとってどうなんだろう。知らされる衝撃の重さ、その後の人生がおそらく変わってしまうことを思えば、言えなかったに違いない。知らなくても生活はできる。故郷と接点さえなければいい………どれだけしんどかっただろうか。

自分にイライラさせられたけれど

 一方、主人公の抱えるモヤモヤイライラもわかりやすい。自分はもう会社に必要とされていないんじゃなかろうか。身につまされつつも、意外なところから意外な気付きがもたらされる。ああそう考えると腑に落ちることもあって、フッと心が少し軽くなる。

そして彼は、娘のことについても、妻についても、少しづつ対応が変わって行く。このあとの家族に流れる時間が温度がちょっとだけ穏やかになりそうな予感がしている。

大人になってから自らについて気づくことは案外多い。信頼できる身近な存在から寄せられる言葉は大事にしなくては。

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