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文学の扉_literature

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文学について書くとは文字テクストによる文学テキストへの返礼。 なんて無謀な行為なんだ。
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#福永武彦

【エッセイ】 ノンシャラン〜円卓袱台と漆とかぶれ

地に足がつかず、不意にどこかに行ってしまいそうになったり、どこかに吹き飛ばされてしまいそうになったり、それでいてここではないどこかに行くわけでもない、そんな状態をどのように表現すればいいのだろう。 たとえば、フランス語のノンシャラン(nonchalant)というのはどうだろう。不意にそんなふうに思った。 「nonchalant」の例文を辞書(「新スタンダード仏和辞典」大修館書店)から拾ってみると、 tempérament nonchalant    のんびりした性格 élè

【映画評】 告白の幾何学夢譚。ラウス・ルイス監督『ミステリーズ 運命のリスボン』、福永武彦『忘却の河』

わたしたちは過去という固有の時間(=物語)を持っており、固有の時間を告白することで物語は相互に交差しあうという現象が起きる。固有の時間(=物語)、それを記憶と名づけてもいい。 修道院に預けられた孤児ジョアン、彼には姓はない。姓とは出自の記憶であり、ジョアンには出自の記憶が隠蔽されている。 ジョアンが自らの出自に関する謎を探り始めるところからラウス・ルイス監督『ミステリーズ、運命のリスボン』(2010)は始まる。だが、謎を解くのはそう容易いことではないだろうし、不可能であるか