マモの剣-第二章 遥かなる敵-第二部-聡明の修行-
聡明はヒマラヤの奥深くにある断崖絶壁にいた。四肢の爪を小さな岩の出っ張りの部分に引っ掛けてよじ登ろうとしていた。四肢のどこか一つでも出っ張りから外れてしまうとバランスを崩して谷底に落ちてしまうだろう。聡明は落ちまいと精一杯の力を入れてしがみついていた。断崖の上からは、ヤクに跨るマーモスが険しい表情で見つめている。震えながら少しずつ慎重によじ登りながらマーモスとヤクがいる岩場まであともう少しというところまできた。ヤクの足の爪が見えたところで聡明はホッとしたのか、右足が岩場からずり落ちバランスを崩して谷底に落ちそうになった。聡明が思わず「アッ」と声を上げたその時、マーモスが右手を素早く差し出してひょいと引き上げて岩場に降ろしてくれた。聡明は四つん這いになったまま恐怖で体が震えてらくしばらく動けなかった。
崖の中腹にある岩が削れて洞穴のようになっているところがある。そこがマーモスの住処だ。マーモスは動けなくなった聡明を住処まで運んで草の上に寝かせた。聡明は意識が遠のいていきいつの間にか眠ってしまった。
どれくらい眠ったのだろう。洞穴の外はすっかり暗くなっていた。洞穴の外でヤクが膝をきちんと折りたたんで眠っている。洞穴の奥からマーモスがたくさんの木の実を持ってきて「よく頑張ったな」と言って聡明の前に木の実を置いてくれた。聡明は朝から何も食べてなかったので一心に木の実を食べた。マーモスは「明日は早朝から修行に出かけるぞっ」と言い、自分の寝床にごろんと横になったかと思うと大きないびきを立てて眠り始めた。聡明はマーモスさんはなんでこんな所に一匹で生活しているんだろうと不思議に思った。
次の日の早朝、マーモスと聡明は川まで降りていった。川に丸太を浮かべてその上に乗りながら川を下ってみろと言われた。聡明はマーモスの言う通りに丸太を見つけて川に浮かべ、恐る恐る丸太の上に立ったが、案の定バランスを崩して、川にぽちゃっと落ち、そのまま川に流されていった。マーモスとヤクが視界からどんどん遠ざかっていく。聡明は丸太を必死に掴みながら、丸太の上に乗ろうともがいていた。しばらくもがいていたが、力尽きて川に沈みかけたその時、ヤクが川に飛び込んだ。そして沈みかけた聡明の所まで泳いでいきツノでひょいと聡明を持ち上げ背中に乗せて岸まで連れて行った。聡明はしばらく岸で仰向けになったまま動かなかった。聡明がしばらく気絶していると、突然、ビシャっと頬を叩かれた。気がつくとマーモスが聡明の顔を覗き込んでいる。聡明は腹が立って起き上がり、マーモスに向かって「こんな修行意味があるんですかっ、僕は剣の使い手と聞いてここまでやってきました。こんな修行を続けていたら剣が使えるようになる前に死んでしまいますっ」と訴えた。するとマーモスは「これが俺のやり方だっ。文句があるなら帰ったらどうだっ」と吐き捨てるように言った。聡明はこんな修行を続けていても意味がないと思い、軽くお辞儀をしてマーモスのもとを去っていった。振り返るとヤクが心配そうに聡明のことを見つめていた。
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