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マモの剣-第一章 マモ族の目覚め-第十部-くい坊の決意-

 聡明はしばらくくい坊がいる家の庭でうつ伏せで倒れていた。くい坊さんが食べ物に釣られて飼い慣らされてしまっていることや、自分の弱さを考えると悲しかった。剣を抱えながら、「僕は本当に勇者の血を継ぐものなのかな。さすらいくんの言うように僕のご先祖様が巣穴の中でたまたま剣を見つけただけの話じゃないのかな」そう思うと涙が出てきた。人間は僕たちが知らないような美味しい食べ物をたくさん持っている。それに力の差は歴然としている。僕たちが立ち向かって敵う相手では無さそうだ。聡明は悔し泣きしながらそのまま眠ってしまった。日が昇り始めた頃、くい坊が飼い主の男に首輪を付けられて外に出てきた。手には大事そうにせんべいを持っている。くい坊は庭で倒れている聡明を見て驚いた。飼い主の男が扉の鍵をかけようと一瞬リードを緩めた瞬間、くい坊は聡明のところに駆け寄って、聡明の肩をさすった。飼い主の男が気が付いてリードを引っ張った。聡明が目を覚ますと、くい坊が首輪を付けられてグイッと引っ張られていた。「くい坊さんっ」と聡明が叫ぶと。くい坊が聡明に向かって持っていたせんべいを投げた。投げられたせんべいには、「ごめんなさい」とくい坊が爪で引っ掻いて書いたと思われる文字が書かれていた。聡明はカッとなって剣でそのせんべいを叩き割った。せんべいは勢いよく割れて宙に舞った。くい坊はその様子を悲しげな顔で見つめながら飼い主と共に散歩に出掛けて行った。


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