マモの剣-第一章 マモ族の目覚め-第二部マモの剣-
翌る日、聡明なマモは巣穴の一番奥の土の中に隠してある布に包まれた剣を取り出し、大切そうに抱えながら長老の巣穴に向かった。長老の巣穴の前まで来ると長老が出迎えてくれた。その横でさすらいマモも待ち構えていた。長老が笑顔で「今日は大事な剣を持ってきてもらってすまないな」と聡明マモに伝えた。聡明マモはひざまずいて布に包まれた剣を長老の前にゆっくりと置いた。聡明マモが丁寧に布を広げると銀色の鞘に入った剣が見えた。聡明マモは「柄(つか)を見てください。これは我々が毎日食している草の模様です」長老はゆっくり頷いて「どれ、鞘から剣身を出して見せてくれるか」と言った。「分かりました」と聡明マモがゆっくりと鞘を持って剣身を出そうとした瞬間、背後の草に身を屈めていた一匹の狐が聡明マモに向かって飛びかかってきた。「危ないっ」とさすらいマモが聡明マモを庇うように覆い被さった。狐は邪魔をされたことに腹を立て、さすらいマモの左目を引っ掻いた。さすらいマモは激しい痛みに耐えかねて左目を押さえながらその場にうずくまってしまった。聡明マモはとっさに、鞘から抜き取った剣の柄をしっかりと両手で握りしめ、狐の胴体目掛けて突き刺し、剣を力強く抜いた。狐はキャンっと鳴き叫び血を流しながらその場からよたよたと逃げていった。聡明マモは震える手から血の付いた剣をゆっくりと離し、さすらいマモのほうに駆け寄った。さすらいマモは痛む左目を押さえながら「君すごいじゃないかっ、正直、剣を見ただけでは我々が戦っていたかどうかの証明にはならないと思ったが、君が勇敢に敵に立ち向かって行く姿を見て本当のことだったんじゃないかって…」と言った後、力無く横に倒れた。長老は急いで聡明マモにさすらいマモを巣穴の中に運ぶよう指示した。長老は草の上にさすらいマモを寝かせて薬草を左目にそっと被せた。聡明マモはその様子をじっと見つめていたが、しばらくして長老に「さすらいマモの左目はどうですか」と尋ねた。長老はしばらく黙っていたが「治らんかもしれんなぁ」と言った。「エッ」聡明マモはショックで言葉を失った。しばらくしてさすらいマモに向かって「なんて言っていいのか、僕を助けてくれようとして…」それを聞いていたさすらいマモは「君は何故目が二つあるか知ってるかい?一つがダメになってもいいように二つあるんだ」と明るく笑った。「それよりも君が勇者だと証明されたことが何より嬉しいよ。狐が襲って来なかったら君の勇姿は見られなかったんだから」と言った。長老はさすらいマモに傷が開くといけないからしばらく大人しく寝てるようにと告げると、聡明マモを巣穴の外に連れだした。「わしも君の勇敢な姿を見て、かつてはマモ族も戦っていたと確信した。しかし、剣が代々受け継がれているのはどうも君の家系だけらしい。勇敢に戦ってきたマモ家系は途絶えてしまい、君の家系だけが残ったのであろう。我々には、鷹や鷲、狐などの天敵がおるが、最大の敵はやはり人間じゃ。じゃが、我々とは大きさが違いすぎる。君一人だけの力ではどうにもならん。かといってこのまま人間によって絶滅させられるのを黙って見ているわけにはいかん。聞くところによるとここから南東に向かって四百里ほど行ったところの草原に、人間を助けたことがあるマモがいると聞く。その者は人間を助けたことにより群れから追放され、群れから離れ一匹、ひっそりと暮らしているそうじゃ。そのマモに会えば人間の弱点が分かるのではないかと思うとる。その者に会って話を聞いてきてくれないか」聡明マモは力強い眼差しで頷いた。長老は「危険な旅になるかもしれんが構わんか」と問うた。聡明マモは「これも剣を受け継いできたものの宿命と考えております」と力強く言った。長老は、薬草と松の実が入った小さな袋を渡し、「その者の名はキッキという、きっと我々の力になってくれるに違いない」と告げると巣穴の中に入っていった。
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