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短編小説 「マモ対メタルマモ」

 最近、マーモットたちの人気が高まり、ここモンゴル高原に観光にやってくる人々が増えた。観光客の中には、クッキーやポテトチップスなどマーモットに害のある食べ物を与えるもや、観光客に混じってマーモットを連れ去り闇市で売り捌くものまで現れた。マーモットの数はどんどん減少し、観光にも影響が出てきた。マーモットを保護する目的で活動している団体が、交代で観光客を見張ることにした。それでも広い草原を見張るには限界があった。そこで、ある研究室にマーモットそっくりのロボット開発を依頼した。メタルマモと名付けられたそのロボットはマーモットたちに警戒されないようマーモットそっくりな見た目と動きをするように作られていた。 メタルマモはAIを搭載しているため経験を積むことで成長することができる。眼の中のカメラで物体を識別し、お尻に取り付けられたアンテナで、マーモット保護事務所と連絡が取れる仕組みになっている。メタルマモは、24時間、草原を見張っている。ある日が暮れた頃に、不審な男がマーモットを連れ去ろうとしている所をメタルマモの眼の中に取り付けられたカメラがとらえ、素早く事務所まで知らせた。保護事務所の者が現場に駆けつけて不審な男を捕まえた。そんなこともあって、メタルマモは頼りにされていた。ただ、唯一の欠点は、メタルマモは充電式ロボットのため、24時間ごとに、1時間の充電が必要であった。
 メタルマモは、24時間、見張りをしているため、もちろん眠らない。そんなメタルマモをマーモットたちは不思議に思うようになっていった。ある夜更けに好奇心旺盛なマーモット、マモルドが、メタルマモにこっそり近づいていった。メタルマモは草の音を感知し、振り返った。その時、メタルマモはマモルドを眼の中のカメラでとらえた。メタルマモは何千種類の動植物がメモリの中に入っているだけでなく、動物の特性や行動からその動物の性格まで把握することができるようになっている。また、マーモットと会話ができるくらいの言語能力も持ち合わせていた。これはAIの学習機能によってさらに精度の高いものとなっていく。マモルドはメタルマモに「君こそこんな夜更けにここで何をしてるんだい?」と問いかけた。メタルマモは瞬時にマモルドの性格を分析してマモルドの顔と性格をメモリに追加した。『好奇心旺盛で強気な性格』メタルマモは嘘をつくこともできたのだが、あえて本当のことを話た。「僕は君たちのことを24時間、見守ってるんだ」
 次の日、マモルドはマーモットたちを集めて、昨晩のことを得意気に話した。「あいつは、僕たちのことを24時間、見守っているらしい、あいつは巣穴もなく、食べ物を食べてる姿を見たこともない、見守ってるなんて言ってたが、人間たちとグルになって何か企んでいるに違いない」マモルドは「俺はあいつのことを24時間、監視して正体を突き止めてやる」と力強く言った。マモルドは早速、メタルマモの所まで行って、少し離れは場所で監視を始めた。メタルマモは、首を左右に動かしながら、移動し続けている。動きが早く、マモルドは必死に付いて行った。人間がマーモットに餌を与えようとすると、近くに行って、野菜以外の物を与えてないか見張っていた。マモルドは途中でお腹が空いて草を食べた。その後、眠気に襲われたりしながらも、メタルマモを追いかけた。すると、突然、メタルマモのお尻に付いてるアンテナが赤く点滅し始めた。「バッテリー残量10%」しばらくすると、何処からともなく人間がやってきてメタルマモを車に乗せて去っていった。マモルドは、「やはり人間とグルだった」と独り言を言った。
 次の日、メタルマモが車で運ばれてきた。2人の人間に慎重に運ばれて草原に置かれた。しばらくすると、メタルマモは首を左右に動かし、素早く移動しながら、見張りを始めた。メタルマモが後ろから音を感知して振り返ると、マモルド率いるマーモットたちが20匹ほど集まって、メタルマモを睨んでいる。そして、マモルドから「やっぱり、お前は人間とグルだったんだなっ」と、叫ばれて、石を投げつけられた。石はメタルマモのメタルボディに命中し、銀色のボディに傷がついた。メタルマモは、『人間からマーモットを守る』とデータに書き込まれているのだが、マーモットたちから攻撃されることは想定外の出来事だっため、フリーズしてしまった。マモルドは「あいつ、石が当たったのに倒れもしない」と驚いた。マモルドとその他、集まったマーモットたちは不気味さを感じ巣穴に戻って行った。しばらくすると、マーモットたちの中で、正義感が強く、心優しいキッキがメタルマモに近づいてきた。そして、「マモルドは、本当はいいやつなんだ」と言いながら、メタルマモに木の実を渡そうとした。メタルマモは眼の中のカメラでキッキをとらえた。キッキの顔と『心優しい』とデータに書き込もうとしたが、途中で止めて、キッキにこう言った。「僕はロボットで木の実は食べられない。だから君の好意は受け取れない。君に頼みたいことがあるんだけどいいかな。僕のお腹にあるリセットボタンを君に押して欲しいんだ」キッキは意味が分からなかった。「リセットボタンを押すとどうなるの?」メタルマモは「リセットボタンを押すと、僕に書き込まれているデータ、全てが消去される。僕は、君たちマーモットを人間から守るために作られたロボットなんだ。だから、そのようにデータに書き込まれているんだけど、君たちから敵対心を持たれてしまった。僕はロボットで感情はないんだけど、敵対心を持たれている者を守ることは出来ない。だから、最後はせめて、僕を気遣ってくれた心優しい君にリセットボタンを押して欲しいんだ」キッキはその説明を聞いても意味が分からなかった。とりあえず、キッキはメタルマモのお腹を覗き込んでボタンらしきものを探してみた。すると、メタルマモのお腹に何かマークが描かれているボタンを見つけた。「これを押したらいいの?」メタルマモが「ありがとう」と言った。キッキはためらいながらリセットボタンを押すと、メタルマモから一瞬、ヒュンと音がして、そのまま動かなくなった。キッキは何か悪い予感がして、メタルマモに話しかけたが、応答はなかった。メタルマモは動かないまま、しばらく、草原の中に佇んでいた。
 しばらくすると、2人の人間がやってきて、メタルマモを車に乗せて去って行った。

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