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マッシュウルフ

髪を切ってもらった。
いつもとは違う美容室。

担当の女性は、少しおとなしめで余計なことを話さないタイプに見えた。
初対面の人と壁を作る私にとって、とても居心地が良かった。

マッシュウルフにしたいんです

私は彼女に言う。
ピンタレストで拾った写真は、キノコに尻尾が生えたようだった。
潔く、キノピオを見せた方が良かったかもしれない。
そのくらい、マッシュルームになりたかった。

『なるほど』

丸メガネの彼女はまるでキノコの研究者のよう。
じっくり私の髪を観察して、静かに話し始めた。

『ここの部分は、耳半分でますが、よろしいですか?』

全然構わない

と伝える。

『前髪はどうしますか?』

と彼女。

サイドに合わせてくれますか?

と私。

『わかりました』

と彼女。

寡黙な彼女のハサミが動き出す。
ゆっくり、丁寧に。
余計な言葉は話さない。
その分、私の顔と言葉を汲み取っていた。

30分後、できた頭は、ものすごく美しいマッシュルームとその尻尾。
こんなに意図が通じたのは初めてだった。

すごい!上手!

思わず言うと

『妹がマッシュ好きで。』

と微笑む彼女。
あまりにも完璧すぎて、心が躍る。

noteで言語化を絶賛訓練中の私だが、言葉のない彼女のカットで、感覚の世界の大事さを味わった気がした。

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