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好きなアイドルが髪を染めた話

2020年12月25日。好きなアイドルが髪を染めた。そんなの良くあることじゃないか,と思われるかもしれない。しかしそれは私にとって,2020年一番の,衝撃の事件だった。

V6の井ノ原快彦さんが好きだ。ファン歴は20年を数えるが,その間,井ノ原さんの髪は常に黒かった。デビュー直後のやんちゃだった頃に一瞬茶髪だった時期があるが,すぐに黒に戻したらしい。

その井ノ原さんが突然,茶髪になった。そしてクリスマスの特番で,何事もなかったかのようにニコニコ歌っている。目を疑うとはこのことか。私はテレビ画面を文字通り,二度見した。

実際それは本当にかっこよかった。普段はおじさんグループを酷評してくる友人(山田涼介くんファン)がわざわざ「イノッチ髪色似合っているね」とLINEをしてきたくらいだから,ファンの贔屓目ではあるまい。

V6の出番が終わっても,衣装はどうだったか,演出はどうだったか,他のメンバーの髪形はどうだったか,何一つ思い出せなかった。井ノ原さんの首から上の残像だけが頭に残り,同時にこれまでの歴史が走馬灯のように思い出された。

ーーさかのぼること20年前,ほとんどのジャニーズアイドルが髪を明るい色に染めていた。1人黒髪の井ノ原さんは,イケイケの森田さんや三宅さんら他のメンバーと比べると,人気は…お世辞にもあるとは言えなかった。デビュー当時はコンサートで自分のうちわが見つけられなかった(ジャニーズのコンサートは応援しているメンバーのうちわを持つのが慣例です)と言っていたし,V6で音楽番組に出てもほとんど映してもらえていなかったと記憶している。

その中で井ノ原さんがずっと黒髪を貫いてきたのは,「ジャニーズっぽくない顔のジャニーズアイドル」として芸能界で生きていく戦略である部分が少なからずあったと想像する。周囲と同じベクトルで勝負するのではなく,方向性の違いを武器にすることを選んだのだろう。当時から,子供番組や文筆業といったジャニーズアイドル未踏の仕事に積極的に取り組んでいた。それですぐに人気が急上昇するわけではないのだけれど,地道にしぶとく生きてきた。そんな自分の道を行く姿に,私は惹かれ,応援してきた。

そうしてデビューから15年が経ち,転機は訪れた。2010年。NHK番組改編の目玉番組「あさイチ」の司会に抜擢された。毎朝の生放送の出演で,正直でまっすぐな人柄がお茶の間に伝わった。あれよあれよという間に視聴率ぶっちぎりの「朝の顔」になり,紅白歌合戦の司会も務めた。10年経った今では,家庭的なイメージから保険・石鹸・車といったCMに起用され,V6で歌番組に出ればサビでどアップで映り,映画やドラマの主演のお仕事も次々と舞い込むようになった。

井ノ原さんが茶髪で踊っているのを見てパニックになって,ようやく落ち着いてドッと来た感慨は,「もう黒髪である必要がないもんな」ということだった。どんな見た目になろうとも井ノ原さんは井ノ原さんで,それが世間に認識されている。井ノ原快彦は唯一無二のキャラクターである,その事実が感慨深かった。

好きなアイドルが髪を染めた。その真意は本人にしか分からない。(テレビでは「気分転換」とおっしゃっていた。)けれども20年来のファンにとってそれは,「これが僕だよ。」という強烈なメッセージだった。


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