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和文英訳演習室(2024年5月号課題)


提出した訳文

      What measures do you take against global warming? Have you bought a reusable bag to reduce plastic bag usage? Do you carry your own bottle to avoid purchasing plastic bottled drinks? Have you switched your car to a hybrid?
      Frankly, these good intentions alone will prove fruitless. In fact, they can even worsen the situation.
      Why? The illusion of your countermeasures against warming trends prevents you from taking more drastic, essential action. The consumption behavior mentioned above corresponds to an “indulgence” allowing you to assuage your guilt and ignore the real crisis. So, you easily fall into companies’ greenwashing pretending to be environmentally friendly.
      Now then, can national governments or corporations improve the global environment through the UN's SDGs (Sustainable Development Goals)? This will prove unsuccessful too. Their perfunctory manner of the SDGs exacerbates climate change.

課題文:斎藤幸平(2020)『新人世の「資本論」』集英社新書, pp. 3-4
出題者:遠田和子先生・岩渕デボラ先生

全体の感想など

 今回の課題文は、集英社からでている『新人世の「資本論」』という新書の前書きからの抜粋でした。ちょうどAmazonの試し読みでもみることができる範囲ですね。「新書大賞2021」受賞の50万部突破というベストセラーですので、教養とおもっていつか読んでみてもいいかもしれないですね。

 そして、今回はとうとう遠田和子先生の『究極の英語ライティング』研究社(2018年)を購入いたしました。出題者のライティング哲学をしるには、やはり著作をよむのがいちばん確実でしょう。まだ半分くらいしかよめてませんが、おおいに参考になりました。正直いって神書です。またいつかの機会にくわしくレビューするかもしれません。

 さて、以下は今回の訳文づくりでかんがえたことです。

第1パラグラフ

・「温暖化」など環境問題系のフレーズ
 冒頭から環境問題系のフレーズが頻出していますね。こういうとき田上芳彦先生の『トピック別 英文ライティングフレーズ集+』プレイス(2021年)みたいなものが手元にあれば便利だなぁとおもいます。とりあえず和英辞典やWikipediaやAmazon.comなどを参考に訳語をきめました。
 「温暖化」→"global warming"
 「レジ袋削減」→"reduce the use of plastic bag usage"でいいとおもいますが語数をへらしたくて"reduce plastic bag usage"にしてみました。
 「エコバッグ」→"a reusable (shopping) bag"
 「ペットボトル入り飲料」→"plastic bottled drinks"
 「マイボトル」→"your own bottle"。ちなみに、BYOB(Bring your own bottle)という用語があるらしく、アルコールもちよりのパーティやレストランのことだそうです。

・単純形?進行系?完了形?
 英文を読むときはいざしらず、自分でかこうとすると時制ってむずかしくかんじるものですね。
 「温暖化対策として、あなたは、なにかしているだろうか」は「今まさに何をしている」という現在進行形ではなく「ふだんから、なにをしているか」という現在の習慣をたずねているので単純形でいいはずです。「マイボトルを持ち歩いている」もふだんから持ち歩いてるので単純形。
 「エコバッグを買った?」は「むかし買って今もつかっている」ので現在完了形がふさわしいはずです。おなじく「車をハイブリッドカーにした?」も現在完了形にしました。

・「車をハイブリッドカーにした?」
 「初めて買う車をハイブリッドカーに決めた」と解釈することもできるかもしれませんが、ここでは「今まで乗っていた車を(まだ乗れるのに)新しいハイブリッドカーに買い替えた or 切り替えた」という意味でとらえました。
 "upgrage to"(にアップグレードする)という動詞も候補にあがりましたが、"switch"にしました。

第2パラグラフ

・段落とパラグラフはちがう?
 ここは「はっきり言おう。その善意だけなら無意味に終わる。それどころか、その善意は有害でさえある」という、3つの短文でひと段落になっています。英語のパラグラフとしてはすこしみじかすぎる気がします。前の文か後ろの文にくっつけてまとめたほうがいいかもしれません。
 石井隆之『英語スタイルブック』クロスメディアランゲージ(2019年)によると「パラグラフは2行以上、10行以下が望ましい」とのこと。自分の訳文だとギリギリ2行なので、単独のパラグラフとして大丈夫……そう?
 この3つの文は簡単そうにみえてニュアンスを表現するのがむずかしい箇所だとおもいます。採点ポイントのひとつではないでしょうか。

・「はっきり言おう」
 これは「率直に言って」という意味でとらえて、次の文につなげることにします。書き方としては、To be frank (with you) [Frankly (speaking)]などいろいろありますが、いちばん短い"Frankly,"にしました。
 流れだけをかんがえると"Unfortunately,"などでもいいような気もします。

・「その善意だけなら無意味に終わる」
 ウィズダム英和でintentionを引くと
――with good [the best (of)] intentions 善意で[ひたすら善意をもって] (!結果は良くないことを暗示; → well-intentioned) .――
 と、あったので「善意」は"good intentions"としました。
 「善意だけ」なので"alone"をたしましたが、ここはあまり自信がないですね。"only"や"just"はどうなのか、他にもっといい表現があるのか……。
 「無意味に終わる」は"meaningless"や"no use"なども頭にうかびましたが、「実りがない」という"fruitless"にしました。

 ・「それどころか、その善意は有害でさえある」
 
「有害でさえある」は"they can even be harmful"でまちがいではないはずですが、be動詞より一般動詞をつかいたかったので"they can even worsen the situation"にしました。

第3パラグラフ

・「なぜだろうか?」
 ふつうなら"Why is that?"と訳すところですが、できるだけみじかくきりつめたかったので"Why?"の1語だけにしました。2024年3月号に「なぜならば」を"Why?"と訳した【試訳】がのっているので問題ないでしょう。

・「温暖化対策をしていると思い込むことで,真に必要とされているもっと大胆なアクションを起こさなくなってしまうからだ」
 「〜と思い込むこと」を無生物主語にしました。はじめ"The illusion that  you …"と同格の名詞節をくっつけていましたが、"The illusion of your …"というふうに名詞句に圧縮しました。 
 「対策」は第1パラグラフでつかった"take measures"をくりかえすのではなく"countermeasures"の1語にまとめ、「温暖化」は"warming trends"で言い換えました。
 ここでの「大胆な」という語は"bold"(度胸のある)ではなく、「抜本的な」という意味にちかいとおもうので"drastic"にしました。
 「真に必要とされている(アクション)」は、"action that is really[truly] needed"と関係代名詞節にしていましたが、もっとみじかくしたかったので"essential"という形容詞1語ですませました。

・「良心の呵責から逃れ、現実の危機から目を背けることを許す『免罪符』として機能する消費行動は、資本の側が環境配慮を装って私たちを欺くグリーン・ウォッシュにいとも簡単に取り込まれてしまう
 ここはまちがいなく採点ポイントのひとつでしょう。ムリに1文で訳そうとはせず、前半の主語部分と後半の述語部分をわけて2文で訳しました。
 前半は「消費行動は『免罪符』として機能する」を基本に訳します。
 この「消費行動」とは第1パラグラフにあるような行動のことを指しているとおもうので、"The consumption behavior"(消費行動)に"mentioned above"(前述の)をたしてつながりをもたせました。
 「免罪符」は英語版Wikipediaにも載っていた"indulgence"をそのままつかいました。
 「機能する」は"function"や"work"ではさすがに直訳すぎるような気がします。「消費行動=免罪符」と表現しようとおもい"corresponds to"(に相当する)をつかうことにしました。
 「良心の呵責から逃れる」はシンプルに"assuage your guilt"(罪悪感を和らげる)にしました。 「目を背ける」もはじめは"turn away"や"avert your eyes from …"などがありますが、シンプルに"ignore"(無視する、気づかないふりをする)の一語にしました。

・「良心の呵責から逃れ、現実の危機から目を背けることを許す『免罪符』として機能する消費行動は、資本の側が環境配慮を装って私たちを欺くグリーン・ウォッシュにいとも簡単に取り込まれてしまう」
 前半もなやみましたが、後半もむずかしいですね。前の文を受けて後半は(そして、)資本の側が(消費行動を)グリーンウォッシュに取り込む」というような意味が表現できればいいはずです。
 「資本の側」というのはやや抽象的なので"companies"(会社、企業)と具体的に訳し"greenwashing"(グリーンウォッシュ)の意味上の主語にしました。
 さて、冒頭からここまで「あなたはなにかしているだろうか」→「思い込みが、あなたがアクションするのを妨げる」→「消費行動は『免罪符』として機能して、あなたの罪悪感を減らし、あなたが現実の危機を無視するのを許す」というセンテンスをつらねてきました。なので、ここでも一般の人をさす"you"を主語にしたほうが流れがいいような気がします。
 そのまま訳そうとすると"you can easily be deceived"と受動態をつかいたくなります。"you"は被害をこうむるのでそれでいいかもしれません。しかし、動作主である企業またはを"by "でつなげる必要がありますし、ここから後にグリーンウォッシュの話がつづいていくわけではないので、なんとか能動態で表現したいところ。結局"be deceived"は"fall into"(に陥る)に書き換えました。

第4パラグラフ

・「では、国連が掲げ、各国政府も大企業も推進する『SDGs(持続可能な開発目標)』なら地球全体の環境を変えていくことができるだろうか」
 「では」は"Now then,"にしましたが、これはなんとなくです。
 「SDGs」を主語にすると修飾語が何個もついておもたくなってしまいます。そこで「各国政府や大企業」を主語にして「各国政府や大企業は、地球全体の環境を変えられるだろうか、国連のSDGsをとおして」という構造にしました。

・「いや、それもやはりうまくいかない」
 第1パラグラフの"fruitless"とおなじようにここも否定語をつかわず、にたような単語をつかって"prove unsuccessful"にしました。
 「も」は"also"もつかえますが文末にもっていきたかったので"too"のほうにしました。

・「政府や企業が SDGsの行動指針をいくつかなぞったところで、気候変動は止められないのだ」
 
「政府や企業が〜をなぞるようなやり方」→「彼ら(政府や企業)の〜の表面的なやり方」を無生物主語にしようとかんがえて訳語を検討。"scratch the surface"(上っ面をなでる)という熟語が候補にあがりましたが、最終的に"perfunctory manner"(通り一遍のやり方、おざなりな方法)にしました。「いくつか」はいちいち訳さなくてもいいかなとおもい省略しました。
 「気候変動を止められない」は"cannot stop climate change"とかんがえましたが、ここも否定語をつかわない表現にしようとおもい"exacerbates climate change"(気候変動を悪化させる)にしました。


訳文検討会

※5月中旬ごろ追記予定


成績・講評

※6月中旬ごろ追記予定


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