この声よ 君へ

「僕はどうしても僕のままさ」
「君はどうしても君のままさ」
「やめたりできない」

「もう顔上げて涙を拭きなよ」
「君の痛みは君のもの」
「そして優しくなれ」

そう優しく詩う充に「突き放された」と思った。
楽園と名のついた場所で、足元が崩れていくような寂しさと苦しさに襲われた。

BAND AGEではじめて聴いたときから、なんとなく、共感できなかった。
ただ、この時はサプライズのひまわりや、黒ちゃんのピックがとんできたりと、嬉しいことが多かったから、なんとなくで済んでいた。

両国でどう感じたのか記憶にないけれど、多分セットリストを見返すとGOD BLESSの余韻で違和感が薄まってたか、ALIVEで気持ちを持ち直したかだと思う。


「僕は僕のまま」と充が詩うのは珍しいことではない。
Thank youでは「何処まで行っても僕はきっと僕さ」と感謝をしつつも別れて、ANSWERでは「そして このままで君に逢いにいく」と答えを出す。

LIVEのMCで「みんなの痛みをすべて理解することはできないかもしれないけど」と語ることも沢山あった。

だけどエンドロールで「君に伝えきれなかった言葉が沢山あるけど」「それでいいさ伝わらない言葉がまた出逢わせてくれる」と、またおいでと言ってくれていた。
なにより、充はSOPHIAで「涙を拭け」と詩うことがなかったのに「顔を上げろ、涙を拭け」と言われたことが辛かった。

私が初めて自分で買ったSOPHIAのシングルはHARD WORKERで、カップリングのNEWSPAPERを聴いたときの驚きは相当なものだった。

「誰か助けてよ 知らんぷりばかり」
「何処で違ったの? 教えてくれないの?」

こう叫んでいた「あの子」は私だと思った。
SOPHIA 松岡充に、完全に心を奪われた瞬間だった。
そしてそこからずっと、私は共感を求めてたから。


俺はどうしようもない自分を受け入れたから、同じように、受け入れられるだろう?
いつまでも泣いてないで、涙を拭いて優しくなれ。
今も、その充の言葉は間違えてはいないとも思う。

だけど、私が、SOPHIAに、充の詩に、求めていた優しさも共感もなくなっていくんだと思った。
もういくらステージに手を伸ばしても、この手に共感をつかむことはできないんだと思った。
ありのままの自分を、現実を受け入れられない苦しさや悲しさや、寂しさを、それでも抱えて頑張りたいって此処にいるのに、もう同じように苦しんではくれないんだと思った。

だけどそんなショックをうけながらも、都の病気を経て、自分も子どもをもって、生活がすべて変わっても、SOPHIAに逢いたい気持ちは変わらなかった。
数ある楽曲のほんの2曲。
たまたま充の言葉のベクトルが私には合わなかったんだと思いたかった。

都が戻ってきた武道館ではどちらの曲もやらなくてほっとした。


だけど、充が「みんなに寄り添って作ったつもり」と言う未来大人宣言はやっぱりそれまでのアルバムに比べて共感はできなかった。

好きだなと思ったのは、どこか過去を振り返る詩ばかりで、今や未来を詩う声は私には響かなかった。

此処から、別れていくんだろうなと思った。
私が私を受け入れられるようになったら、充のあの詩に共感できるようになったら、いつかまた逢いに来ればいい、と思い始めた矢先の活動休止の発表でもあった。

私と、SOPHIAの距離が離れても、活動しててほしかった。
活動休止と言われたとき、どこか納得した自分もいたけれど、勝手だけど、逢いたいと思えたときに、逢えないとは考えていなかった。

だから、その頃にはもう私の大好きな5人の形ではなくなってしまっていたけど、活動休止の前に逢っておきたかった。

そして最後の1曲まで、メンバー間に流れる、道を別つ雰囲気は辛かったけど、それでもいつかまた5人の気持ちが揃うことを、そして私がまた逢いにきたいと思える日を、待っているつもりでいた。

だけど「抱き締めてあげよう」と詩いはじめた充に「裏切られた」と思った。
SOPHIA休止前の最後の演奏なのに、なんでSOPHIAの曲じゃないのか。
「ずっと傍にいるから 涙ふいて」なんて、休止してしまうのに。

今までみたいに構成を5人で決めてないんだなと思った。とにかく悲しかった。
伝わらない言葉が、また出逢わせてくれるとは限らないんだと知った。
私が好きだったSOPHIAにはもう逢えないんだと、もう帰ってこないんだと思った。

それでも奇跡を信じようとした。
言葉を選べと決定的に突き放されても、もしかしたらと思い続けたかった。
だけど、9年の月日はあまりにも長かった。


信じることはとうに諦めた奇跡が起きたとき、今の充は何をどう詩うのだろうかと気になった。
だけどその反面、復活の経緯をきいて、充がSOPHIAの針のために周りを脅して動かしたようにも感じていたから、そんな気持ちで5人で新しくなにかを作るのは無理じゃないかとも思っていた。

新曲を出すと知ったときも、願ってはいたけど怖かった。

また、バラバラになるんじゃないか。
新しいSOPHIAはちゃんと5人で作ってくれるのだろうか。
あの、諦めに限りなく近い悟りを詩われたら、きっと奇跡で沸いたこの気持ちはまた覚めてしまう。

作曲が松岡充であることに、がっかりしなかったといえば嘘になる。
だけど、都がアレンジをしたと言うメロディはすんなり耳に入ってきた。
「踏み込んでくんなよ」と詩う充が手を差しのべてくれた気がした。
もう一度、受け入れられない側に寄り添ってくれるんだと思った。

過去を振り返る訳じゃなく、今を詩う中で、突き放すようなこの言葉が、10年前のどんな優しい詩よりも嬉しかった。
10年経っても、まだありのままを受け入れられない自分は情けないけれど。

どうか「この声を」でも「君に」でもなく、届けと願いをこめた「この声よ 君へ」で終わるこの詩が、私と同じように突き放されたと思った誰かにも、裏切られたと感じた誰かにも、届きますように。

そして、期待して待っていたい。
充以外のメロディーが聴けることを。

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