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定食屋で織りなす人情物語「定食屋「雑」」(^。^)

本(定食屋「雑」)

「三千円の使い方」や「ランチ酒」などで人気の原田ひ香さんの小説です。私がこの作家の小説を最初に読んだのが「三千円~」で、次が「ランチ酒」でした。最初の作品は財テクの参考になりましたし、「ランチ酒」は個人的に料理と食事、お酒も好きなので、結局シリーズ3冊全部を読んでしまいました。

今回は本の題名の通り、店名が「雑」という定食屋の物語で、各章ごとに料理名が付いています。第1章がコロッケ、第2章がトンカツ、第3章から揚げ、第4章ハムカツ、第5章カレー、第6章握り飯といった具合です。70代の女主人と30代の女性従業員、さらに妻に先立たれて1人暮らしの高齢の男性客、物語はこの3人の人生模様を描きながら、それぞれの章のもう1つの主人公である料理を交えながら、展開していきます。

シナリオライター出身の筆者ならではの人情物語とでもいえそうな内容で、店を親戚の先代から引き継いだ女主人の過去から現在までの人生模様や、女性の従業員が抱える夫婦の事情、また1人暮らしの男性客と娘家族との関係など、どこにもありそうな家族関係の強弱を描いています。
それは社会のおける女性や高齢者など差別を受けやすい弱者からの視点であり、そうした本人たちの視線は夫婦や子供、孫などの家族関係にも、知らない内に反映されているかもしれません。

そうした描写と並行しながら、各章の料理が美味しく出来上がっていく訳ですが、この食堂で使う料理の材料や調味料は、から揚げに使うメキシコ産の鶏肉や、様々な料理の調味料として活躍するすき焼きのたれなど、決して高価なものや本格的なものではありません。
そんな安い材料でも女主人の一工夫で、美味しい料理に変身させるのは、長年の調理経験による勘と、客から美味しいと言われた時の喜びがその原動力かもしれません。

名もなき市井の3人が描く人間模様は、高価ではないこうした料理と相通じるものがありそうです。どこにでもあるコロッケやトンカツ、から揚げはA級グルメではありませんが、誰にでも愛されるB級グルメであり、人々のそれぞれの人生に密接な関係がある食べ物であるといってもいいと思います。

女性や高齢者など社会的には弱い立場の人たちが抱える人生の悲喜こもごもを、料理と共に描いて少しほろ苦く、そして少し温かい気持ちになりながら読み続けると、コロナ禍の中で店も含めた社会が激変する中でも、少しだけハッピーになれるエンディングになっていました。

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