見出し画像

「映画 やせたガールの日常」

画像引用:コミックナタリー(https://natalie.mu/comic/gallery/news/62466/104872
美内すすえ「ガラスの仮面」名シーン15。掲載:花とゆめコミックス12巻「ライバルのママのキス」



「君たち5人は、僕が演れる! と感じて厳選した5人だ。今日のオーデションで3人に絞る。やせたガールとしての、日常感を出してほしい。準備時間は3分!」

黒田監督が説明すると、5人に1枚の紙が配られた。

「脱落方式と言うわけね。」

と亜弓。

「脱落方式――?」



聞けばわかる言葉を、大げさに受け取る、マヤ。

「思いもよらぬところで会ったけれど、ぞんぶんに演り合いましょう。」


と亜弓がマヤに言う。

「ええ。亜弓さん。」



マヤの言葉には、ほのかな自信が垣間見えた。

「受けて立った。受けて立ったわ、この子。恐ろしい子!」


亜弓がパーッと走り去り、トイレに駆け込む。

「わたしは、あなたに勝ったと思ったことが一度もないのよ、マヤ。でも、わたしの努力、汗が勝るときが来ると、信じているの。」

ばっと立ち上がる、亜弓。

「紅天女。この役を演れたら、パパやママの子だからなんて言われなくなる――。」



いや、今日は、映画「やせたガールの日常」のオーデションなのだが。


会場に戻る。あいかわらず、マヤはセリフを前にブツブツ言っている。

「やせたガールの日常。そうだわ!」


と、マヤが言う。

「こんな短いセリフでも、審査員と言う名の観客の前で、お芝居をするのよーー。」


亜弓も言う。

「このセリフを、鍛え上げたこの肉体で表現できるわ。」



――オーデション。


マヤは、服にたくさん詰め物をして、スナック菓子を食べながら、
「ヤセたいわー、ヤセたいわー。」
と繰り返す太った女を演じた。

亜弓は体脂肪3%の体で、
「もっと、ヤセるのよヤセるのよ!」
と。エクササイズを繰り広げる女を演じだ。

「結果は……劇団ゼブラの澤乃井みちるちゃんですー!


満場一致で決まったから、もうオーデションは必要なし! 学校帰り、アイスを食べようかどうしようかの『ためらい』『葛藤』『逡巡』の演技が、すごくよかったねー。おめでとう!」



ガーン。

マヤと亜弓が、そろって落ちた。


黒田監督が来る。
「君たちさあ。やり過ぎなんだよ。マヤちゃんは、単なる引きこもりに見えるし、亜弓さんはマッスル・クレイジーにしか見えないし。またの機会に仕事しようね。じゃ!」



ガガガーン!

「あたし、やせたガールの仮面を、かぶれなかった……。」
「わたしの努力……、それによって、すでに、やせすぎたガールだった、と。」


制作側も、そんな体の持ち主の亜弓に、オファーしなきゃいいと思うが。

「なんと、大どんでん返し! 紅天女候補がそろって落選だよー!」


と、街には号外が配られている。

「これが目的だったんですのよ。亜弓お嬢様。」

と、ばあやは言う。

「いいえ。やせたガールを理解していなかったのは、わたしよ。完敗だわ。あら、マヤはどこに? 本当の天才はあの人なのに。」


控室を見渡すと、隅っこに向かってしゃがんでいる、マヤがいた。


「マヤ! あなた、大丈夫?」
「おらぁ、タヅだぁ。」


は? マヤが、マヤが初めて錯乱している。

「ばあや、早く救急車を! そして劇団つきかげの人たちも!」


「は、はい。」

ピーポーピーポー。

救急車を待つあいだも、マヤは錯乱しっぱなしだ。
亜弓が側で付き添っている。

マヤ「ああ、あれがオリゲルトお姉さま……。」
亜弓「ああ、ふたりの王女ね。共演したわね。」
マヤ「信さん、これでおふきよ。」
亜弓「たけくらべね、同じ演目で二人主役で、張り合ったわね。」
マヤ「アア、ウォーウォー。」
亜弓「奇跡の人のヘレン・ケラーね。ダブルキャストでやって、ママがあなたにキスをしたのよね。」


――ちょっと、マヤ、あんた、錯乱しながら、わたしと同じ舞台に立った役だけやってない? 

最後にママのキスの舞台って、それって嫌み?



マヤ「ウオー、ウオーラー。」


ああ、才能があれば、人をにバカすることも許されるの? 今なら、やせたガールの気持ちがわかりそう……。

もちろん、わかるわけがない。亜弓の勘違いである。それに、やせたガールは、人を馬鹿にするキャラではない。

亜弓の精神にも、「錯乱」の二文字が忍び寄ってきていた。


よろしくお願いいたします!


よろしければ、サポートお願いします! いえ、充分、サポートされていると思うのですが。本当にありがとうございます!